寺子屋」カテゴリーアーカイブ

「仮説」ってなんだろう

Q子 うわー、ずいぶん久しぶりですね。世間では、新学期も始まり、GWも終わってますよ!

owl そうだね、まぁそのことは置いておいて。。。^^;
今日は、「仮説」について考えてみようか。P夫くん、仮説ってなんだろう?

P夫 いきなり再開して、またずいぶんばくっとした質問ですね・・・-_-
そうですね・・・、たぶんこうなんじゃないかとか、ああなんじゃないかと考えることですかね?

owl う~ん・・・。Q子さんは?

Q子 「ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。実験・観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる。」と、Yahoo!辞書の大辞泉にはあります。

owl まあ、そうなんだけどさ・・・。
たとえば、いまはボストン・レッドソックスの松坂大輔もつぎのようなことを言っていたらしい。

マウンドではいつも実験しているんだよね。仮説を立て実験し、結果を求め、それを分析し、将来つかえるかどうかを見極める。例えば実験しているものをジグソーパズルに譬えると、これまで百ピースで埋められていたものが、二百ピースになり三百ピースになる。そのコマは年々増えていく。コマが増えると埋める作業って難しくなるでしょ。それと同じように、年を追う毎に考えることが増えて、苦しみも増していくんだよね。でも、より細かいコマで埋めた方が完成したときに絵は綺麗になる。多分、この作業は引退するまで続けていくんだろうなあ・・・(『夢を見ない男・松坂大輔』)

マーケティング・リサーチって、実験みたいなものだよね。たとえば、このコンセプトで、このターゲットに、こんな商品をつくって、こんなふうに売れば、買ってくれるんじゃないか。これがまさに仮説で、調査でデータを集めて、分析して、ほんとうにそうかどうかを確かめる。まさに、松坂がマウンドでやっていることと一緒。
そして、仮説がなければ、実験も調査もできない。何を確かめればいいかわからないんだから。
よく、調査をするときに「仮説はなんだ」と言う人がいるけど、確かに「仮説なくして調査はできない」ということが、わかるんじゃない?

P夫 それはわかります。でも、調査のタイプには「実態把握型」「仮説探索型」「仮説検証型」の3つがあるって言っていたじゃないですか?(→こちら)
「仮説検証型」だといまのowlさんの説明で納得できますけど、他の2つはどうなんですか?「実態把握型」なんて、市場や顧客がどうなっているかわからないから、やるんですよね?それなのに「仮説が必要」って、おかしくないですか?

owl ほう、だいぶ勉強した?いい視点だね^^。
確かに、「わからないから調査をするんであって、仮説なんか立てようがない」って言う人もいるし、なんとなく納得してしまう。とくに「仮説探索型」の調査なんて、読んで字の如く、仮説を探すんだからね。
けど、ほんとうにそうだろうか?ほんとに、まったく仮説がない状態で、どんな調査をしようというの?ばくっとした仮説でも持っていないと、どこから手を着けたらいいかわかんないし、まったく無駄なことをしてしまうかもしれないと思わない?こういう考え方の人が調査をすると、「あなたは、どんな商品が欲しいですか」的な調査をしてしまうんだよね。わかんないんだから、直接お客さんに聞いてしまえ!ってね。

P夫 う~ん・・・。確かに、そうかもしれないですけど。。。
でも、なんかしっくりこないです。わからないことを知ろうとしているのに、「合理的に説明するための仮の説」といわれても、無理じゃないですか?

owl そう、そこだと思う。「仮説」という言葉に囚われすぎているんだよ。本来の意味は、「合理的に説明するため」のものかもしれないけど、最初にP夫くんが言っていた「こうなんじゃないか、ああなんじゃないかという考え」くらいに思っておけばいいんじゃない?

P夫 まあ、それならできないこともないと思いますけど・・・。

owl あまり納得できていない?^^;
この点について、割と明確に説明してくれている本がある。前にも紹介した『マーケティングリサーチはこう使え』なんだけどね。
この本では、仮説を、「現状仮説」と「戦略仮説」にわけて説明してくれているんだ。

このケースのように、失敗の原因がまったく掴めていない状況では、まず、その原因について仮説を立てる必要があります。この例では、厳密にいうと過去のことになりますが、こうした「事態やその原因」についての推察を「現状仮説」といいます。
この「現状仮説」があって初めて調査の企画ができるようになります。これがないと、誰に何を聞いたらよいのかわからないからです。・・・(中略)・・・
このように、実態を把握する際にも仮説が必要になるケースがあります。そして、この現状仮説を立てる際には、次の「戦略仮説」(次はどんな手を打てば上手くいくのか)の立案に結びつくような項目になっていることが大切です。
戦略立案に役立たないような現状仮説は意味がありませんし、さらに、現状仮説を持たないでやみくもにデータを集めることは時間とお金のムダを生むだけです。データを集めてから現状仮説を立てるのではなく、仮説を立ててからデータを集めるようにすることが大切です。

どう?現状仮説と戦略仮説の例も本の中では紹介してくれているから、もっと知りたかったら、本を読んでね。

さて、たとえば、調査票をつくるときのことを考えてみようか?
どうしてこの商品を選んだのか、という商品選択理由はよく調査項目になるよね?このときに、どうやって選択肢をつくるの?
やっぱり、こうじゃないか、ああじゃないかという現状についての仮説、さらにいいのは、こういう理由が多いなら、こういう手を打てるのではないかという次に繋がる仮説をもっていないと、もしかしたら、ほんとうは必要なことが聞けていないということになると思わない?そして、もっと怖いのは、ほんとうに必要なことが聞けていなくても、聞けていないということ自体に気づかない、ということなんだけどね。

Q子 でも、アンケートとかって、よく「その他」ってあるじゃないですか?あれでわかるんじゃないですか?

owl たしかに、「その他」の記述で、こちらの仮説の致命的な欠点に気づかされることもあるよ。ただ、それは「こういう視点があったのか」ということであって、その量的なボリュームは、わからないと思った方がいいから。
選択肢で示されているので、自分でも「そうだな」と気づいて○をする人もいるし、「他にもあるけど、面倒だからいいや」とその他に答えない人もいるから、選択肢の%と「その他」の%を同じ基準で比べることはできないでしょ?あらかじめ、しっかりと仮説を立てて、選択肢に入れていたら、もっと大きな数値になっている可能性があるからね。

Q子 確かに、そうですね。

P夫 でもですよ、調査の前に立てた仮説に囚われていると、本来はもっと大事なことがあるのに、逆に見逃すということはないですか?

owl 今日は粘るねぇ。でも、またまたいい視点だね。
仮説検証型の調査では限界がある、ということを言う先生もいるし、最近はやりの心脳系でもそういう視点に立っている記述が多いよね。
で・・・、私もそう思う^^;

P夫 ちょっと・・・-_-

owl 仮説検証型の調査の否定論者(といってしまっていいのかどうかですが・・・)の最右翼は、朝野先生だろうね。著書の中で、つぎのようなことを言っているよ。

かねてから朝野が指摘してきたことであるが、仮説検証型の調査は、とかく自由奔放な発想を抑えがちである。なぜなら仮説検証型の調査から得られる結論は、しょせん事前に決めた仮設がYesかNoかの範囲を出ないからである。だから、あらかじめ想定しなかったアイデアが仮説検証の調査から出てくるはずがない。したがって、画期的な事業や新しい解決策を発見しなければならないようなリサーチ課題には、仮説検証型の調査は無力であると思われる。すでに海外産業の追随期を終え、オリジナリティのある新事業を創出しなければならない21世紀の日本の市場においては、クリエイティブなリサーチの必要性は、従来以上に高くなってこよう。これまで「仮説を発見する調査」は非正統であるとして軽視されがちであったが、再評価されて然るべきであろう。(『マーケティング&リサーチ通論』)

ただね、間違ってはいけないと思うのは、ここで言っている「仮説」というのはいわゆる最初にQ子さんが言った意味での仮説で、自然科学的な合理主義のもとでの仮説だということだと思うんだ。それと、そもそもの仮説が凡庸なものであれば、いくら仮説検証を行っても、凡庸なものしか出てこないということ。いまいった仮説は、戦略仮説になるけどね。

P夫 言っている意味が・・・。

owl うん、整理をしないとね。
「仮説」といっても、自然科学で使われているような「合理的な説明をするためのもの」という厳密な意味での仮説、「AだからB」というような仮説だけだと考えなくてもいいんじゃないかということ。こうかもしれない、ああかもしれないということも仮説と捉えてもいいんじゃないか。
それと、仮説といっても「現状を説明するための仮説」と「今後どうすればうまくいくのかということを考える仮設」という2つがあるということも、大切な視点だよね。
そして、2月くらいに言っていたように、「仮説検証型」だけが調査じゃないということ。朝野先生もそのことを言っていると思うんだけど、「仮説(ここでいう仮説は、わりと厳密な意味での仮説の方)」を発見するための調査も、とても重要になってきているということ。
ただ、仮説を発見するための調査であっても、こうかもしれないというような広い意味での仮説がないと、調査設計はできない、調査をしても無駄になることも多いということ。
こんな感じで理解してくれるといいんだけど。。。
難しいよね、自分でもうまく説明できているかどうか自信がない^^;

P夫 なんとなくですけど、わかったような気がします。最後に、もうひとついいですか?
広い意味での「こうかもしれない」にしても、それを思いつくにはどうしたらいいでしょうね?
そこがわからないと、どうしようもないんですけど。自分で考えることには限界があるだろうし。。。

owl そうだね。これまで、ちょくちょく私が言っていたことがあるんだけど。それがヒントかな。

P夫 なんですか?わかる?Q子ちゃん。

Q子 現場、ですか?・・・

owl そう、現場。いくら、机の上や会議室でうなっていても、どうしようもないんじゃないかな。とにかく、売り場に行ってみる、買っている人を見てみる、買うのを止めた人を見てみる。いつ、どんな広告をしているのか、どんな販促をしているのかをみてみる。あ、ちゃんと家でね。買って欲しい人がどんな人なのか見てみる、話を聞いてみる。
なんのことはない、仮説探索型の調査をやっているようなものだけど。
ちょうどいい本があるから、つぎに紹介するね。

調査の目的とタイプ~整理

owl さて、これまで何回かにわけて、調査の目的とタイプについてみてきたけど、整理できたかな?

P夫 実態把握、仮説探索、仮説検証というタイプ分類については理解できたんですけど、なんていうんだろう・・・、やっぱりそんなに意識しないといけないことなのかなと・・・。

owl うん、確かに無理やり分ける必要はないのかもしれない。
ここで覚えておいてほしいことは、調査目的に沿って、いろいろな調査のやり方があり、設計するにあたって、こういう視点は欠かせないということ。そして、実態把握→仮説探索→仮説検証というサイクルを回すことが効率的なマーケティングには必要ではないかということなんだ。
けど、すでに行っているリサーチについて、これはどのタイプだと無理やりどれかのタイプに当てはめて考える必要はないよ。

たとえば、「マインドリーダーへの道」さんのblogにあった粉ミルクの事例について、考えてみようか。この事例で取り上げられた「母親は、粉ミルクの銘柄をどうやって決めるのか」についての調査は、どのタイプだろう?

Q子 『Y社市場調査課ではこの情報を検証すべく』と書かれているんだから、仮説検証型ではないですか?

owl そう、この文脈でいくと、確かに仮説検証型のリサーチと位置づけられそうだよね。
でも、「マインドリーダーへの道」さんも最後の方で書いている、『論理を大切にすること以前に、そもそも消費者が特定の銘柄(ブランド)を選好するプロセスやきっかけ、つまりは「消費者心理・消費者行動」を十分に理解できていなかったことが問題だったのではないでしょうか。』という意見に大賛成なんだよね。
つまり、この程度のことは、本来実態把握型リサーチで押さえられるというか、押さえておくべきことだと思うんだ。
そうなると、この調査の目的であった「母親は、粉ミルクの銘柄をどうやって決めるのか」ということについては、実態把握型で調査すべきか、仮説検証型すべきかという問題設定自体がナンセンスで、Y社はたまたま実態を把握できずにいたところに、営業情報から仮説を見出し、それを検証した、という整理が正しいということになる。

P夫 なんか、ますますわからなくなるかも・・・。

owl う~ん・・・^^;
こういう例えではどうだろう。みんな、健康診断はしているよね?

P夫 まあ・・・

owl 健康診断は、なんでするの?

Q子 体に、どこか悪いところがないか調べるためじゃないですか。自覚症状はなくても、どこか悪いところがないかを定期的に調べることで、病気の早期発見をするという。

owl で、何か悪いところが見つかったら?

Q子 精密検査ですよね、やったことないですけど・・・。

P夫 ぼく、ありますよ。胃に影があるとかで、胃カメラを飲まされました。二度とイヤですけど・・・

owl 結果はどうだったの?

P夫 潰瘍が見つかったとかで、薬で治療をしましたけど。

owl で?直ったの?

P夫 再検査では、なんともないと。
僕の病気が、何の関係があるんですか?-_-

owl ごめんごめん^^;でもね、ちょっと考えてみて。

まず、毎年健康診断をしているよね。これって、いってみれば実態把握型のリサーチをしていることになると思わない?
そして、何かおかしなところが見つかったら精密検査をしてみる。これは、仮説探索型のリサーチ。具体的に、どのような病気かを健康診断とは別の手法で探し当てているんだよね。
で、治療をしてみる。これも、いってみれば仮説にあたるよね。この病気・症状なら、この治療法と薬って。そして、実際に直ったかどうかを再検査してみる。いってみれば、仮説検証型のリサーチ。
こうやって当てはめてみると、それぞれのリサーチの役割や位置づけってわかりやすくならない?

Q子 ほんとだ・・・。いってみれば、リサーチって企業の健康診断であり、精密検査であり、再検査であり、ってことなんですね。

owl そう思うよ。だから、実態把握型のリサーチが重要なんだよね、病気になる前にその兆候を発見しようというんだからね。それに、体も市場も、それぞれの個体で違うのだからふだんどのような状態にあるのかを知らないと、変化もわからないからね。

今度は、素直に実際の商品開発の事例で整理してみようか。
教材は、『新製品・新事業開発の創造的マーケティング』で取り上げられていた「からだ巡茶」にしてみよう。

1.現状把握と仮説整理
・世の中で起こっている事象を把握するためのデータ整理
→既存市場データ、時系列市場トレンド、消費者意識データ、飲料購入調査から
・有識者ヒアリングの実施
→コンビ担当営業部隊へのヒアリング、スーパー担当へのヒアリング

2.初期仮説設定と開発キーワードの整理

3.仮説の深化
・専門家ヒアリング
・店頭観察
・一般消費者の「漢方意識」調査(web調査)

4.仮説の検証
・マーケットサイズとターゲットの特定のための一般消費者調査(web調査)
→因子分析、重回帰分析、クラスター分析の実施
・グループインタビュー
→ターゲットのプロファイリング

5.総合コンセプトの作成と承認

6.処方開発、ネーミング開発、パッケージ開発
→パッケージスクリーニングテスト

7.最終バンドル調査
→上市に近い状態でプロトタイプをつくり、総合的に製品としてどの程度の消費者受容性があるかのシミュレーション調査

どう?きちんと、実態把握→仮説探索→仮説検証の流れを踏んでいることがわかるでしょう?
とくに、最初のデータ整理で使われているのは、このときにあらためて調査をしているのではなくて、継続して実施している調査データがあってはじめて可能な分析だということに注意してほしいな。

P夫 なるほどね・・・。こうやって、具体的な事例をみるとよくわかりますよね。
でも、逆に、自分たちがいかにきちんとやっていないかということも気づかされますけど・・・。

owl 本を読んでもらうと、それぞれのステップでどんなことを考えたかも具体的にわかるから、興味をもったらぜひ読んでみてね。その方が、より理解は深まると思うから。

さて、これで調査目的とタイプの話は終わり。
つぎからは、他にもいっぱいあるリサーチを行う上で知っておいて欲しいことを話していくね。仮説、代表性、時系列データと横断分析、バイアスと偏り、%や平均の意味などをテーマにしていくつもり。
それと、そろそろマーケティングについての本も読んでおいてもらった方がいいだろうね。仮説探索の話なんかも、プロダクトコーン理論を理解している方が理解は早かったりするだろうし。
いくつか紹介していくので、目を通しておくこと。

Q子 はーい^^

仮説検証型リサーチ(調査)

owl 長らくご無沙汰しておりました・・・、皆さんも健康にはお気をつけください・・・。

Q子 もう-_-

owl 今日は、調査タイプの最後、仮説検証型のリサーチについて。
紹介したい本が溜まってきているから、さくさくいこうね^^;

さて、実態把握も終わり、仮説探索も終わり、ある仮説ができあがりました。
そこで必要になってくるのが、果たしてこの仮説は正しいのか、このまま開発を進めて大丈夫なのかというステップだよね。

P夫 でも、仮説はあくまで仮説であって、いちいち確認が必要ですかね・・・。
それと、そもそも「仮説」ってなんですか?これも、わかったようでわからない言葉なんですが・・・。

owl そうだね、「仮説」って言葉は結構使うけど、ほんとうのところってよくわからないよね。ただ、これを説明しはじめると長くなるので、機会を改めて説明することにする。
今回は、たとえば商品開発に際して、ターゲットはどうするのかとか、コンセプトはどうするのかとか、もっと進んで商品自体の仕様は、パッケージは、価格は、流通先は、広告は・・・といったように、いろいろなことを決めないといけないでしょ?その、いろいろなこと、方向性といえばいいかな、とりあえずはこれらのことと思っておいてもらえればいいや。

Q子 それをいちいち確認しなければいけないんですか?

owl 「しなければならない」ということはないかもしれない。ただ、市場に商品を出した時のリスクを少しでも小さくしようと思ったら、した方がいいだろうね。
仮説はあくまで仮説であって、それがほんとうにお客様に受け入れられるかどうかは別の話だから。

P夫 みんなそんなことやっているんですか?だいたい、さっきのターゲット、コンセプト、商品仕様、パッケージ・・・みたいに、その都度で調査をしていたら、開発に時間はかかるし、お金はかかるし。。。

owl うん、P夫君のいうことも、もっともだと思う。
でも、じゃあ仮説のままでつぱっしって、いざ市場に出したらまったく売れなかったというのも問題なんじゃない?

P夫 それはそう。でも、いまの時代って、とにかく他社に先駆けて新しい商品を出せるかというのも、必要ではないですかね?失敗したと思ったら、すぐに改良すればいいと思うし。ソフトなんか、発売された後で、つぎつぎとバージョンアップのソフトをダウンロードさせたりするじゃないですか?

owl たしかに、いまはとにかく発売してしまうことが、最大のテストマーケティングという考え方も、あながち否定できないとも思うよ。
費用対効果の問題だよね。開発コストがそんなにかからないとか、ソフトのようにすぐにバージョンアップをすることができるような商品、あるいは他社がすでに成功しているミートゥー商品だったら、あえて費用をかけて調査をするよりも発売した方がいいという考え方も成立すると思う。
でも、開発にそれなりのコストがかかる商品だとか、ここ一番の商品だとかだったら、やはりきちんと検証を繰り返しながら、商品をブラッシュアップして、発売する方が結局は費用対効果が高いということも少なくないんじゃないかな?

P夫 そうですね・・・。

owl それに、いまはweb調査もある。早く、安く、ターゲットを絞り込んだ調査をすることができる環境になっているんだし。これが、web調査の最大のメリットだし、リサーチにおける貢献だと思うんだけど。

Q子 で?仮説検証のリサーチってどうやるんですか?

owl 難しく考えずに、できたコンセプトや商品仕様、パッケージなんかを直接、お客様に想定している人達に聞けばいいんだよ。

P夫 へ?そんなんでいいんですか?注意することとかは?

owl いい質問^^
いま、P夫くんは、どんな質問を想定したんだろう?

P夫 「あなたは、このコンセプトについてどう思いますか」とか?

owl で、「いいと思う」「まあいいと思う」てな感じで選択肢をつくると。

P夫 まあ・・・。

owl それで?

P夫 で、「そう思う」「まあそう思う」という人が多ければOKと・・・。

owl まあ、ふつうはそう考えるよね。
でも、いつかも話したと思うけど、よほどひどいものでなければ「まあそう思う」くらいは、回答するんじゃない?それで、ほんとうにいいんだろうか?

P夫 でも、アンケートってそんなもんでしょ?

owl では、少し質問を変えて。この調査をする目的って何?

P夫 仮説が正しいかどうかを検証すること。

owl 確かにそう。でも、正しいかどうかがわかるだけでほんとうにいいのかな?
では、ここでいくつか仮説検証型リサーチの整理をしてみるね。

まず、目的はなんだろうか?
一番知りたいのは、P夫くんもいうように仮説は正しいのか、言葉を変えると消費者のニーズにあうのかということ。これは、避けて通れない関門だよね。では、ニーズに合うというのをどうやって判断するのか。単純に「どう思いますか」の答えだけではなんともいえないでしょう?もっと、いろいろな視点で検証しないと。たとえば、回答者は提示したコンセプトを理解してくれたのか、共感してくれたのか、関心をもってくれたのか、これまでの商品と比べて差別性があると感じてくれたのか、新しいと感じてくれたのかなど多角的に捉えておくことが必要じゃないかな。それと、具体的に買ってみたいと思ったのか、これまで購入してきた商品からスイッチしたいとまで思ってくれたのか、くらいまで押さえることも必要かもしれないよね。コンセプト段階では難しいかもしれないけど。

で、ニーズに合う、あるいは合わないとわかったとして、それでいいのか?そんなことはないよね?具体的に、つぎのステップに進むにあたって、どこを強化すべきか、補強すべきか、直すべきかがわからないと、どうしようもないでしょう?これが、2番目の目的。

そして、仮説っていくつかある場合がほとんどなんだけど、じゃあどれがいいのかを最終的に決断しないといけない。複数案の中から、最善案を決定しないといけないよね?これが3番目の目的かな。これは、1番目と2番目の目的から判断することだと思うけど。

P夫 ふむ・・・。なんとなく、納得です・・・。

owl これで、目的は整理できた。調査票もつくれる。では、つぎに設計はどうするか?
どう?

P夫 どうって。。。ふつうに、誰に、どのように聞くかを決めればいいのでは?

owl そうなんだけどね^^;
これまでの、実態把握型や仮説探索型のリサーチと、この仮説検証型のリサーチのもっとも違う点は、調査設計かもしれないと思うんだ。
前の2つは、極論すると数字としての厳密性はそんなに高くないといえるかもしれない。でも、「検証」という言葉でもわかるように、このタイプのリサーチは、設計の厳密性が結構重要になる。さっき言ったように、最終的には複数案の中から最善案を決めなければならないわけだからね。
「ほんとうに、B案に比べて、A案の支持が高いといえるのか」ということが言えないと意味がない、ということだよね?
ここで、「実験計画法」の知識が必要になってくる。

Q子 実験、ですか?「あるある」みたいな?まゆつば・・・-_-

owl まあ、あれも本当はそうなんだよね。それが、正しい実験を行ってないばかりか、結果を捏造しているかもしれないから、問題になっているんだけどね。
この、「実験計画」は、結構難しいからね。ここでは、説明しないけど。。。

では、設計にあたって何を決めないといけないか。
まず、手法をどうするか?
WEBでやるのか、対象者を会場に呼んで行う会場テストか、回答者の自宅に商品を送って実際に使ってもらうHUT(ホーム・ユース・テスト)か、あるいはデータより改善ポイントの抽出を主眼にグルインでやるか。テストをするもの(コンセプトか、プロダクトか、パッケージか・・・)によって、また開発段階や、商品カテゴリーによって決まってくる。

つぎに、調査対象者をどうするか?
今のユーザーのみか、これまでユーザーでなかった人も含めるのか。あるいは、ヘビーユーザーのみでいくか、ライトユーザーまで含めるか。さらに、自社ブランドユーザーのみでいくか、競合ユーザーも含めるのか。これは、開発しようとしている商品の位置づけで決まるよね。

で、最後に、どんなテストをするのか。
これは、複数案を、どのように対象者にふりわけるか、提示するのかということだけど、これが実験計画を理解していないと、どうにもならない。何も知らないと、かなり適当な調査計画になってしまうから、注意が必要なんだ。
ピュア・モナディックか、シーケンシャル・モナディックか、一対比較でいくか。
ブランド名は提示するか、提示しないのか。
テスト品の提示順はどうするのか。系列位置効果とか、隣接効果の問題があるので。
これらで、調査結果はかなり変わってしまうから。

P夫 う~ん・・・。なんか、また魔法の言葉が・・・。モナ・・・なんですか?

owl 聞いたこと無いの?でも、これまで商品開発の調査ってやっているんだよね?

P夫 一応・・・。

owl だとすると、やばいかも・・・。
こんなことあまり言いたくないけど、へたをすると調査会社の人間でも、このあたりのことについて、正しく理解していない人間もいるかもしれないからな・・・。
これも説明を始めると長くなるから、今回は説明しないけど、一度自分で言葉を調べておいた方がいいかもしれないね。後で、きちんと説明するけど。
とりあえずは、この本(『マーケティング・リサーチの論理と技法』)あたりで勉強しておいた方がいいかもね。

Q子 少しでいいので、さわりだけでも。。。たとえば、どんなことですか?

owl そうだね・・・。
たとえば、君たちの名前、P夫くんとQ子さん。これも、なんの意味もなくつけたわけじゃないんだよね。

Q子 へ?

owl たとえば、提示したい案が3つあるとする。調査の現場では、呈示試料というんだけど、この3つの試料に名前をつけるときに、たいてい、P、Q、Rという記号を振り分けるんだ。なぜだと思う?

Q子 さあ・・・。

owl 最近、「県庁の星(→ CD)」って映画みたんだけど、この中でも象徴的な場面があったね。

Q子 織田裕二と柴崎こうのですか?けっこう、おもしろかったですよね^^

owl ある意味、マーケティングの勉強にもなるしね。「データでは、見えてこないことがいっぱいある」的なセリフがあったけど至言だよね。
で、この中で、お弁当つくりの競争の場面があるんだけど、AチームとBチームに分ける時に、県庁から研修に来ている織田裕二は最初Bチームといわれてむっとするんだ。
なんでだと思う?

P夫 そりゃ、AチームとBチームだったら、Aチームの方が正統派というか、いいチームという印象があるからじゃないですか?

owl そうだよね?どうしても、A、B、Cという記号には、すでに序列関係のイメージがついてしまっている。だから、CよりB、BよりAがいいと直感的に思ってしまうんだよ。
だから、調査のときの呈示試料についても、そのようなイメージを与える危険性を排除するために、P、Q、Rという記号をつけているんだ。
君たちの名前を、P夫くんとQ子さんにしたのも、調査屋のくせ^^;

Q子 なるほどねー。そんなところにまで、気をつかうんですね。

owl そう、この例は一部でしかないんだけど、とにかく調査の回答者に少しでも予断を与えたり、心理学的な見地からのバイアスがかからないように、いろいろと工夫をしているんだよ、調査の現場では。
そんなことを知らない人はいっぱいいるし、なんでこんなに準備に時間がかかるんだみたいなことを言う人もいっぱいいるけどさ(ブツブツ・・・)

Q子 はいはい^^;

仮説探索型リサーチ(調査)

owl さて、今日は「仮説探索型」のリサーチについて。
P夫くん、仮説探索型のリサーチって、どんな調査だったかな?

P夫 えーと・・・。あるテーマに対しての仮説を開発したり、消費者の本質・インサイトを発見したりという目的のリサーチ。実態の把握ではあるけど、実態把握型よりはテーマを絞り込んだ深いリサーチ。

owl まんまコピーだね^^;、意味わかってる?

P夫 なんとなく・・・

owl どこがわからない?

P夫 「実態把握ではあるけれど」というとこ。前の実態把握型リサーチと、どう違うのかと・・・。

owl そうだね・・・。
実態把握型リサーチって、とにかく今の現状を把握するということが目的だから、わりと広いテーマで、浅く聞かざるを得ないことが多いんだ。認知率も知りたい、認知経路も知りたい、利用状況も知りたいし、どこで買っているのか、どれくらいの頻度や量で買っているのか、なんで使っているのか、なんで使っていないのかも知りたい。そもそも調べたい商品やサービスに対して、どんな期待や不満を持っているのかも知らないといけないし、ブランドイメージも必要だな・・・。
てな具合に知りたいことが、いっぱいあるよね。そうなると、質問の量もすごいことになって、詳細までは突っ込んで聞けないよね。
そもそも、実態把握型リサーチの目的は、市場の実態を把握して、変化の兆しをつかまえることが主眼だから、そんなに突っ込んだ質問もいらないともいえるけど。

P夫 それは、わかります。確かに、商品開発のときの最初の調査って、あれもこれも入れて、調査会社の人に、「質問量が多すぎて、回答者の負担が大きすぎます。回答が適当になる危険性がありますよ」って言われることがあるから。
でも、それがわかっても、じゃあ「仮説探索型リサーチ」がどんなことをするかが、いまひとつぴんとこないんです。。。

owl うん、それじゃ前回も使った自動車を例に考えてみようか。
実態把握のために自動車の販売台数をみると、去年は登録車の販売台数がずっと前年割れしていて、軽自動車の販売台数が伸びているということがわかった。では、なんで軽自動車ばかりがこんなに売れているのか?
Q子さん、どう思う?

Q子 えーと。軽自動車の方が、小さくて、かわいいし、いろんな色があるし。i(アイ)とか、これまでになかったようなデザインの新車も出てるみたいだし。
それと、日本の道路は狭いし、渋滞しているから軽自動車の方が走りやすい、とか?

owl そういう面もあるだろうね。P夫くんは?

P夫 単純に、維持費が安いからじゃないですか?税金とか安いみたいだし。燃費もいいって聞くし。

owl おそらく、「あなたが軽自動車を購入した理由はなんですか」って質問項目でアンケート調査をすると、いまQ子さんやP夫くんがいったような回答が多いんだろうね。
これが実態調査の結果だとすると、では、もっと買ってもらえる登録車を作ろうとしたら、どんな車を作ればいい?

Q子 税金が安くて、燃費がよくて、かわいいくて、狭いところでも楽な車。

owl そういうのを、もぐらたたき的解決っていうんだけど、それでは商品の開発は無理^^;
そもそも税金なんて、国が決めていることだから、メーカーにはどうにもできない。

P夫 じゃあ、どうするんですか?だって、アンケートでそういう答えが出てきてるんですよね?

owl そこで、仮説探索型リサーチが必要になってくるんだ。消費者の意識に上っていること、聞かれたら答えるられることは、さっき君たちが言ったことで正しいと思う。けれど、実際に車を買う時や使う時のことを考えてごらん。きっと、もっといろんなことを考えていると思うよ。
その、「ほんとうのところ」を探るのが、仮説探索型のリサーチになるんだ。

Q子 でも、「ほんとうのところ」って、どうやって調べるんですか?ふだんは、あまり考えていないことを聞くんですよね?難しそうですけど。。。催眠術にかけるとか?^^;

owl 催眠術は、とっぴ過ぎるけど・・・。
確かに、仮説探索型リサーチは難しいと思う。ただ、今、もっとも必要とされているのも、実は仮説探索型リサーチだったりもする。「調査は使えない」というのも、この裏返しだと思うよ。
前に、このblogでも紹介したコカ・コーラの人が言っていた言葉があるよね。

『生活者自身も理解・説明困難な領域に果敢に踏み込み、リサーチャー自らがコンテクスト化し、逆に生活者に気づきとして還元することが、製品開発やマーケティング戦略への近道になるからである(「新事業・新製品開発の創造的マーケティング」)』。

「インサイト」という言葉も、このblogで何度か使っているけど、これもそうだね。ほかに、「ニューロ・マーケティング」とか、「心脳マーケティング」とか、「ポストモダン・マーケティング」とか、いろいろな言葉が話題になったりしているけど、全部、「消費者のほんとうのところ」をどうやって捉えるかということを、テーマにしていると思うんだ。

P夫 そんな関連の本を、ちらちら見てますけど、結局のところ、どうしたらいいかはあまり書いていないような気が・・・。

owl そうかもしれない。たとえば、質問紙調査のように、定まった手法ではないからだろうね。
あ、具体的な方法論を期待されても困るからね。いま言ったように、いろいろな手法が提案されているし、試されているから、ここでひとつひとつについて具体的な解説はできないので・・・。

Q子 で?、どんな方法があるんですか?

owl いくつかの手法をあげてみるよ。

  • 自由回答中心のアンケート調査や日記形式のアンケート調査
  • ベネフィット・ストラクチャー・アナリシス、コンジョイント分析、因子-クラスター分析、コレスポンデンス分析やMDSなどを使ったマッピングなど、定量データを元にした分析手法
  • 投影法を応用した定性調査
  • エスノグラフィ、観察法などによる行動分析
  • 評価グリッド法、レパートリーグリッド法
  • ラダリング法
  • ZMET法

う~ん・・・、うまく整理できていない感じもするな-_-。
こういう手法もあるんだ、くらいの理解にしておいてね^^;

P夫 最初の2つくらいはなんとなくわかりますけど、あとは聞いたこともないです。。。

owl うん、たぶん調査会社に、こんな手法の調査があると聞いたんですけどできますか?と聞いて、即答できるところは、そう多くないんじゃないかな。
それだけ、仮説探索型リサーチは専門性が高いし、最近の手法だともいえるんだけど。

P夫 えー。じゃあ、こんなことをやりたいときはどうすれば?

owl P夫くんもいったように、最初の2つはそんなに新しいものではないので、まずはこのあたりからはじめるんだね。それと、投影法とか難しいことをいわずに、ふつうにインタビューとか。何を明らかにしたいかというテーマを明確にもって、設計をきちんとすれば、これらの方法でも、それなりの結果は得られると思うよ。あ、インタビューは、モデレーターも重要だけど。
他の手法を試してみたいのなら、これらをキーワードに検索をしてみれば、いろいろと研究している調査会社が見つかるんじゃないかな。ただ、さっきも言ったように、まだ実績が十分にある手法でもないと思うので、どれだけ有効な結果が得られるかはわからない、ということは覚えておいて。

Q子 でも、頼むなら、自分もそれなりに理解していないとまずくないですか?調査会社さんが提案してきたことが、正しいのかどうか判断できないですよ?

owl そう、いいとこに気づいたね^^。そういう姿勢は、忘れずにいてね。
そうだね・・・。では、いくつか参考になる本をあげておくよ、全部の手法を網羅できているわけではないと思うけど。それに、ここにあげる本を読んだからといって、すべてが理解できるということもないから。概要がなんとなくわかる、程度だと思って。

ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2002-07

これは、具体的な手法の解説をした本ではないけど、「ほんとのところ」について探索した事例が載っているので参考になると思う。とくに、ラダリングを理解するのにはいいかも。

図解やさしくわかるインサイトマーケティング 図解やさしくわかるインサイトマーケティング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-09-22

「インサイト」探索を実際に行う手法を具体的に解説してくれいてる。でも、それより「インサイト」とは何かという本質の方を理解してほしいけどね。

魅力工学の実践―ヒット商品を生み出すアプローチ 魅力工学の実践―ヒット商品を生み出すアプローチ
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2001-08

いろいろな企業の人が、自社の商品の開発事例を紹介している。メールでのラダリング法とか、FAによる質問法とかの事例もある。

マーケティングリサーチの論理と技法 マーケティングリサーチの論理と技法
価格:¥ 3,465(税込)
発売日:2004-09

これは、以前にも紹介している本だけど、コンジョイント分析とか、ラダリング法についても書いているから。

心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press 心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2005-02-10

これは、「心理学×脳科学からのアプローチ」とうたっているZMET法についての本。ZMET法については、ライセンスがあるみたいで、どこでもやっていいということではないらしい。日本でもライセンスを取得している会社はあると思うけど。

アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実 アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2000-06

これも前に紹介しているけど。3章がとくにお勧めで、何も考えない調査がどんなに害悪かがわかると思う。インサイトに近づくための考え方や調査については、4章を。

マーケティングで使う多変量解析がわかる本 マーケティングで使う多変量解析がわかる本
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2007-01-26

ごく最近の本。主な多変量解析についての概要を理解するには、手ごろ。マーケティングの事例を使って解説しているから、理解しやすいと思う。

こんなところかな。

ただ、覚えておいて欲しいのは、どんなに手法を理解したとしても、それで「ほんとのところ」に迫れるかというと、そんなことはないということ。何度もいうけど、結局は、何を明らかにしたいのかという課題の設定がすべてだということは、肝に銘じておいてほしい。
すばらしい包丁を使えば、誰でもおいしい料理がつくれるというわけではないでしょ?それと一緒だから。

P夫 すいません、また頭が痛くなってきました・・・。

Q子 どれから読もうかな♪

P夫 まじ?・・・

owl では、今日のまとめをしようか。Q子さんの方がいいかな。P夫くんは、沸騰気味だから^^;

Q子 新しい商品やサービスを開発するには、実態把握型のデータだけでは不十分で、消費者の「ほんとのところ」を捉える必要がある。むしろ、いまは、この「ほんとのところ」をいかに見つけ出すかが重要で、手法もいろいろ開発されている。

owl そんなところかな^^

実態把握型リサーチ(調査)

Q子 また、ずいぶん間が空きましたね・・・-_-

owl ごめんなさい、ちょっと風邪気味で^^;。花粉症の疑いもあるけど・・・。のどいたいし、鼻水とまらないし、くしゃみだし・・・。

Q子 はいはい^^;。で、今日のテーマは?

owl 前回、話をした3つの調査タイプのうち、最初の「実態把握型」のリサーチ(調査)について、少し詳しくみていこうと思う。
P夫君、「実態把握型」リサーチって、どんなリサーチだったか覚えている?

P夫 えーと・・・。いまの市場がどうなっているのか、消費者がどうなっているのか、自社のブランドや商品はどうなっているのか、競合との比較ではどうなのか、といったように、とにかく実態を把握しようというタイプのリサーチ。

owl そうだったね。では、具体的にどんなリサーチ・テーマが思い浮かぶかな?

P夫 消費者がどうなっているか、自社の商品がどうなっているか・・・

owl さっきと同じじゃん!^^;
とはいっても、具体的なリサーチ・テーマをあげるとなると、かなり広い範囲に渡るのも確か。大雑把にまとめてしまうと、つぎようなものがあるんじゃないかな。

  • 生活実態調査
  • 利用実態調査(U&A=Usage&Attitude調査)
  • 企業・ブランドイメージ調査
  • 広告調査
  • 価格調査
  • 流通実態調査
  • 売上分析、マーケット・シェア分析

Q子 う~ん・・・。なんとなくわかるような、でもわからないような・・・。

owl そうだね。確かに、こうやってみると一般的にすぎるし、こんなテーマ・アップだけでは、実際の調査はできない。「生活実態」といっても、どのような生活に焦点を合わせるかで、内容は全然異なってくるから。
ただ、フレーム的に、これだけのことを知ることが、企業活動には必要だということは覚えておいてほしいんだ。
まず商品やサービスを購入している生活者がどのような生活をしているのか、その中で自社の商品・サービスはどれくらい知られていて、どのように購入され、使用されているのか。競合と比較して、どうなのか。また、お客様の選択の手掛かりともなるブランドや企業のイメージは、どうなっているのか。
そして、広告や販促はどの程度、生活者に伝わっているのか、正しく理解されているのか、店頭での価格はどうなっているのか、流通の現場で棚に並んでいるのか。
結果として、どの程度の売上をつくり、どの程度のシェアを獲得できているのか。
こんな感じで言葉を変えてみると、理解しやすいでしょ?

P夫 確かに理解はできますけど、こんなにマーケティングの全体にわたってリサーチをしている会社ってあるんですか?少なくともうちの会社は、新しい商品を開発する時に、調査をしてみようかって感じですけど・・・。

owl そうだね。これだけ、きちんと系統だててリサーチを実施している会社は、多くないかもしれない。でも、必要だと思うでしょ?

P夫 まあ、必要だとは思いますけど・・・。

Q子 なんで、これだけきちんとやっている会社が少ないんですか?

owl それは、膨大な費用と労力がかかるからだろうね。それと、実態把握型リサーチの結果って、一見、あたりまえの結果が得られることが多いから、費用対効果の面でどうなんだという話になりやすいというのもある。
個人的な経験からすると、だいたい3回くらいは実施するけど、そこで「もういいや、毎回同じ結果だから」ということになりがちだね・・・。

P夫 だったら、やっぱり必要ないんじゃないですか?

owl それは、データをどう使うか、という意識の問題だと思うけどね。
回をあらためて話をしようと思うけど、同じフレームで継続していないと、実態把握型リサーチの価値は、だいぶ損なわれるといっても過言ではないと思う。
一回だけのデータで、変化を捉えることができるかな?3回だったら可能かな?
あるいは、たとえば認知率調査で15%という数字が出て、これは成功なのか、まだまだなのか、断言できるかな?

P夫 たしかに、調査のデータをみて、高いという人もいれば、低いという人もいたり、人によって解釈が食い違うこともありますけど・・・。

owl そうでしょ?だから、実態把握型のリサーチでは、できるだけフレームや設問を変えずに、継続して実施することに価値があるんだよ。
リサーチをきっちり行っている会社では、リサーチ体系の中で、このような実態把握型のデータを積み重ねて、変化の兆しを捉えようとしているし、リサーチの結果も科学的に解釈しているよね。

P夫 わかりますけど・・・。その都度、単発でやっていては、まったく意味ないですか?

owl そんなことはない。たとえば、商品開発にあたって実態を深く知りたいというときや、商品の発売後に開発テーマに沿って利用実態を知りたいというような時は、継続調査だけではデータが足りないときもあるだろうし。
(ただしこれらは、実態把握型というより、次回以降の仮説探索型や仮説検証型と捉える方が、すっきりします。)
いくら、データの積み重ねが大事とはいっても、単発でもやらないよりは、やった方がいいだろうしね。市場について理解した上で、開発をはじめるのと、そうでないのではリスクは全然違うから。

Q子 実態把握型のリサーチって、やっぱりアンケートですか?

owl アンケートというか、定量型の調査がメインにはなると思う。「実態を把握する」ことが目的なんだから、数量的に捉えられていないと意味がないからね。
ただ、オープンデータの分析も、有用だね。社内には、売上データとかPOSデータとかあるんだから、そのデータを分析するだけでも、変化の兆しをつかめるよね。あるいは、業界団体が発表しているデータもあるよね。
たとえば、自動車販売台数の推移とかみると、登録車の購入が減少していて、軽自動車の販売台数が増加しているよね。このような実態を認識しているかどうかで、つぎの商品開発の考え方は異なってくると思わない?

P夫 確かにそうですね。。。ただ、それがわかっただけでは、何にもならないとも思うけど。

owl それはそう。だから、この実態=軽自動車の販売比率が上昇している、の背後にあるのは、どのようなニーズかということを深堀する必要が出てくる。それが、仮説探索型の調査だよ。

P夫 そういうことか・・・。

owl けれど、この実態を認識していないと、そんなリサーチテーマさえ思い浮かばないわけだから。だから、実態把握型のリサーチは必要だということなんだ。

Q子 他には、オープンデータというと、どんなものがあるんですか?

owl 一般的なものは、官公庁が発表している様々なデータがあるでしょ?それと、さっきの自動車の例に出したような業界団体でまとめたデータ。
他には、調査会社やシンクタンクが販売している継続データもあるよ。「シンジケート・データサービス」といって、購入しないといけないけど。それも、結構なお値段・・・。
たとえば、つぎのようなデータがあるね。

他にもあると思うけど、とりあえず、思いついたものだけ^^;
調査会社やシンクタンクのHPに行けば探せると思うから、他にもあたってみて。
そうそう、シンジケート・サービスとは異なるけど、様々な調査データを検索してくれる、つぎのようなサービスもあるよ。

Q子 へー、オープンデータって、いろいろあるんですね。。。自分のとこで、あらためて調査する必要ないみたい・・・。

owl いっぱい、あるよ。オープンデータについての講義もいつかしないとね。オープンデータについての知識の有無も、できるリサーチャーかどうかの差になってくるからね。
ただ、これらのデータは、調査項目やフレームが決まっているし、データの提供方法も決まっている。だから、帯に短し、襷に長しということもある。
けれど、さっきから言っているように、一から、毎年、これらのデータを独自で集めようとするとそれもたいへん。。。
自社で必要なデータがどんなデータで、そのデータを入手するには、公開データでいいのか、専門機関のデータがいいのか、自社で独自にリサーチすべきなのか、費用対効果も考えて、きちんと計画しないとね。

P夫 一言で、実態把握型のリサーチといっても、いろいろあるんですね・・・。

owl それがわかっただけでも、意味があるよ^^

【お知らせ】
前回の投稿で、世界のリサーチ会社のランキングを掲載しましたが、またちょっとした動きがあったようです。詳細は、前回の投稿に記載しますので、そちらを参照ください。

調査の目的とタイプ?

Q子 今日のテーマはなんですか?^^

owl 調査・リサーチの分類について。とくに、リサーチテーマの視点からみた分類。
前回、「目的にあわせてリサーチをしないといけない」といったよね、そのことについて。
さてP夫君、調査・リサーチって、どのように分類できると思う?

P夫 ネット調査とか、グルインとか、CLTとか、そういうことですか?

owl 確かに、それも調査・リサーチの分類方法のひとつだよね。
では、質問を換えてみるよ。調査・リサーチするとき、どんな目的ですることがあるかな?
商品開発とか、消費者調査とかじゃなくて、大きな括りで考えると。

P夫 え・・・。う~ん・・・。定量調査と定性調査?

owl それも、違うな。では答え。
マーケティング・リサーチの教科書的な本でよくあるのは、

・探索的リサーチ
・記述的リサーチ
・因果的リサーチ

の3つの分類方法だね。前に紹介した「マーケティング・リサーチの理論と実際」でもこの分類方法を使って章立てしている。
でも、正直なところ、私にはこの分類はいまひとつぴんと来ない感じがあるんだよね。。。

Q子 どんなところですか?確かに、名前だけみてもよくわかりませんけど・・・。

owl なんと言ったらいいかな・・・。まず、記述的リサーチがよくわからない。
説明をみると、『検証的なリサーチのひとつ。何らかのもの-通常、市場の特徴や機能-を記述することが主な目的である』(「マーケティング・リサーチの理論と実際」)とあるんだけど、わかったような、わからないような。まず、どうしてこれが「検証的」なのかがわからないんだよね。それと、記述するって何?どういうこと?って感じ。
で、因果的リサーチ。これは、『検証的リサーチのひとつ。因果関係の証拠を得ることが主な目的である』(「マーケティング・リサーチの理論と実際」)とあるんだけど、因果関係といわれると仮定が強すぎるように感じて、しっくりこない。

P夫 そういわれるとそうですね・・・。そもそも、因果関係とはなんぞやというところから勉強しないと、なんともいえませんけど^^;

owl そこで、自分なりの分類をしてみたんだ。

・実態把握型
・仮説探索型
・仮説検証型

の3つ。

P夫 言葉としては、なんとなくイメージしやすくなったかも。。。
実態を把握する、仮説を探す、仮説を検証する、ということですよね。なんとなく、リサーチのフローにも合っているような気がするし。

owl そう言ってくれるとうれしい^^

Q子 で、それぞれは、どのような調査・リサーチになるんですか?

owl うん、比較的、読んで字の如しではあるけど。

まず、「実態把握型リサーチ」。
これは、さっきの分類でいうと記述型に近い。いまの市場がどうなっているのか、消費者がどうなっているのか、自社のブランドや商品はどうなっているのか、競合との比較ではどうなのか、といったように、とにかく実態を把握しようというタイプのリサーチ。比較的、広く浅く、実態をみてみようという感じかな。何を始めるにしても、まず、実態がわからないと、何から手をつけるべきかわからないからね。
調査手法としては、やはり定量調査で、きちんと数字で押さえることが必要になるね。
いろいろな調査会社やシンクタンクで販売しているデータも、基本的にはこのタイプに分類されると思う。

P夫 うちでは、あまりやっていないかな・・・。あ、商品開発の前なんかにやっているかな。それと、商品を販売した後や広告を出した後で認知率を調べたりしてる。これなんかも、そうですよね?

owl そうだね。確かに、実態把握型だと思う。
けど、必要に迫られて、その都度やっているんでしょ?それでは、せっかくの実態把握型調査も、威力半減になるような気はするけどね。。。

P夫 なんでですか?

owl 実態把握型の調査・リサーチは、定期的に継続して行ってこそ、意味があると思うんだ。このあたりは、また日をあらためて説明するけど、どうしてだか考えておいてね。

つぎに、「仮説探索型リサーチ」。
これは、あるテーマに対しての仮説を開発したり、消費者の本質・インサイトを発見したりというタイプのリサーチ。やっぱり、実態の把握ではあるんだけど、実態把握型よりはテーマを絞り込んだ深いリサーチ、いわゆる洞察を得るためのものと言ったらいいかな。
調査手法としては、インタビューとか、自由回答中心のアンケートとか定性的調査が多くなるよね。ひとつのテーマに対して、深く探ることが必要だし、数字的な確証はまだ必要ないから。それと、オープンデータ(二次データ)分析や専門家に対するヒアリングなんかも、手法としては有効だろうね。

最後に、「仮説検証型リサーチ」。
これは、実態把握型リサーチや仮説探索型のリサーチで得られた洞察に基づいて考えられた仮説について、ほんとうに消費者の支持が得られるのかどうかを検証するための調査・リサーチ。「因果」というほど強い仮定を前提とせずに、とにかく次のステップへ移る前に、いまの段階でチェックをしておこう、というのも含める。コンセプトチェック、プロダクトチェック、パッケージチェック、ネーミングチェック、広告表現チェックといろいろあるよね。
また、狭い意味では、さっきの分類にあった「因果関係」を検証するのもこのタイプと思っていい。
調査手法としては、やっぱり数字的な裏づけが欲しいわけだから、定量調査になる。それも、ある意味、実験的な側面が強くなるから、課題に対する影響要因をコントロールできるような手法が必要になるよね。

Q子 実験的って・・・?

owl それも、日をあらためて。ここで話し始めると、長くなっちゃうから。

P夫 あの・・・。
この、調査・リサーチの分類を知っておくことが、なんで必要なんですか?別に、CLTの注意点とか、それぞれの調査手法別に理解しておけばいいことのような気もするんですが・・・。

owl 確かに、この3つの分類を記述していないマーケティング・リサーチの本も少なくないと思う。でも、

”今回の調査は、どのような目的で行うのか、結果はどう使うのか。そのためには、どんなタイプの調査が必要か。その方法は。”

ということを意識しておくことは大切なことだと思うんだ。そうでないと、実態把握型のリサーチをしているはずなのに代表性をまったく無視したり、仮説探索型のリサーチをしているはずなのにサンプル数に拘ったり、仮説検証型のリサーチをしているはずなのに、要因のコントロールについて全然考えていなかったりということが起こるからね。

P夫 確かに、そうかもしれませんね・・・。グルインって、いろいろな仮説を出すためにやっているはずなのに、%の数字を求められたりすることもあったりしますからね。

owl グルインが仮説探索型と決め付けるのもどうかと思うけど、まあいいや。
もうひとつ、一般的には、実態把握→仮説探索→仮説検証→(上市)→実態把握という繰り返しになっているということも覚えておくといいよ。
実態把握型の調査を継続して市場変化の萌芽をみつける→なぜそうなのかを探索する→仮説をつくる→検証してみる→商品として販売する→計画どおりになっているかどうかを把握するというサイクルだよね。
別に、商品だけでなく、広告やお店の出店とかでも、同じだけどね。
これを、昔からきちんとやっているといわれているのが花王だよね。
それと、この前紹介した本にある『からだ巡茶』『伊右衛門』の事例をみても、このサイクルがきちんと行われていることはわかると思うよ。

Q子 3つの調査・リサーチは、この順番で行えばいいんですね?

owl 「一般的に」と言ったでしょ?
市場について十分に把握しているなら、実態把握や仮説探索はいらないかもしれないし、仮説検証で得られた結果について理解できないような時は、もう一度仮説探索型の調査をやるかもしれないからね。
よく、グループインタビューで仮説をつくってから質問紙調査といわれるけど、質問紙調査をしたけど結果の解釈が難しいと思ったら、そこで探索型のグルインを行うというのも、結構有効な方法だと思うし。少なくとも、勝手な事後解釈をするよりはいいよね。
では、今日のまとめ。Q子さん。

Q子 調査・リサーチには、目的にあわせて、「実態把握型・仮説探索型・仮説検証型」の3つのタイプがある。
調査・リサーチを行う場合は、どのような目的で行うのか、結果をどう使うのかをまず考え、どのタイプの調査・リサーチなのかを決めること。

owl OK!では、次回からはこの3つのタイプについて、もう少し詳しくみていこう。

調査(リサーチ)は使えない?

owl 2007年も、10日以上経ってしまったね。。。
寺子屋を再開します!

Q子 やっとですね^^

owl うん・・・。なかなか、まとまらなくて・・・。
でも、考えるより走り出した方がいいかなと思うから、再開することにした。

P夫 マーケティング・リサーチの具体的な話に入っていくんですよね?最初のテーマは何ですか?

owl 最初は、テクニックの話ではなく、概論的なところから始めようと思うんだ。
概論といっても、マーケティング・リサーチとは何ぞやといった教科書的なことではなくて、
マーケティング・リサーチ、市場調査を行う上で、はずして欲しくないと思っている視点がいくつかあるから、まず、そのことを理解しておいてもらおうと思う。
テクニックを覚えるよりも先に、このことを理解しておく方が、P夫君のようなリサーチユーザーにとっては大切だと思うから。
で、今日のテーマは、「マーケティング・リサーチ、市場調査は役に立つのか?」

Q子 え?役に立つんですよね?だから、みんなやっているんじゃないんですか?

owl P夫君はどう思う?

P夫 そうですね・・・。正直なところ、よくわからないというのが本音です。自分が、マーケティング・リサーチのことをよく理解していないからだとも思うんですが。。。
実は以前、商品開発では調査をしてもアイデアを得ることはできない、みたいな記事を見たことがあって、確かに、調査をしても商品開発に役立たないというか、結果がはっきりしないというか、そんなことを感じるときもあります。
(記事の詳細はこちら→「新商品開発にアンケートは役立たない」日経BP社ITPro)

owl あぁ、この記事をきっかけに、あるMLでは「調査は役に立つのか」論争になったことがあるね。

Q子 そうなんですか?ほんとに、アンケートではアイデアを得ることができないんですか?

owl それは、断じて違うと言いたい。
まず、この記事の前提にあるように、「アンケート」で「次は何がほしいですか?」と聞いたところで、まともな答えが返ってくるはずがない。けど、これは何も今にはじまったことではなく、以前から同じだと思うけどね。もしも、こんな馬鹿げた質問をほんとうにしているんだとしたら、その会社にはまともなリサーチャーはいないということだよ。
ただ、この記事にもあるように、「顧客にニーズがなくなったわけではない。自分で自分のニーズに気づかなくなってきただけ」という面は確かにあると思うし、この傾向はどんどん強まっている。商品はどんどん高度化・細分化されているし、技術もどんどん進化&深化しているんだから、専門家でもない消費者に、どんな商品がほしいですかと聞いて答えられるはずがない。答えたとしても、すでにあるものだったり、まだ技術的に難しいものだったりするだろうね。

Q子 確かに、何がほしいと聞かれても、答えられないな・・・。カルティエの時計が欲しいとか、ヴィトンの新しいバッグがほしいとかは、答えられるけど^^;
でも、たとえばWiiがでると、「これよ!私が欲しかったのは!」って思うし、売れているっていうことは、多くの人がそう思っているっていうことですよね?

owl そうだね。けど、何がほしいかと聞かれて、Wiiのようなゲーム機が欲しいとは発想できないでしょ?任天堂が、Wiiの開発のときにリサーチをしているかどうかは知らないけど、たぶん「次にどんなゲーム機が欲しいですか?」なんてことは聞いていないと思うよ。
ただ、PS3やX-boxとのマーケティングの違いを見ると、きっと、きちんとした調査はやっているんじゃないかと感じるんだ。PS3は、よくも悪くもソニー的で、マーケティングでも技術偏重的な側面が感じられる。こんなにすごいんです、だからこの価格でもお得なんです、って。
けど、Wiiは、みんなで遊べるんですよ、体を使って楽しめるんですよ、価格もがんばりました、って感じでしょ?けれど、機能的にはWEBにも接続できてインターネットもできるらしいし、ゲーム機以外の機能も結構なものがあるみたいなんだ、持っていないからよくわからないけど(欲しい・・・)。
きっと、Wiiのどんなメリットを訴求すると消費者に「あ!これ!」って思ってもらえるか、この値段だったら買ってもいいなと思ってもらえるかを、リサーチしていると思うんだけどね。もしも、やっていなかったとしたら、プロマネはすごい人だと思う・・・。

P夫 Wiiみたいな、ある種耐久消費財みたいなものだったら、開発にそれなりのお金や時間もかけられると思うから、リサーチも使いようがあると思うんですよ。でも、食べ物とか、家庭用品とか、FMCGと言われる商品だと、ほんとに差別化は難しいですよね。それでも、リサーチって意味があるんですか?

owl そうだね。でも、実際にリサーチを多く行っている業界は、FMCGを扱っている業界だったでしょ?食品とか化粧品・家庭用品とか。ただ、これまでの方法ではなかなか通用しなくなって、新しい方法を模索している面は確かにあると思うけどね。

P夫 それと、調査で購入意向って聞くじゃないですか。あの数字、ほんとに信じていいんですか?よく、調査して購入意向が高かったのに、実際はそれほど売れなかったという話も聞きますけど。。。

owl それは、データをどう読むか、どうマーケティングに活かしていくかの問題だね。購入意向の聞き方にも問題があるのかもしれないけど。たとえば、新しい飲み物の説明が書いてあって、あなたはこの飲み物を買ってみたいですか?と聞かれたら、Q子さんなら、どう答えると思う?

Q子 う~ん・・・、具体的な商品を見せてもらわないとわからないけど、お茶だったらとりあえず買ってみたいって答えるかな・・・。

owl そうだよね。これまでとは違う新しそうな商品で、とりたてて欠点がなさそうに見えるものだったら、だいたいの人は「買ってみたい」って答えると思うんだ。
でも、だからと言って本当に買うかどうかは、なんとも言えない。たとえば、どれくらいお茶が好きな人なのか、いま飲んでいる商品にどれくらいの愛着をもっているのか、新商品にスイッチしてもいいと思っているのか、というようなことまで含めて考えないと、正しい結論はだせないと思うんだ。

P夫 う~ん。。。そんなに考えないと、いい調査ってできないんですか?

owl そう思う。安易に調査をやって、「調査しなくてもわかっていることばかりだ」とか、「調査をしても答えが得られない」とか、「調査の結果なんてあてにならない」とか、そんな議論をされるのは、とても腹立たしい(-"-)

Q子 そんなに、怒らないでください^^;
じゃあ、いい調査をするためには、どんな勉強をすればいいんですか?

owl まずは、目的にあわせて、リサーチを使い分けることだろうね。それと、はずしてはいけないポイントを常に頭の中においてデータをみること、リサーチの限界を認識することかな。
次回からは、このあたりを勉強するね。

Q子 は~い。

P夫 ちょっと、気が重くなってきた・・・。

リサーチャーをめざす人へ(2)

owl 前回は、Q子さんにつられて、だいぶ実利的な話になってしまったけど、今回は、調査会社がどんな仕事をしているのか、どういう資質や能力が求められているのかについて。

Q子 お願いしま~す(^^)

owl ・・・。
では、調査会社の仕事。調査会社の主な仕事は、一般的には、クライアントの課題解決のために、リサーチの企画・設計をして、実際にデータを収集・分析・報告すること。だから、必ず実査を伴うことになるし、この実査をいかに正確に、効率的に行うことができるかが大切になる。そして、忘れないでおいて欲しいのが、適切なリサーチデザインを企画・設計するには、実査の現場を知らないといけないということ。学術的な正確さとか、理想の調査は確かにあるんだけど、現場では様々なことが起こるからね。「データを集める」と一言で簡単に言うけど、いろいろな作業工程がある。どのような作業が行われていて、どんなことに留意しなければならないのかについて、理想と現実のギャップを認識して、それをリサーチの企画・設計にどれだけ反映できるかということが、とても大切なことになる。
だから、調査会社に入ったら、一度は実査セクションを経験することはとても大切なことだと思う。

Q子 でも、実査って、泥臭いって書いてあったような・・・。嫌だな・・・。

owl どんな仕事でも、泥臭い部分はあるし、そんな仕事をしてくれている人がいるから、企業が成り立つんだよ。どうも、表面的なかっこよさとか、きれいなところしか見ない人が少なく無いし、そういう泥臭いところを嫌がってすぐに会社を辞める人もいるけど、それは違うと思うよ。
メーカーだって、工場で商品を製造してくれている人がいるし、営業で商品を売ってくれる人がいてはじめて、商品がお客様に届けられるんだから。そういうことを知らずに、商品開発だ、マーケティングだといっても、現実を見ない机上の空論になってしまう。
調査も一緒だよ。正しいデータを集めて、はじめて分析ができるし、クライアントへの提案だってできるようになる。データ収集の現場で、何が行われていて、どんなポイントがあるのかを知らないと、浮ついた企画や提案しかできないからね。

Q子 はい・・・。

owl では、企画や設計、調査票の作成はどうするか。これも、一朝一夕でできるようになるわけではない。テーマも様々、商品も様々で、いくつかのフレームやパターンを覚えたからといって、なんでもできるようになるわけではないから。むしろ、覚えたフレームやパターンに囚われて、テーマや商品を無視して企画をしたり、調査票を作っても、使えない調査になる可能性の方が高いと思う。
だから、知識を得ることや、経験を積むことに対して、貪欲になってほしい。自分で実際に経験できることは多くないのだから、他の人の仕事を見たり聞いたりする、新聞、雑誌やテレビ、あるいはセミナーなどを通じて、いろいろな業界や商品について理解しようとする、どんなことが課題になっているのかを知ろうとする、そんな態度や姿勢が必要だよね。

P夫 で、分析は?

owl 分析も、まずは知識と経験が大切。それと、センスもけっこう大事。
センスというと先天的なもののように思うかもしれないけど、やっぱり知識と経験に裏打ちされたものでないと。野球のイチローしかり、サッカーの中田しかり、将棋の羽生しかり。みんな天才的だけど、それまでの練習や訓練、学習の積み重ねがあってこそ、だよね。
で、リサーチャーはどんな知識と経験を積まなければならないか?
プロです、スペシャリストです、というくらいになろうとしたら、かなり広い範囲でカバーすることが必要だと思う。調査理論、統計理論はあたりまえとして、さらにマーケティングや経営学、心理学は必須かな。プラス、論理力、表現力、コミュニケーション力もないと困る。いまでは、ネットワーク理論や脳科学、行動経済学なんて領域まで知っていると、なおいいだろうね。
それと、クライアントの業界、商品について知らないのも、お話にならない。。。

Q子 なんか、たいへんそう・・・。私、リサーチャーの資質、あるのかな・・・。

owl これまでの繰り返しになるかもしれないけど、いくつかの本で整理されている「リサーチャーの資質」を上げておくので、参考にして。
ただ、これをみてすぐに諦めないでね(^^;
皆がみんな、こんな人というわけではないし、仕事を通じて身に付くものだっていっぱいあるんだから。ただ、リサーチャーを目指したいという人は、ひとつの指針として、頭の中には入れておいてほしいんだ。
(のだめではないですが、「上」をめざすつもりのない人は別です・・・)

まずは、「マーケティング・リサーチの論理と技法」から。

<素養関係>
・企業行動を理解しマーケティング視点に立脚している
・消費者の心理や行動に強い関心がある
・論理的思考、科学的思考ができる
・チャレンジ精神が旺盛である
・サービス精神がある
・責任感が強い
<能力関係>
・リサーチの企画・設計に優れている
・実査・集計業務に明るい
・分析能力、洞察力、要約力に優れている
・文章表現が豊かである
・口頭プレゼンテーションに優れている
・数字に明るい
<態度関係>
・問題点を完全に解決しようとする気持ちが強い
・作業効率を高める努力をする
・自社内のリサーチ発注部門を支援しようとする気持ちが強い
(筆者注:「自社内のリサーチ発注部門」は、「クライアント」へ置き換え可)

続いて、「リサーチャーの仕事」から。

<知識>
・基本的な知識は何か
 →信頼できる情報にアクセスする、コンピューターの腹の中を知る、
   質的情報の分析技術をもつ
・リサーチの専門知識は何か
 →サンプル調査の常識とは何か、リサーチ内容の専門知識とは何か、
   テーマに影響する周辺知識を持つ、
<能力>
・情報整理術を身につける
 →引き出しをたくさん持つ、引き出しの関係性を体で覚える
・分析能力を磨く
 →重要性で順位をつける、因果関係をはっきりさせる
・表現力がいる
 →説得力のある文章を書く、表やグラフを活用する
・課題を解決する発想力がいる
 →データに基づいて考察する、問題点を浮き彫りにする

最後に、「マーケティング・リサーチ業界」から。

・第一に必要なのはリサーチ・センス
 →物事の因果関係や関連性を見極めることができて、なおかつそこに隠された
   課題や問題点を明らかにできる能力
・分析力を磨くこと
 →ある事柄を先入観なしに細かな要素に分解して、さまざまな角度から
   その内容や性質を分類し、再び統合して新たな情報を構築していくこと
・論理的な思考を養うことが分析力をつける
 →閃きをしっかりと理屈にできて、ちゃんとしたシナリオが書けるような
   論理的な思考が必要
・表現力=プレゼン力が調査の価値を高める
 →調査をやって得られた結果をどうクライアントに説明するか

どう?3つの本から引用したけど、共通することが多いでしょう?

Q子 そうですね。意外だったのは、プレゼンテーション力かな。
「調査」っていうと、なんか研究、地道にこつこつ、って印象があったから。

owl そうだね。調査会社に入る人には、人と話すのがあまり得意じゃなくて、こつこつと仕事をするのが好きだから、という人も少なく無いんだよ。とくに、男でね(^^;
ただ、調査会社って、サービス業なんだよね。人と接するのが苦手な人はNGだよね、基本的に。ここでは、対クライアント視点で書かれているけど、実査セクションだって、調査員さんや対象者の方と接しないといけないし、クライアントと接するよりも、こちらの方が難しいかもしれない。
ただ、集計セクションだと、たしかに地道にこつこつという面も無きにしも非ずだけど・・・。

Q子 リサーチャーって、結構たいへんですね・・・。
となると、待遇面が気になったりしますが・・・(^^;。

owl また、実利に戻る・・・。
待遇ね・・・。会社による差が大きいと思うし、公開されているデータがないから、正確なところはわからない。ただ、一般的には、スペシャリストという言葉ほどにはよくはないと思う。たとえば、広告代理店やシンクタンクと比べると低いと思う。といって、世間一般と比べて悪い、というほどではないと思うけど。。。
やっぱり、どれだけデータに付加価値がつけられるか=データの分析能力や提案力が高いか、によると思うよ。
それと、調査って土日や夜に行うことが少なく無いから、ふつうに土日に休めないこともあるし、クライアントがいるので納期がぎりぎりのときとか、実査前日とかは、残業で終電間近ということもあるよね。
あとは、この仕事にどれくらいやりがいを持てるか、かな。
または、調査会社でリサーチに必要な知識や能力を積んで、広告代理店とか企業にステップアップするか。

P夫 企業だって、いろいろですよ・・・。

owl そうだよね。だから、就職するにしても転職するにしても、自分のやりたい仕事ができるか、自分の提供している価値に見合った待遇を受けているか、他の会社に行けばその待遇を期待できるか、将来的にいまの会社で成長できるか、他の会社に行った方が成長できるか、こういうことを総合的に判断しないとね。
体力的、精神的にしんどいという場合もあるだろうけど・・・。

Q子 はい、よくわかりました。

owl さて、調査業界のことについて、長々とやってきたけど、やっと本題に入れそうだね。
では、次回からは、マーケティング・リサーチについて勉強していくことにしよう。

P夫 やっとだよ・・・。




リサーチャーをめざす人へ(1)

Q子 前の寺子屋から、2週間以上経っているんですけど・・・(-_-)

owl そうだね(^^;
実は、かなり迷っていたんだ。どのように伝えればいいのか・・・。
腹を括って、はじめるけど、これはowl個人の考え方として、聞いて欲しいんだ。たぶん、反論したい人もいると思う。ただ、このような情報はなかなか無いみたいだから、多少偏りがあるかもしれないけど、少しでも、マーケティング・リサーチャーとは?とか、マーケティング・リサーチに興味のある人、マーケティング・リサーチを仕事にしたい人、リサーチャーになりたい人の参考になれば。。。

P夫 歯切れ悪いですね・・・。

owl ・・・・。はじめるよ!

まずweb上で、マーケティング・リサーチの仕事について整理しているものを探すと、つぎのようなサイトがあるみたいだね(2006/12/7現在)。

ただ、いずれもマーケティング・リサーチャーって、どんな仕事をするのかはわかるけど、具体的に、どんな企業に入ればいいかは書かれていない。当然かもしれないけど。

Q子 そうですね・・・。で、どんな会社に入ればいいんですか?マーケティング・リサーチを仕事にしたいと思っている人は?

owl まず、「マーケティング・リサーチをやりたい」というのが、「リサーチに興味がある」のか、「マーケティングに興味がある」のか、ということを、きちんと整理してほしいんだ。いいかえれば、リサーチャーになりたいのか、マーケターになりたいのか?

Q子 う~ん・・・。リサーチャーとマーケターって、どう違うんですか?

owl そうだね・・・。とっても卑近な言い方をしてしまうと、リサーチャーは「リサーチそのものが仕事」、マーケターは「リサーチで得られたデータから、どう売れる仕組みをつくるかが仕事」。あるいは、リサーチャーは「論理的・分析的・客観的思考がメイン」で、マーケターは「情熱的・創造的・主観的思考がメイン」かな。

Q子 いまいち、よくわかりません・・・。

owl では、リサーチャーは「世の中や人に興味があり、その構造や気持ちを見つめていたい人向き」で、マーケターは「事業を行うことに興味があり、商品やサービスを開発して、多くの人に買ってもらいたい人向き」というのは?個人的な解釈だけど。

Q子 なんとなく、わかります。でも、これまでowlさんは、リサーチャーもマーケティングの知識がないといけないと言っていませんでしたか?だとすると、リサーチャーとマーケターを分けることは矛盾になりませんか?

owl そうだね、リサーチャーもマーケティングの知識は必要だし、マーケターもリサーチの知識は知っておいた方がいい。けれど、リサーチャーの仕事とマーケターの仕事は、実際に異なるんだよ。
よくあるのが、実はマーケターを志向しているのに、「マーケティング」リサーチだからといって、調査会社に入社して理想と現実のギャップを感じてしまうという誤り。調査会社では、マーケティングの実務には携わることはできないからね。クライアントと一緒に考えて、提言を行うことはできるけど、実際に商品を形にして、広告を考えて、売り方を考えるのは、クライアントの仕事だから。
だから、「マーケター」を志向している人は、「マーケティング・リサーチ」がやりたいというのとは違うので、これから話をすることは参考にならない。

P夫 たしかに、僕なんかはリサーチのやり方とかにはあまり興味がなくて、どんなデータが得られたか、それをどう使うかということが仕事ですからね。でも今度、うちの会社でも元リサーチ会社出身の人を中途採用しないといけないかな、なんて話をしていますよ。

owl それは、P夫君の会社で、リサーチを理解している人がいないからだろうね。クライアントサイドでも、リサーチを理解している人は必要だから。とくにこれからは、単純に「アンケートをしてみました~」というだけでは課題への答えが見つからない場合も増えてくるだろうし、そうなるとリサーチについての理解がしっかりしている人が必要になってくると思う。

Q子 私は、いまはリサーチに興味があると思っているんですけど、そのうちに自分で商品を作ってみたくなるかも。。。そんな人は、どうしたらいいんですか?

owl とりあえず、調査会社に就職して、その後に代理店や、企業のマーケティングセクションなどに転職するんだね。

Q子 ありえるんですか、そういう進路が。

owl あるよ。あるけど、調査会社で何をしてきたか、が大切になるんだけど。
では、リサーチャーの進路について、整理しよう。ここでは、マーケターではなく、「リサーチャーになりたい」と思っている人をメインに話をするよ。
リサーチャーになるためには、つぎの4つの道筋があると思う。調査会社、広告代理店、シンクタンク、企業のマーケティングセクション。

Q子 どう違うんですか?

owl 調査会社は、リサーチを主業務としている会社だから、入ってからリサーチができなかったということは、ほとんどないだろうね。でも、他の3つは、リサーチは他のいろいろな職種のひとつでしかなく、リサーチを担当できるかどうかは、入ってみないとわからない。とくに、企業のマーケティングセクションなんて、そこに行けるかどうかはまったくわからない。
ただし、いまの時点で「リサーチとマーケティングと、どちらか迷っている」という人は、広告代理店がいいかもしれない。あるいは、「研究がしたい、コンサルタントになりたい」という想いが強い人は、シンクタンクがいいだろう。そして、「好きな商品や業界があって、どうしてもその商品や業界に関わっていたい」というのであれば、企業のマーケティングセクションを目指すべきだろう。

Q子 なんだ。だったら、リサーチャーを目指したい人は、調査会社でいいんじゃないですか?何か問題でも?

owl うん・・・。こんどは、「リサーチャー」に何をイメージしているかが問題になる。
まず、ここ(マーケティング・リサーチ業界とは2)でも整理したけど、調査会社にもいろいろあって、それこそ実査しかしないところから、リサーチ&コンサルとして認められている会社まである。あるいはアンケートなどの量的調査がメインの会社と、グループインタビューなどの質的な調査がメインの会社という分け方もできる。
だから、自分がどんなマーケティング・リサーチをしたいのかで、選ぶべき調査会社は、まったく違ってくるんだ。ここで選択ミスをすると、こんなはずではなかった・・・、ということになる。
それと、調査会社も組織があって、実査をするセクション、集計をするセクション、営業をするセクション、企画・分析をするセクションと分かれていることもある。とくに、規模の大きな調査会社はそうだろうね。確かに、すべてリサーチに関わるし、企画・分析をするには実査や集計の経験があった方がいいけど、中にはセクション間の移動がなかなか無い会社もあるだろう。そうなると、企画・分析がしたいと思って調査会社に入ったのに、そういう仕事ができないということも起こりうるんだ。そして、企画・分析をしていないと、調査業界以外への転職はなかなか難しくなる・・・。

Q子 じゃあ、どうしたらいいんですか!(-_-)

owl 自分がやりたいリサーチは、どんなリサーチなのかをきちんと整理する。そして、いろいろな調査会社を調べてみる。これしか、ないかと・・・。
調査会社のリストは、JMRAにあるので、こちら(JMRA正会員社紹介)を参考にしてください。。。
それと、JMRA会員社以外にも、リサーチをしているところはあるので、あとは地道に検索してください。。。

Q子 具体的に(-_-)

owl はい(^^;
まず、自分のやりたいリサーチが、量的なものか、質的なものか、どちらもか。
数字に苦手意識がなくて、数字のデータをいろいろと分析してみたいというなら量的志向。人と話をするのが好きで、言葉を元に分析してみたいというなら質的志向。少し乱暴だけど、こんな感じです。
それと、調査そのもの=データを集めることやインタビューをすることが好きなのか、集計や分析をするのが好きなのか、マーケティング的な視点で提言までしてみたいのか、ということも考えておいた方がいいと思います。

Q子 で、調査会社を調べるには?(-_-)

owl う~ん・・・、実はこれが難題。。。
まずは、ホームページを見てみることだろうね。その内容が、自分の考えているリサーチとあっているかどうかが、最初だと思う。ホームページをみると、量的調査に力が入っているのか、質的調査に力が入っているのかは、すぐにわかる。それと、調査のことばかり書かれているのか、マーケティング・テーマ的な視点でも書かれているのか、新しい調査技術や分析技術を開発しているか、といったあたりをチェックすればいいと思う。

Q子 でも、それでは、入社してからどんな仕事をするかは、わからないですよね(-_-)

owl そう・・・。それは、その会社に実際に勤めている人に話を聞いてみるしかないよね・・・。もしくは、会社説明会の時に、配属の考え方とか、ジョブローテーションについて質問をしてみる。どこまで、本音で話をするかわからないけど・・・。あるいは、学生の時に、これはと思う会社でアルバイトをしてみるとか。。。
そうでなければ、あまり大きな調査会社を選ばない、かな。非装置型の調査会社は、一人でなんでもやらないといけないので、実査だけ、集計だけということはなく、最初から一通りのことを任せられる可能性も高いから。ただ、その分、仕事はハードになる可能性もあるし、やっぱり会社によってできることと、できないことの差が大きいというリスクはあるけど・・・。

って、そんなことばかり気にしてないで、もっと、どんな仕事をしたいのか、どんな適性が必要なのかとか、そういうことを考えないと!

Q子 てへ(^^;
では、つぎにその点について、お願いしま~す。

PS.
リサーチ業界がどういうところで、どんな仕事をしているのかを知りたい方、「マーケティング・リサーチ業界」という本を読んでみてください。。。

リサーチ、調査を依頼する側の心得は?

P夫 今日は、マーケティング・リサーチや調査を「頼む」側が、調査会社とどうつきあうべきか?、でしたよね。

owl そうだね。ただ、私の話からはじめても、「調査会社に都合のいいように言っているだけでしょ?」といわれるかもしれないので、いくつかの本を参考にしながら考えていこう。

最初は、「マーケティング・リサーチの論理と技法」という本から。この本の著者は、広告代理店やメーカーでマーケティング・リサーチを実務として経験してきた方なんだ。この本の中で、調査会社を管理運営する上での心得として、つぎのように書いている。

調査会社とのコミュニケーションを密にして、相手に自分のためにやってやろうという意欲を持ってもらうことが、何よりも大切な管理運営上の心得である。管理は厳しくすべきであるが、相手の意欲を低下させないように心がけたい。

1.自社のリサーチャーが調査会社に対して、すべてのリサーチプロセスにおいて、正しい方向付け・ディレクションを実行する。ディレクションの悪さが、相手の作業のやり直しやスケジュールの遅れをよび、労力、時間、経費の無駄になり、相手からの信頼も損ないやすい。
2.調査会社に対し、調査の結果が自社のマーケティングの展開に生かされている点を可能な限り相手に説明する。そのことは、リサーチャーの職業的喜びを充たせるかもしれない。
3.調査会社との共同研究作業を実施する。

また、『リサーチ業務を正しく効果的に遂行し、意味のある調査結果をフィードバックしていくには、マーケターに期待することが少なくない』として、つぎの7つのポイントをあげている。ここでの「リサーチャー」は、調査会社にいる人間ばかりでなく、自社内のリサーチセクションの人もイメージしていると思うので、調査会社との付き合い方とは少し異なるかもしれないけど、大切なことを指摘しているので、紹介しておくよ。

1.マーケターは、リサーチャーを従属関係におくのではなく、対等のパートナーであることを十分に認識すること
2.マーケターは、リサーチャーが効果的に業務を遂行できるように、つねに必要な情報を継続してインプットしていくこと
3.マーケターは、調査企画時に、リサーチャーとの間で十分な時間を設け、解決すべきマーケティング問題、リサーチ目的、調査結果の活用法などを検討すること
4.マーケターは、積極的にグループインタビューや調査票の点検に立ち会うことによって、消費者の生の声を発見するとともに、リサーチャーの主張を理解できるようになること
5.マーケターは、マーケティングの一番バッターはリサーチャーであることを認識し、彼らからの提案を尊重すること
6.マーケターは、調査結果のほとんどは、自分たちの常識(仮説)の確認であることを承知しておくこと
7.マーケターは、リサーチャーから奇跡や救済を求めないこと

6や7は、言いえて妙だね(^^;。
なかなか、ここまではっきりと書いているものは少ないけど、ある意味真実だと思うよ。

つぎは、「マーケティング・リサーチはこう使え!」という本から。この本の著者も、大手広告代理店のリサーチディレクターで、現場で常に調査会社と付き合っている人だね。
この本の8章が「調査会社に依頼する際のポイント」となっていて、具体的な事例を交えながらポイントを整理しているんだけど、ここではとりあえず見出しだけを引用しておくよ。具体的な内容については、直接本を読んでもらう方が理解できると思うので。

・まずは、自分で企画の大枠を考えてみる
・どの調査会社と組むかで雲泥の差
・問題意識、狙いを明確に伝える
・提案を受ける/一緒に考える/そのための「ゆとりあるスケジュール」
・予めアウトプットイメージを共有する

ふたつめの「どの調査会社と組むかで雲泥の差」では、以前このブログで取り上げたことと一緒のテーマだけど、内容は近いものがあると思うから、ほっとしている。。。

どうだろう?イメージできたかな?

P夫 とにかくコミュニケーションを密にして、課題や問題意識、アウトプットを共有しながら作業を進めることが大事だということですね。それと、ディレクションをしっかりと、かな。

owl そう、その2つがポイントになる。
まずは、コミュニケーション。よくあるパターンが、「黙って言われたとおりにやればいいんだ」というスタンスで、自分の考えだけを押し付ける人。それと、最初に課題や目的、アウトプットの共有をせずに、調査会社から提出されたものについて、あれこれと文句をいう「後出しジャンケン」のパターン。これは、調査会社の意欲を失わせることになるから、このような言動は慎んだ方がいい。
それと、ディレクション。調査会社から事前に確認を求められているにもかかわらず、実査ぎりぎりになってから、ここを直せ、あそこを直せと言って来るパターンも、少なく無いんだ。これをやられると、調査会社にとってはそれまで準備してきたものがすべて無駄になってしまうし、短い時間でやり直しをしなければいけないので、当然ミスも発生しやすくなる。調査会社のスタッフだけでなく、調査員さんが必要な場合とか、グループインタビューの対象者をお願いしていた場合などは、「なんていい加減なんだ」と思われることで、彼らの協力の意欲も阻害してしまう。だから、急なスケジュールや内容の変更は、百害あって一利なしなんだ。調査は、始めるまでに結構ろいろな準備が必要になるから。紹介した2人の著者もいっているように、きっちりとしたディレクションとゆとりをもったスケジュールは、とても大切な要素になる。

P夫 そうはいっても、すぐに調査したいとか、上司に確認したら変更が必要になったということも少なく無いですよね。。。

owl そうだね、その点は調査会社も理解しているよ。だから、程度問題でもあるし、やはりコミュニケーションとディレクションだよね。詳細は決まっていなくても、これくらいの時期にこんな調査をやる予定があるとか、いつまでには内容を必ず詰めると連絡するとか、そんなやりとりをすることで、お互いの信頼関係は高まると思うんだ。

P夫 それに、調査会社の方も、大切なことを言ってこなかったり、聞いてこなかったりということもありますよ。

owl それも否定しない。調査会社も、結構コミュニケーションが下手なところはあるからね。。。
けれど、お互いに、「相手が悪い」と言い合っていても仕方がないと思うんだ。調査を頼む方も、頼まれる方も、コミュニケーションを取りあっていく、それしかないよね。これは、調査に限らず、ビジネスの基本だと思う。
ただ、いくら情報を共有しても、それに対する意見を言ってくれなかったり、相手の指示を待つだけの調査会社や人がいることも事実だけど。その場合は、あきらめて他の会社や人を探すか、あるいは一から十まで指示を与えるしかないんだけどね。。。

P夫 そうですね。。。よく、覚えておきます。

Q子 あの・・・。これからリサーチ会社に入りたいと思っている、私のような人が心がけることってないんですか?

owl そうか(^^;
このブログも、就職でマーケティング・リサーチ業界に入りたい人が、結構見に来てくれているようだし、つぎは、リサーチ業界に入りたい、調査会社への就職を考えているという人達へのメッセージを話そうか。

Q子 はい、お願いします!