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マーケティング・リサーチ業界2012

しばらくマーケティング・リサーチ業界のことを書いていなかったので、久しぶりに。
(以前ほどの激動が無くなったということでも、あるのですが)

◆国内マーケティング・リサーチ会社売上ランキング
以前、リサーチ業界ランキングを書いたのは2008年5月でした。
このときの業界順位は、以下のようになっていました。(順位は2006年売上による。かっこ順位は2001年。宣伝会議推定)

1位(2位):インテージ
2位(1位):ビデオリサーチ
3位(3位):電通リサーチ
4位(-) :マクロミル
5位(5位):日経リサーチ
6位(6位):サーベイリサーチセンター
7位(-) :ジャパン・カンター・リサーチ
8位(-) :ヤフーバリューインサイト
9位(7位):日本リサーチセンター
10位(-):TNSインフォプラン

この記事のときも書きましたが、ネットリサーチと外資系リサーチ会社の躍進が明らかなランキングの変動でした。2001年から2006年にかけて、大きな変化があったことがうかがえます。

2010年度決算データによるランキングは、つぎのようになっています。
(『宣伝会議』2012.1.15号より。宣伝会議編集部調べ。かっこ順位は2009年度)

1位(1位):インテージ
2位(2位):ビデオリサーチ
3位(3位):マクロミル
4位(7位):サーベイリサーチセンター
5位(4位):電通リサーチグループ(現 電通マーケティングインサイト)
6位(5位):日経リサーチ
7位(8位):ジャパン・カンター・リサーチ
8位(10位):クロスマーケティング
9位(‐):Ipsos日本統計調査
10位(9位):日本リサーチセンター

YVIを飲み込んだマクロミルが、売上100億円超えで確実に3位に入っていますが、大きな傾向は2006年と変わっていないと言えそうです。そして、3位と4位の間には売上で倍の差(額では60億円の差)がありますので、(狭義での)リサーチ業界以外からの大型参入が無いかぎり、Big3時代は続きそうです。

蛇足になりますが、2012年4月から『宣伝会議』の広告業界トッピクス欄から「リサーチ」が無くなったようです。ここからも、リサーチの(というか、リサーチ業界 and/or 会社の、と言った方が正しいように思いますが)プレゼンスの低下を感じます。あるいは、リサーチという括りで言及すること自体に意味がなくなった、という判断かもしれませんが。
(このような事情もありますので、リサーチ業界ランキングは今回が最後になるかもしれませんので、あしからず。。。)

◆海外リサーチ会社ランキング
海外のリサーチ会社ランキングは、JMRAのホームページで確認することができます。
(一切の転用・転載禁止なので、リンクで勘弁ください)

ESOMARによる世界売上高トップ企業25(2010) (JMRAホームページ)

このランキングによると、インテージは9位、ビデオリサーチは13位、マクロミルは20位に位置しています。(金額がわからないので、上位企業との差がどの程度かわからないのですが。。。)

また、こちら ↓ の資料(PDFです)をみると、リサーチにおける世界の中での日本の位置づけが理解できると思います。多くの方が指摘しているのですが、人口一人あたりのマーケティング・リサーチ売上や広告費に対するマーケティング・リサーチ売上の割合などを見ると、日本でのリサーチ投資の少なさがわかります。

GLOBAL MARKETING RESEARCH 2011 LANDSCAPE
(PDF:JMRAホームページ)

◆いま、マーケティング・リサーチは?・・・
ここで、リサーチへの関心をGoogle Insight for Search で確認してみます。
「マーケティング・リサーチ」「ソーシャルメディア」「ビッグデータ」の3ワードで比較してみます。
(このグラフは、検索クエリの相対値を“人気度”としてグラフ化したものです。今回のグラフでは、2012年2月のソーシャルメディアのピークを100とした場合の、各ワード、各時期の相対値を示しています)

 

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このグラフではわかりにくいかもしれませんが、「マーケティング・リサーチ」は漸減傾向にあります。2005年の4月には45あったものが、2012年の4月には12まで減少しています。一方で、「ソーシャルメディア」は2010年に伸び始め、1月にはマーケティング・リサーチを超え、2011年に入りぐんと伸びました。ついで「ビッグデータ」も2011年に入って伸び始め、10月にはマーケティング・リサーチを超え、2012年に入って大きく伸び、とうとう5月にはソーシャルメディアとほぼ並ぶくらいまでになっています。

これは検索クエリの結果なので、「マーケティング・リサーチ」というワードがある程度理解されており、あえて検索する必要がないからだということもできるでしょう。しかし、それでも検索数が年々低下していることは危惧すべきことでしょうし、ネット上の関心が、ソーシャルメディア、そしてビッグデータに移っていることについては、疑いがありません。

そこで読んでおいてほしいのが、JMRAの会長メッセージです。

「すべての活動をリサーチャーのプレゼンス向上のために」
(JMRAホームページ:2012.4.2)

ここに書かれている、「顧客企業の海外シフト」「モバイル端末やソーシャルメディアの普及」そして「リサーチのコモディティ化による価格競争」という時代認識、環境認識は基本的に同意できますし、すべてのリサーチ会社が考えなければならない課題でもあると思います。
そしてキーとなる、つぎのフレーズ。

産業としての魅力は社会に対して 提供する価値であり、その価値を創造することができる専門性にあります。

リサーチ産業の価値とは何なのか、専門性とは何なのか、あらためて、この点を考える必要があるでしょう。

◆ここ1年でのリサーチ業界の動き
ついで、ここ1年くらいでのリサーチ業界の主な動きを見てみます。いくつかのトピックスにまとめられます。

1:合併や業務提携の動きは、まだまだ続いているようです。

  • 電通リサーチと綜研が合併し、「電通マーケティングインサイト」設立(2011.10)
  • 電通マーケティングインサイトとマクロミルが合弁で「電通マクロミル」設立(2012.4)
  • 電通マーケティングインサイトとインデックスアイがMROCで業務提携(2012.5)
  • マクロミル、マーシュとオフラインリサーチ分野で業務提携(2011.12)
  • マクロミル、エリアマーケティング分野でゼンリンデータコムと業務提携(2011.11)
  • クロスマーケティング、楽天リサーチとモニターデータベースの共同利用開始(2011.5)

 

2:海外進出も拡大しています。

  • インテージ、インドでの現地法人設立へ(2012.8予定)
  • インテージ、ベトナムリサーチ会社の資本取得・連結子会社へ(2011.9?)
  • マクロミル、韓国リサーチ会社を子会社へ(2011.2)
  • マクロミル、中国のマーケティング支援会社へ出資(2012.3)
  • マクロミル、中国法人でのサービス開始(2011.9)
  • クロスマーケティング、中国での子会社設立(2012.5)
  • GMOリサーチ、イギリスにヨーロッパオフィス設立(2012.2)

 

3:拡(超?、脱?)リサーチ、とくにプロモーション分野への進出が始まってます。

  • インテージ、docomoとの合弁会社「ドコモ・インサイトマーケティング」設立(2012.4)
  • マクロミル、連結子会社エムワープにて、「GREE」の広告誘導枠を活用したマーケティング支援サービス提供(2012.5)
  • マクロミル、マーケティング支援事業のための新会社「エムプロモ」設立(2012.2)
  • クロスマーケティング、モバイル向けソリューション事業、Webプロモーション事業のための子会社「クロス・コミュニケーション」設立(2011.8)

業務提携などは、もっとあるかもしれませんが、記憶にあるものをピックアップしています。
業務提携や海外進出は時代の流れから当然としても、マーケティング支援、とくにプロモーション分野への進出が行われるようになってきました。これまでは、基本的にはタブーといわれていた領域だと思います。
しかし、とくにネットの世界では、リサーチとプロモーション領域は隣接しているともいえますし、正直なところ、リサーチよりもプロモーションの方が予算が取れるということもあるので、とくに成長が求められる上場企業の新たな事業領域として魅力的なのでしょう。リサーチを行なっている本体とは別会社での運営が条件になりそうですが、今後、この領域への事業拡大は増えそうです。リサーチ綱領との整合性をどうするのか、そろそろ綱領の見直しが必要なのかもしれません。

 

そして・・・、
つい先日発表された、こちらのリリースに注目したいです。

トランスコスモス、CRM分析・コンサルティング専門子会社「トランスコスモス・アナリティクス株式会社」を設立 (トランスコスモス ニュースリリース:2012.6.11)

コールセンター運営やCRM分析では先頭集団にいるトランスコスモス社が、CRM分析・コンサルティングを専門に行う子会社を設立すると。基本となるのは、

コールセンターのみならず、インターネットプロモーション/Webサイト/ソーシャルメディア運用などで得られる、あらゆる顧客の声(VOC)や顧客の行動情報を収集し、CRM分析サービスを提供

することなのですが、「ダブルファネルをカバーする、調査・分析サービスメニューを整備」という一文が少し気になります。ビッグデータ解析だけではなく、サーベイや観察調査など、あらゆるリサーチ手法にウイングを広げる可能性があるのではないかと思っています。なにせ、『次世代マーケティングリサーチ』の著者である萩原さんが副社長に名を連ねているのですから。
2000年代、システム技術をもったベンチャー企業がネットリサーチ会社としてリサーチ業界の黒船として参入して来たように、今後はビッグデータの収集・解析技術を持った企業が旧来のリサーチ領域へ参入してくるという、第二の黒船の時代に入るのではないかと感じています。

そして、このことが脅威になると感じるのは、「KPO(Knowledge Process Outsourcing)」というキーワードゆえです。この「KPO」という言葉、このリリースではじめて知ったのですが、こちらのサイトで詳しい内容を確認してください。

アウトソーシングの新たなトレンド「KPO」って何? (ITmedia:2009.7.22)

これまでのBPO(Business Process Outsourcing)が「比較的単純な労働集約型業務の外部委託が中心」だったのが、KPOでは「データの収集や加工(データギャザリング)とデータの分析・アナリシスなどが中心」と指摘しています。まさに、本来はリサーチ会社が業務とすべき領域です。ただし、データの規模がビッグになりすぎ、これまでリサーチ会社が行なってきた程度の「集める・加工する・分析する」技術だけでは対応が難しくなっているという点で、ギャップがありそうです。
ほんとうに、KPOが新たなトレンドとして定着していくのか、そのときのプレイヤーは誰なのか、その中にリサーチ会社が含まれるのか。新たな、さざなみが見えてきました。。。

以上、2012年のいまのリサーチ業界を取巻く状況を整理してみました。
狭い範囲でのリサーチ業界は、ひと昔前の激動時代を過ぎ、優勝劣敗がほぼ決した凪の状態にあるように思われます。ただし、強いところはさらに動きを早め、つぎの布石を打っています。
そして、“KPO” という新たな波が、少し見え始めてきたようです。今度の相手は、ネットリサーチの時のようなベンチャーではなく、IT系コンサルのような、ある程度の実績と規模をもった企業になりそうです。
そのときに、これまでのリサーチ会社は、どのようなポジションをとるのか、とれるのか。
まさに、「リサーチ産業の価値とは何なのか、専門性とは何なのか」を、早急に考え、動くことが必要になりそうです。

 

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