日別アーカイブ: 2012年5月17日

ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その2:応用編

ここ1年のお勧め本、前回の基本編につづいて応用編です。

 

『ショッパーマーケティング』
前回の基本編で取り上げようかと思ったのですが、専門性が高いのでこちらに。

ショッパー・マーケティング ショッパー・マーケティング
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-04

近年、広告代理店でも「買場」を研究する専門部隊がつくられ、いくつかの本も出版されています。消費者(コンシューマー)を、使用者(ユーザー)としてだけ理解していては不十分で、買物をする人(ショッパー)としても理解しないといけないという流れです。
本書は、日本でのISM(インストア・マーチャンダイジング)や購買者研究の総本山ともいえる流通経済研究所編集とあって、これまでの研究成果が体系的に、かつ具体的にまとめられているといえます。もくじをみると、本書の内容が理解できると思うので紹介しておきます。

第1章 ショッパーマーケティングとは何か
第2章 欧米で注目が高まった背景
第3章 なぜショッパーを捉える必要があるのか
第4章 買物中の意識と店内購買行動の活用法
第5章 ショッパーインサイトを捉えるための技法
第6章 コンシューマーインサイトとショッパーインサイトを統合する店頭マーケティング
第7章 ショッパー行動観察からの売場づくり
第8章 ショッパーの購買行動に基づく店頭コミュニケーション
第9章 FSPデータの活用法
第10章 ショッパーマーケティングにどう取り組むか
第11章 日本コカコーラのショッパーマーケティングへの取り組み
第12章 ロッテのショッパーマーケティングへの取り組み

ショッパーマーケティングの背景や意義の理解(1~4章)、ショッパーの行動や心理を把握する調査手法(5~9章)、そして企業による事例(10~12章)と、ショッパーマーケティングを総合的に理解ができる構成になっています。
最終の価値伝達の場としての買場は一層重要になっていますし、とくに消費財のマーケティングには欠かせない考え方だと思います。(そして、リアルでも、ネット上でも、応用可能だとも思います)

『次世代コミュニケーションプランニング』
つぎに、以下で紹介する本を理解するベースとして読んで欲しい本。

次世代コミュニケーションプランニング 次世代コミュニケーションプランニング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-03-30

基本的には「広告・PR人のための新しいプランニング思考法」(帯より)の本です。
しかし、よくあるハウツーものでも、「~すべき」や「~力」といった類の本でもありません。著者がはじめにで書いているように、「本物の変化を把握するための基礎力をつけるための本」であり、「考える癖を読者のみなさんに提供したい」というスタンスの本なので、マーケティングリサーチにも十分に応用が効きます。それに、同書のシリーズである『次世代マーケティングリサーチ』でも触れられていたように、広告とマーケティングリサーチは表裏一体の関係にあるので、マーケティングリサーチを理解しようとするならば、当然、広告・コミュニケーションの理解は欠かせません。
この本をリサーチという視点から読み解くことで、著者のいう「!」や「?」を感じることができるのではないでしょうか。たとえば、P24後段の文章などは「コミュニケーションプランニング」を「リサーチプランニング」に置き換え、他の言葉も少しだけ置き換えれば、ほとんど意味が通じますし、いまのリサーチが置かれている状況が示されているともいえます。他にも、「オーダー」と「オファー」(p18)、「マスからトライブへ」(p97)などの論点は、マーケティングリサーチを考える上でも重要なポイントですし、リサーチそのものについての言及もあります(p46やp57)。
そして、この本のキー概念でもある「コンテクスト」。私がリサーチとの関わりで理解しようとした言葉でもあるのですが、3年くらい前までは耳にすることの少ない言葉でした。ところが今は、これからのマーケティングを考える上では欠かせない言葉になっていると思います。
そして、以降で紹介する本を理解するためにも、この「コンテクスト」という言葉の理解は欠かせません。

『リッスン・ファースト』
関連して、帯に「ソーシャルリスニングの教科書」と書かれている、こちらの本。

リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書 リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-04-13

まさに教科書。
ソーシャルリスニングを、マーケティングの過程の中でどのように活用するかが事例を交えながら整理されています。既刊のソーシャル系の本は、どちらかというと考え方~時代的背景や、なぜリスニングか、いくつかの典型的な事例など~を示した本がメインでしたが、本書は実務に繋がる視点でソーシャルリスニングを体系的に整理しています。
扱っている領域は経営やマーケティング全般で、消費者理解、商品開発、コミュニケーション、ブランディング、カスタマーリレーション、予測といったテーマが、事例を交えながら紹介されています(ただし、事例は当然日本のものではないので理解が難しいものもありますが)。また、この分野に関わる日本の識者のコラムや対談を挟み込んでいるので、日本の状況を踏まえた視点も補えるのも、本書の特徴でしょう。
これまでのソーシャルメディア系の本では実務に活かせないなと思っていた方に、お勧めの本だと思います。
(個人的には、個別の方法論や事例よりも、Part4の「リスニングの新境地」がおもしろかったのですが、これは関心領域の違いなので・・・)

『異文化適応のマーケティング』
つづいて、グローバルマーケの本のように見えて、実は異文化論という視点が参考になる、こちらの本。

異文化適応のマーケティング 異文化適応のマーケティング
価格:¥ 4,620(税込)
発売日:2011-06

本書、帯には「国際マーケティングの本格テキスト」とあり、一見するとグローバルマーケティングの本のように見えますが、原題は、“Marketing Across Cultures”。どこにも global とか  management 、economics などの単語は入っていません。
監訳者の小川先生(法政大学大学院)が指摘するように、「社会心理学と消費文化論をベースに、国際マーケティングの分野に新しい視点を提供している(p.609)」点がおもしろい本です。さらに著者は欧州系の方なのですが、そのため米国流のマネジリアルなマーケティングとは趣を異にする視点が見られるのも特徴的ですし、おもしろい点です。
もくじを見ると、消費者行動、消費のグローバル化、市場調査、製品政策、価格、販促、コミュニケーションが扱われ、まさにグローバルマーケティングを文化の視点から考えるための教科書になります。とくに6章の「異文化での市場調査」は、“等価性”という視点から国際的な市場調査の課題を指摘しているので、これからグローバルリサーチに携わらなければならない方は、この章を読むだけでも参考になるでしょう。
しかし、ここで本書を紹介したい理由は別にあります。それは、『次世代コミュニケーションプランニング』でも言及されていた「トライブ」との関わりです。トライブとは「部族」のことなのですが、ハイコンテクストと言われる日本でも人々の均質性は弱まり、さまざまな興味や関心のもとにトライブ(部族)を形成しているのではないかと考えています。そうなると、これはまさに「異文化」を理解するためのリサーチ、マーケティングと同じ考え方をとらなくてはいけなくなります。エスノグラフィという手法が注目されているのも象徴的です。このような視点に立つときに、本書の意義は、ぐっと大きくなってきます。
とくに前半の1章から6章まで(構成は、文化というプロセス/文化のダイナミクス1:時間と空間/文化のダイナミクス2:相互作用、考え方、および行動/異文化間の消費行動/ローカルな消費者と消費のグローバル化/異文化での市場調査、となっています)は、このような視点で読むと参考になることが少なくないでしょう。
グローバルマーケティングに関わる人はもちろんですが、その他の方にも参考になる本だと思います。
(ただし、600ページにも及ぶ本ですし、お値段もそれなりので、ぜひ購入をとまでは言えません・・・)

『マーケティング・コンセプトを問いなおす』
マーケティングについて、もう一度考えてみたい人へ、おすすめの本がこちら。

マーケティング・コンセプトを問い直す --状況の思考による顧客志向 マーケティング・コンセプトを問い直す –状況の思考による顧客志向
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2012-05-01

著者の栗木先生(神戸大学大学院)は石井淳蔵先生門下、なので石井先生のマーケティング論に興味を持っている方には、お勧めしたい本です。
現代のマーケティングコンセプトでもある「顧客志向」ですが、この単純明快な命題、真理がありながら、なぜいまだにマーケティングを学ぶ必要があるのか?、これが思考の原点になっています。結論を急ぐなら、それは現実が「状況」に根ざしたものだから、となります。「状況に根ざしつつ、状況を乗り越えることを導く(p.ⅵ)」ということが求められているのです。(そして、この状況についての考え方は、リサーチ不要論を安直に唱える人にも理解しておいてほしい視点です。最後に少し触れます)
このようなことを論理的に展開していくのですが、論文がベースとなっているので決して読みやすくありません。しかし、コトラーに代表されるマネジリアルなマーケティングに限界を感じている方には、発想の広がりを得るヒントになる本だと思います。
また、本書にはリサーチに関連した章が2つあります。
ひとつは6章の「デザインの罠」。リサーチでの属性評価(味は、パッケージは、値段は・・・と個別に重視度をとるような調査)の罠について言及しています。これは、リサーチのベテランだとすでに気づいている課題だと思いますが、最近のリサーチ不要論には、この罠の未理解もあるようにも思います。
そして7章、「マーケティングリサーチの罠」。論理実証主義、批判的合理主義、社会構築主義という3つのリサーチの基本的な方法論を検討しつつ、マーケティングリサーチについて考察しています(正直、難しいです)。

マーケティング・リサーチは、未来を予測する万能のツールではない。この限界を忘れて、普遍法則が成り立つことを前提とした思考や実践にのめり込んだときに、マーケティング・リサーチは企業の経営者やマーケティング担当者をマイオピアに導く。このような罠に陥らないためにも、マーケティング・リサーチには、規則や秩序の局所性の反省、すなわちマイオピアを乗り越えるという、もう1つの役割があることを忘れてはならない。(pp.165-166)

そして、

マーケティング・リサーチには、マイオピアを解くこと、そして状況の構成を解くことの2つの役割がある。(p.227)

としています。個人的には、かなり共感できる結論です。この結論に至る過程を理解したい方、本書をどうぞ。

(参考:
栗木先生の、このマーケティング・リサーチ論についての発表が、(2012年)6月2日(土)に関西学院大学で開催される日本消費者行動研究学会(JACS)のカンファレンスであるようです。詳細は、下記のページで確認してください。

http://www.jacs.gr.jp/conference/44.html )

 

また本書に興味のある方は、関連して石井先生のこちら ↓ の本もどうぞ。
栗木先生の本に増して難解ですが。。。

マーケティング思考の可能性 マーケティング思考の可能性
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:2012-01-27

こちらの本を適切に紹介するのは難しいので、石井先生がインタビューを受けている、こちらのHPを参考にしてください。。。

異様なところに「触角」を伸ばせ(第1回)
著者インタビュー(前篇) プロフェッショナルの知性を刺激する1冊『マーケティング思考の可能性』石井淳蔵(流通科学大学学長)著
(PRESIDENT Online スペシャル:2012/5/10)

『価値共創時代のブランド戦略』
最後は、ブランド戦略の本です。

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦 価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2011-04

こちらも、アーカーによるマネジリアルなブランド論の次、といった感じの本でしょうか。
本書の目的について序章では、「本書は、こうした価値共創の問題をも視野に入れつつ、価値と関係性という2つのキーワードを基軸に、近年に展開された新たなブランド論の内容を、ケースも交えつつできるかぎり体系的に解説していくことにしたい(p.12)」としています。
アーカーやケラーをはじめとした、これまでのブランド論をきっちりとおさえながらも、「価値」と「関係性」といった21世紀の議論をふまえつつ整理しています。
ブランドに関する理論を、いまの視点も踏まえながら理解したいという方に、おすすめですし、ブランド論にこだわらなくても、価値共創とか関係性ということを理解したい方にも、参考になる本だと思います。
(ただし、こちらも論文集なので、読みやすくはありません。。。)

 

以上、ここ1年くらいの本で応用編といえるものを紹介してきました。
ここまで読んでいただければわかると思うのですが、問題意識としてあるのは、世の中に絶対的なものはなく、相対的な状況の中で位置づけられるという考え方です。おそらく、「解釈主義」といわれる考え方に近いと思います。
リサーチの古典的な考え方だと、普遍的な解(たとえば、事実とか、ニーズとか)が存在し、それを明らかにしていくのがリサーチというような捉えられ方をしていたと思います。しかし、今回紹介した本を読むと、リサーチも絶対的な解の存在を前提にして「正しい答え」を求めるような考え方からは脱却しなければならないと思えます。すべてのリサーチの結果は状況に依存しているのだし、リサーチで得られるのはある特定の状況の元での事実でしかないということです。このあたりについては、また機会を改めて整理していきたいと思います。
いずれにせよ、これまでのマーケティング論の主流であった、西洋的な要素還元主義、絶対主義、理論を前提にした考え方に疑問を感じたり、そこまででなくても何かが違う感じがする、何かヒントはないだろうか、と考えている方には、今回ご紹介したような本を読んでみると、頭を揺さぶられる感覚を得ることができると思います。

(ただし、だからといって、このような相対主義的な考え方をベースに実務を実践するのは難しく、これらの本を読んですぐに実務に役立った、ということもないと思いますので、その点は前提としておいていただければ。そしておそらく、いまだに解釈主義はどちらかというと異端だと思いますし)