月別アーカイブ: 2012年5月

ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その2:応用編

ここ1年のお勧め本、前回の基本編につづいて応用編です。

 

『ショッパーマーケティング』
前回の基本編で取り上げようかと思ったのですが、専門性が高いのでこちらに。

ショッパー・マーケティング ショッパー・マーケティング
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-04

近年、広告代理店でも「買場」を研究する専門部隊がつくられ、いくつかの本も出版されています。消費者(コンシューマー)を、使用者(ユーザー)としてだけ理解していては不十分で、買物をする人(ショッパー)としても理解しないといけないという流れです。
本書は、日本でのISM(インストア・マーチャンダイジング)や購買者研究の総本山ともいえる流通経済研究所編集とあって、これまでの研究成果が体系的に、かつ具体的にまとめられているといえます。もくじをみると、本書の内容が理解できると思うので紹介しておきます。

第1章 ショッパーマーケティングとは何か
第2章 欧米で注目が高まった背景
第3章 なぜショッパーを捉える必要があるのか
第4章 買物中の意識と店内購買行動の活用法
第5章 ショッパーインサイトを捉えるための技法
第6章 コンシューマーインサイトとショッパーインサイトを統合する店頭マーケティング
第7章 ショッパー行動観察からの売場づくり
第8章 ショッパーの購買行動に基づく店頭コミュニケーション
第9章 FSPデータの活用法
第10章 ショッパーマーケティングにどう取り組むか
第11章 日本コカコーラのショッパーマーケティングへの取り組み
第12章 ロッテのショッパーマーケティングへの取り組み

ショッパーマーケティングの背景や意義の理解(1~4章)、ショッパーの行動や心理を把握する調査手法(5~9章)、そして企業による事例(10~12章)と、ショッパーマーケティングを総合的に理解ができる構成になっています。
最終の価値伝達の場としての買場は一層重要になっていますし、とくに消費財のマーケティングには欠かせない考え方だと思います。(そして、リアルでも、ネット上でも、応用可能だとも思います)

『次世代コミュニケーションプランニング』
つぎに、以下で紹介する本を理解するベースとして読んで欲しい本。

次世代コミュニケーションプランニング 次世代コミュニケーションプランニング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-03-30

基本的には「広告・PR人のための新しいプランニング思考法」(帯より)の本です。
しかし、よくあるハウツーものでも、「~すべき」や「~力」といった類の本でもありません。著者がはじめにで書いているように、「本物の変化を把握するための基礎力をつけるための本」であり、「考える癖を読者のみなさんに提供したい」というスタンスの本なので、マーケティングリサーチにも十分に応用が効きます。それに、同書のシリーズである『次世代マーケティングリサーチ』でも触れられていたように、広告とマーケティングリサーチは表裏一体の関係にあるので、マーケティングリサーチを理解しようとするならば、当然、広告・コミュニケーションの理解は欠かせません。
この本をリサーチという視点から読み解くことで、著者のいう「!」や「?」を感じることができるのではないでしょうか。たとえば、P24後段の文章などは「コミュニケーションプランニング」を「リサーチプランニング」に置き換え、他の言葉も少しだけ置き換えれば、ほとんど意味が通じますし、いまのリサーチが置かれている状況が示されているともいえます。他にも、「オーダー」と「オファー」(p18)、「マスからトライブへ」(p97)などの論点は、マーケティングリサーチを考える上でも重要なポイントですし、リサーチそのものについての言及もあります(p46やp57)。
そして、この本のキー概念でもある「コンテクスト」。私がリサーチとの関わりで理解しようとした言葉でもあるのですが、3年くらい前までは耳にすることの少ない言葉でした。ところが今は、これからのマーケティングを考える上では欠かせない言葉になっていると思います。
そして、以降で紹介する本を理解するためにも、この「コンテクスト」という言葉の理解は欠かせません。

『リッスン・ファースト』
関連して、帯に「ソーシャルリスニングの教科書」と書かれている、こちらの本。

リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書 リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-04-13

まさに教科書。
ソーシャルリスニングを、マーケティングの過程の中でどのように活用するかが事例を交えながら整理されています。既刊のソーシャル系の本は、どちらかというと考え方~時代的背景や、なぜリスニングか、いくつかの典型的な事例など~を示した本がメインでしたが、本書は実務に繋がる視点でソーシャルリスニングを体系的に整理しています。
扱っている領域は経営やマーケティング全般で、消費者理解、商品開発、コミュニケーション、ブランディング、カスタマーリレーション、予測といったテーマが、事例を交えながら紹介されています(ただし、事例は当然日本のものではないので理解が難しいものもありますが)。また、この分野に関わる日本の識者のコラムや対談を挟み込んでいるので、日本の状況を踏まえた視点も補えるのも、本書の特徴でしょう。
これまでのソーシャルメディア系の本では実務に活かせないなと思っていた方に、お勧めの本だと思います。
(個人的には、個別の方法論や事例よりも、Part4の「リスニングの新境地」がおもしろかったのですが、これは関心領域の違いなので・・・)

『異文化適応のマーケティング』
つづいて、グローバルマーケの本のように見えて、実は異文化論という視点が参考になる、こちらの本。

異文化適応のマーケティング 異文化適応のマーケティング
価格:¥ 4,620(税込)
発売日:2011-06

本書、帯には「国際マーケティングの本格テキスト」とあり、一見するとグローバルマーケティングの本のように見えますが、原題は、“Marketing Across Cultures”。どこにも global とか  management 、economics などの単語は入っていません。
監訳者の小川先生(法政大学大学院)が指摘するように、「社会心理学と消費文化論をベースに、国際マーケティングの分野に新しい視点を提供している(p.609)」点がおもしろい本です。さらに著者は欧州系の方なのですが、そのため米国流のマネジリアルなマーケティングとは趣を異にする視点が見られるのも特徴的ですし、おもしろい点です。
もくじを見ると、消費者行動、消費のグローバル化、市場調査、製品政策、価格、販促、コミュニケーションが扱われ、まさにグローバルマーケティングを文化の視点から考えるための教科書になります。とくに6章の「異文化での市場調査」は、“等価性”という視点から国際的な市場調査の課題を指摘しているので、これからグローバルリサーチに携わらなければならない方は、この章を読むだけでも参考になるでしょう。
しかし、ここで本書を紹介したい理由は別にあります。それは、『次世代コミュニケーションプランニング』でも言及されていた「トライブ」との関わりです。トライブとは「部族」のことなのですが、ハイコンテクストと言われる日本でも人々の均質性は弱まり、さまざまな興味や関心のもとにトライブ(部族)を形成しているのではないかと考えています。そうなると、これはまさに「異文化」を理解するためのリサーチ、マーケティングと同じ考え方をとらなくてはいけなくなります。エスノグラフィという手法が注目されているのも象徴的です。このような視点に立つときに、本書の意義は、ぐっと大きくなってきます。
とくに前半の1章から6章まで(構成は、文化というプロセス/文化のダイナミクス1:時間と空間/文化のダイナミクス2:相互作用、考え方、および行動/異文化間の消費行動/ローカルな消費者と消費のグローバル化/異文化での市場調査、となっています)は、このような視点で読むと参考になることが少なくないでしょう。
グローバルマーケティングに関わる人はもちろんですが、その他の方にも参考になる本だと思います。
(ただし、600ページにも及ぶ本ですし、お値段もそれなりので、ぜひ購入をとまでは言えません・・・)

『マーケティング・コンセプトを問いなおす』
マーケティングについて、もう一度考えてみたい人へ、おすすめの本がこちら。

マーケティング・コンセプトを問い直す --状況の思考による顧客志向 マーケティング・コンセプトを問い直す –状況の思考による顧客志向
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2012-05-01

著者の栗木先生(神戸大学大学院)は石井淳蔵先生門下、なので石井先生のマーケティング論に興味を持っている方には、お勧めしたい本です。
現代のマーケティングコンセプトでもある「顧客志向」ですが、この単純明快な命題、真理がありながら、なぜいまだにマーケティングを学ぶ必要があるのか?、これが思考の原点になっています。結論を急ぐなら、それは現実が「状況」に根ざしたものだから、となります。「状況に根ざしつつ、状況を乗り越えることを導く(p.ⅵ)」ということが求められているのです。(そして、この状況についての考え方は、リサーチ不要論を安直に唱える人にも理解しておいてほしい視点です。最後に少し触れます)
このようなことを論理的に展開していくのですが、論文がベースとなっているので決して読みやすくありません。しかし、コトラーに代表されるマネジリアルなマーケティングに限界を感じている方には、発想の広がりを得るヒントになる本だと思います。
また、本書にはリサーチに関連した章が2つあります。
ひとつは6章の「デザインの罠」。リサーチでの属性評価(味は、パッケージは、値段は・・・と個別に重視度をとるような調査)の罠について言及しています。これは、リサーチのベテランだとすでに気づいている課題だと思いますが、最近のリサーチ不要論には、この罠の未理解もあるようにも思います。
そして7章、「マーケティングリサーチの罠」。論理実証主義、批判的合理主義、社会構築主義という3つのリサーチの基本的な方法論を検討しつつ、マーケティングリサーチについて考察しています(正直、難しいです)。

マーケティング・リサーチは、未来を予測する万能のツールではない。この限界を忘れて、普遍法則が成り立つことを前提とした思考や実践にのめり込んだときに、マーケティング・リサーチは企業の経営者やマーケティング担当者をマイオピアに導く。このような罠に陥らないためにも、マーケティング・リサーチには、規則や秩序の局所性の反省、すなわちマイオピアを乗り越えるという、もう1つの役割があることを忘れてはならない。(pp.165-166)

そして、

マーケティング・リサーチには、マイオピアを解くこと、そして状況の構成を解くことの2つの役割がある。(p.227)

としています。個人的には、かなり共感できる結論です。この結論に至る過程を理解したい方、本書をどうぞ。

(参考:
栗木先生の、このマーケティング・リサーチ論についての発表が、(2012年)6月2日(土)に関西学院大学で開催される日本消費者行動研究学会(JACS)のカンファレンスであるようです。詳細は、下記のページで確認してください。

http://www.jacs.gr.jp/conference/44.html )

 

また本書に興味のある方は、関連して石井先生のこちら ↓ の本もどうぞ。
栗木先生の本に増して難解ですが。。。

マーケティング思考の可能性 マーケティング思考の可能性
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:2012-01-27

こちらの本を適切に紹介するのは難しいので、石井先生がインタビューを受けている、こちらのHPを参考にしてください。。。

異様なところに「触角」を伸ばせ(第1回)
著者インタビュー(前篇) プロフェッショナルの知性を刺激する1冊『マーケティング思考の可能性』石井淳蔵(流通科学大学学長)著
(PRESIDENT Online スペシャル:2012/5/10)

『価値共創時代のブランド戦略』
最後は、ブランド戦略の本です。

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦 価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2011-04

こちらも、アーカーによるマネジリアルなブランド論の次、といった感じの本でしょうか。
本書の目的について序章では、「本書は、こうした価値共創の問題をも視野に入れつつ、価値と関係性という2つのキーワードを基軸に、近年に展開された新たなブランド論の内容を、ケースも交えつつできるかぎり体系的に解説していくことにしたい(p.12)」としています。
アーカーやケラーをはじめとした、これまでのブランド論をきっちりとおさえながらも、「価値」と「関係性」といった21世紀の議論をふまえつつ整理しています。
ブランドに関する理論を、いまの視点も踏まえながら理解したいという方に、おすすめですし、ブランド論にこだわらなくても、価値共創とか関係性ということを理解したい方にも、参考になる本だと思います。
(ただし、こちらも論文集なので、読みやすくはありません。。。)

 

以上、ここ1年くらいの本で応用編といえるものを紹介してきました。
ここまで読んでいただければわかると思うのですが、問題意識としてあるのは、世の中に絶対的なものはなく、相対的な状況の中で位置づけられるという考え方です。おそらく、「解釈主義」といわれる考え方に近いと思います。
リサーチの古典的な考え方だと、普遍的な解(たとえば、事実とか、ニーズとか)が存在し、それを明らかにしていくのがリサーチというような捉えられ方をしていたと思います。しかし、今回紹介した本を読むと、リサーチも絶対的な解の存在を前提にして「正しい答え」を求めるような考え方からは脱却しなければならないと思えます。すべてのリサーチの結果は状況に依存しているのだし、リサーチで得られるのはある特定の状況の元での事実でしかないということです。このあたりについては、また機会を改めて整理していきたいと思います。
いずれにせよ、これまでのマーケティング論の主流であった、西洋的な要素還元主義、絶対主義、理論を前提にした考え方に疑問を感じたり、そこまででなくても何かが違う感じがする、何かヒントはないだろうか、と考えている方には、今回ご紹介したような本を読んでみると、頭を揺さぶられる感覚を得ることができると思います。

(ただし、だからといって、このような相対主義的な考え方をベースに実務を実践するのは難しく、これらの本を読んですぐに実務に役立った、ということもないと思いますので、その点は前提としておいていただければ。そしておそらく、いまだに解釈主義はどちらかというと異端だと思いますし)

ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その1:基本編

ゴールデンウイークを利用して、積読になっていた本を少し整理しました。
この1年くらい、こちらのblogで本の紹介をしていなかったので、これを機に、主だったものを紹介しておこうと思います。あまり経験がなく、これから勉強していこうという方向けの基本編と、専門書を中心に少し変化球ぎみの応用編の2回にわけて、紹介します。
(出版されてから時間が経っている本が多いので、すでに購入された方もいるかと思いますが、その点はご容赦を・・・)

今回は基本編です。ただし、「自分はベテラン」と思っている人にも参考になると思います。

 

◆ものの見方、考え方についての本

昨年は、ものの見方や考え方、科学的リテラシーとは何か、あるいは統計・確率に関する本が多く出版された印象があります。おそらく、原発事故に伴って溢れ出た様々な情報やデータに多くの人が振り回された状況があったからだと思います(実際、これらの本の内容も、原発に関連した情報を検証するという内容のものも少なくありませんでした)。
日々の暮らしの中で接する情報をどのように読むのかということは、ふだんの生活を行う上でも重要ですが、これらの本が提示している内容は、とくにリサーチャーにとっては重要なベースとなるものです。

『自分のアタマで考えよう』

自分のアタマで考えよう 自分のアタマで考えよう
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-10-28

著者のちきりんさんのblog(→ こちら )は、その視点がユニークで、硬直したアタマではなかなか見ることのできない世の中の側面を提示してくれる、おすすめのblogです。各エントリーが平均4万人に読まれ、月間100万~150万のページビューを集めるということからも、そのおもしろさは推して知るべし、でしょう。
そして、このblogの発想の元となっているのが、この本で提示されている思考の方法論。
「はじめに」で、“この本が、「考えるって、つまりなんだよ?」と思われている方、「なにをどう考えればいいのか、誰か教えてくれよ!」と感じていらっしゃる方のお役に立つ”ことを目的として本書を書かれたとあります。
大枠は「もくじ」を見るとわかるので、紹介しておきます。

序:「知っている」と「考える」はまったく別モノ
1:最初に考えるべき「決めるプロセス」
2:「なぜ?」「だからなんなの?」と問うこと
3:あらゆる可能性を検討しよう
4:縦と横に比べてみよう
5:判断基準はシンプルが一番
6:レベルを揃えて考えよう
7:情報ではなく「フィルター」が大事
8:データはトコトン追い詰めよう
9:グラフの使い方が「思考の生産性」を左右する
終:知識は「思考の棚」に整理しよう

Amazon評では辛口の評も少なくありません。フレーム思考にすぎない、厳密性に欠ける、偏ったものの見方、一般的すぎるなどなど。しかし、ここに書かれていることは分析の基本的な思考法として知っておくべき内容だと思いますので、読んでおいて損はないと思います。とくに、まだまだ分析がよくわからないという方のベーシック本として、お勧めしておきます。

 

『「科学的思考」のレッスン』
さらに、アカデミックに振って「科学的思考」を学ぶための本が、こちら。

「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書) 「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)
価格:¥ 903(税込)
発売日:2011-11-08

“アカデミックに振って”と書いたので敬遠したくなる人もいるかと思いますが、リサーチを仕事とする人にとって、この「科学的思考」を学ぶことは不可欠です。
こちらも「もくじ」を見ると、求められていることの大枠がわかると思いますので、紹介しておきます(ただし、2部構成の前半だけ紹介します。後半は、まさに原発問題を題材とした科学リテラシーについての内容ですので、読まなくてもいいかなと・・・)。

第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
第2章 「より良い仮説/理論」って何だろう?
第3章 「説明する」ってどういうこと?
第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?
どのようにして確かめられるの?
第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?

まさにリサーチの根本に関わる問題。
このあたりの概念や方法論が理解できているかどうかで、リサーチャーとしての質は問われるのではと思っています(定量調査に限らず、です。はやりのデータサイエンティストさんも同じ)。
リサーチにかかわる人には、必読本だと思います。

◆リサーチの本

リサーチに関する本、しかも基本的な本もいくつか出版されています。

『アンケート調査入門』
まずは、マーケティングリサーチやマーケティングサイエンスについての著書を多く書かれている朝野先生編著による本。

アンケート調査入門 アンケート調査入門
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-08

本書の特徴は、著者が事業会社でのリサーチ担当者だということ。内容も著者の皆さんの経験をベースに書かれているので実務的で、トラブルシューティングなどの工夫もあるなど、タイトル通り入門書としても読める内容だと思います(この部分の構成は、リサーチプロセスと実行管理/アンケート票の作成/テキストデータからの情報抽出/データの集計と統計解析/統計モデル/情報発信、となっています)。
ただ、この本で読んで欲しいのは、実は1章~3章です。ここは、リサーチの入門者には少し難しいかもしれません。一方でリサーチのベテランにとっては、これまでの考え方を揺さぶられる内容になっていると思います。古典的な統計調査の考え方に安住することの危険性を示してくれます。しかし、「いまのリサーチ」を捉えるには、理解しておくべき内容でしょう。ここに記されている背景や考え方を理解しているかどうかで、リサーチへ取り組む際の“深み”に違いが出てくるのではないかと思います。
(そういう意味では、第1章~3章と4章以降のレベル感や内容に、ギャップがあるとも言えるのですが…)

 

『インタビューのプロが教える、「ホンネ」を語らせる技術』
こちらは、インタビューのノウハウについての入門書です。

インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術 インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-02-08

著者は、定性リサーチ会社(アクセス・ジェーピー)の代表。この会社での若手社員の教育向けに書き溜めた原稿をベースに書かれている、と紹介されています。
インタビューのための準備や仕込み、さまざまな投影法の紹介、インタビュー現場でのノウハウなどについて書かれています。掛け値なしの入門書、これからインタビュー調査をやらなければならない人、やってみたい人にとっては、よい参考書になると思います。

 

『図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本』
こちらは、10年前に出版された『図解でわかるマーケティングリサーチ(2001)』の改定版です。
基本的な構成や内容については大きな変更はありませんが、グループインタビューとインターネットリサーチについて加筆がなされています。
副題に「企画設計から、調査票の作成・実査、集計、分析、報告書作成まで」とあるように、マーケティングリサーチの全体像とポイントを理解したい人の入門書として、お勧めです。

図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本 図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-01-26

 

『オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック』
いまは、ソーシャルメディア・リサーチについても理解しておかないといけない時代でしょう。
そういう意味で本書は、オンラインリサーチやソーシャルメディアリサーチの基本を理解するためのベースとなる本だと思います。
構成は、オンライン定量調査/オンライン定性調査/ソーシャルメディア/特定分野の調査/マーケティングリサーチの最新動向とあるように、まさに網羅的(そのため、分厚く、お値段もそれなりにするのが、ちょっと。。。)
この分野を専門とする方には、基本を学ぶ、事典的に調べるための本として必携だと思います。

オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法 オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法
価格:¥ 6,300(税込)
発売日:2011-10-20

 

『1からの商品企画』
リサーチとタイトルにはないですが、リサーチを学ぶにはよい一冊です。

1からの商品企画 1からの商品企画
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2012-02

この本、商品企画を学ぶための本です。ただ、本来の商品企画・開発は、結構泥臭いものだし、この本のようにリニアに進むものでもないと思いますが、「1からの」とあるように入門書ですので、その点は留意を。実務的かというと、否、でしょう。
商品企画の入門書を、なぜリサーチ本として紹介するのかというと、この本で商品企画の過程でリサーチがどのように組み込まれるかがわかるからです。とくに、リサーチ会社に所属するリサーチャーは、商品企画・開発の全過程に関与することはできないので、企画プロセスとリサーチの関わりを理解するには、ちょうど良い一冊でしょう。さらに、最近注目されるようになったリサーチ手法も取り入れているので、手法の基礎的な理解~どんなときに使うのか、どのように進めるのか~に役立つと思うからです。
もくじを見ると、この意図が少し理解いただけるかもしれないので、簡単に紹介。

第1部:探索的調査
商品企画プロセス/インタビュー法/観察法/リード・ユーザー法
第2部:コンセプトデザイン
アイデア創出/コンセプト開発/プロトタイピング
第3部:検証的調査
市場規模の確認/競合・技術の確認/顧客ニーズの確認
第4部:企画書作成
販促提案/価格提案/チャネル提案/企画書作成/プレゼンテーション

最近、アップルやマクドナルドの事例から、商品企画にリサーチは役立たないということが喧伝されていますが、リサーチを矮小化して理解した、かなり単純化した議論だと思っています。本書で、リサーチの多様性と商品企画との関わりを学び、その上で判断しても遅くはないでしょう。

◆消費者行動論の本
リサーチャーの必須科目となる消費者行動論の本が、ここ1ヶ月くらいの間に立て続けに出版された(される)ようなので、一応紹介しておこうと。(いずれも未読です)
リサーチ本もそうなのですが、20世紀にまとめられた消費者行動論の本だけでは追いつかなくなった、ここ10年くらいの研究蓄積が整理されたということなのでしょう。
構成を見るかぎり、いずれも教科書的で網羅的な内容になっているようです。
(内容については、ご自身で確認してください)

 

最初は、消費者心理学の定番本として評価の高かった『消費者理解のための心理学(1997)』の改定版です。基本的な部分はそのままにおさえつつ、情報環境の変化によってもたらされた領域について、最新研究を取り入れながら改定をしたということです。
出版社紹介は、“モノやサービスを消費するとき、人は何に刺激を受け、どのように行動し、何を感じるのか。消費者行動を心理学から読み解く方法を、より現代社会に即して解説した改訂版。”

新・消費者理解のための心理学 新・消費者理解のための心理学
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2012-04

 

つぎに、早稲田の守口剛先生・竹村和久先生編著による著書。
出版社紹介は、“近年大きな発展を遂げている行動経済学、神経科学・脳科学ほか、社会学、文化人類学等の最新の研究成果を取り入れ、より学際的な研究の活発化が見られる消費者行動研究。伝統的な心理学的アプローチを基本に据え、消費者行動の基礎的な理論から先端的な研究動向までを解説、消費者行動研究の面白さが伝わってくる好著。”

消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで 消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで
価格:¥ 2,415(税込)
発売日:2012-04-16

 

続いて、基本書として優れた本が多い有斐閣アルマから。学習院の青木幸弘先生、法政の新倉貴士先生他による著書。
出版社紹介は、“消費者情報処理の理論を軸に,様々な段階の消費者選択に焦点を当てながら多様な消費者の行動を整理し,理解するための基本理論を易しく解説。消費者行動分析をマーケティング戦略,ブランド戦略につなげるための枠組みも提示する待望のスタンダード。”

消費者行動論–マーケティングとブランド構築への応用 (有斐閣アルマ)
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-05-12

 

そして、明治大学の井上崇通先生による著書。
出版社紹介は、“「マーケティングと消費者行動」「消費者行動のモデル化」「消費者心理」「社会のなかの消費者」の4部構成。消費者行動論の体系的な標準テキストを目指した著者渾身の書き下ろし。”

消費者行動論 消費者行動論
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2012-04

以上が、基本書として紹介したい本です。
消費者行動論のところでも書いたように、専門書については、ここ10年くらいに起きた環境変化に即して、改定された内容の本が少なくないことに気づきます。
最初に、入門者向けの基本的な本と書きましたが、そういう意味では20世紀に基本的な知識を習得したベテランほど、これらの本で新たな理論を理解しなければいけないのかもしれません。すべてのリサーチャーに、読んでおいてほしい本といえそうです。