月別アーカイブ: 2011年3月

『1からのマーケティング分析』

1からのマーケティング分析
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-03

今回は、最初にもくじを出しましょうか。。。

第1章 マーケティング分析の楽しさ
第2章 マーケティング分析の手順
第3章 仮説検証
第4章 サンプリング
第5章 グラフ
第6章 平均と標準偏差
第7章 相関分析
第8章 χ2(カイ二乗)検定
第9章 t 検定
第10章 分散分析
第11章 回帰分析
第12章 因子分析
第13章 コンジョイント分析
第14章 共分散構造分析
第15章 質問票の作成

「次世代のマーケティングリサーチ」だと言っていたのに・・・
「代表性のドグマに囚われるな」(こちら ↓ を参照)と言われているのに・・・

Will Social Media Replace Surveys as a Research Tool?
(Advertsing Age:2011.3.21)

という声も聞こえてきそうですですが、あえて。

本書は、これからどうなの?と言われている「サーベイ」のど真ん中の知識、統計分析について書かれた本です。サンプリングとか、平均とか、検定とかですから。

しかし、リサーチの基本を学ぶには、どうしても分析の基本を外すことはできない。いくら、次世代のマーケティングリサーチだと言われても。
萩原さんにしても、上記の英文リリースの主体であるP&Gにしても、リサーチの基本をしっかりとやってきたからこそ、いまのリサーチの問題が見えているのですし、本質を捉えることができていると思うのです。
このリサーチのベースを知らずして、またおろそかにして、次世代に突っ走っても、それは土台のない家を建てるようなものだと思っています。

それに、なんだかんだ言っても(残念ながら?)、まだ「数字で説明をする」文化が主流であるのも事実で、数字で論理的に周りを説得する技術は、欠かせないものでもありますし。

また、たとえば次世代のひとつであるバズリサーチにしても、結局統計的な分析は行なうことがあるわけですし。

ただし。
すべての人が、統計分析のエキスパートになる必要はないとも思っています。
少なくても、その考え方については、理解しておくべきだというスタンスです。

本書の内容は、まさに「入門書」です。
「マーケティング分析をはじめて学ぶ学生に向けられたテキストであり、執筆陣が学生時代に「こんなテキストがあったらよかった」という視点でまとめられている」(本書p.2)という内容です。(章立ても15章=年間講義数ですし・・・)

また、これまでの統計サイドからの入門書とは、少し毛色が異なるのが本書の特徴です。序章では、つぎのように述べられています。

マーケティング研究や消費者行動研究に関心を有する者が、調査方法や統計手法について学ぼうとしたならば、どうしてもこれまでは統計書に頼らざるを得なかった。ところが統計書の場合、まさに統計値の解説や分析手法の解説に主眼が置かれていたため、そうした統計値や分析手法をどのようにマーケティング研究や消費者行動研究に応用すべきかについてはほとんど論じられていなかった。そのため、利用局面については、読者なりにイメージを膨らませながら、読み進めるしかなかった。しかし本書では、いずれの章もマーケティング研究者や消費者行動研究者によって執筆されており、統計分析手法の「開発者側」ではなく統計分析手法の「利用者側」の視点が貫かれている。(p.4)

ほんとに入門書ですので、すでに統計についてある程度の理解のある方には、もの足りない内容だと思いますので、この点は注意を。
これまで、まったく統計分析の勉強をしてこなかった、統計分析に挑戦しながらなかなか理解できなかった、という方にはお勧めの本だと思います。

そして、本書を読んで、さらに統計分析について理解をしたいと思った方は、ぜひ、各章末にある「次に呼んで欲しい本」に挑戦を。ここにあげられている本が、私にとっても良書であったことも、本書をここで紹介しておこうと思ったひとつの要因です。

『次世代マーケティングリサーチ』の著者である萩原さんも、つぎのようにtweet してます。

“次世代の前に基本も” (2011.3.30)

『次世代マーケティングリサーチ』

次世代マーケティングリサーチ 次世代マーケティングリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-03-03

前回、予告編で紹介していた萩原さんの単著、発売されました。

Amazonランキングでは今日(3/4)現在、「マーケティング・セールス(一般)」で2位、「経営学・キャリア・MBA」で17位のポジション。また、大きな書店では平積みされてる様子が報告されていますし(私は池袋リブロで確認)、売れ行き好調のようです。
しかし、「マーケティングリサーチ」とタイトルにある本がこんなに話題になるとは・・・(もちろん、萩原さんの力でもあり、ソーシャルメディアやネットワークテクノロジーについて言及しているからだと思いますが)
twitter でもありましたが、こうなると確かに、クライアントから「読みました?」と言われる、言われずとも読んだことを前提に話をされる可能性も大ですね。

 

そして、売れているとか、そういうことに関わらず、マーケティングリサーチやマーケティングに携わる方は、いま、読んでおくべき本だと思います。

著者は「はじめに」で、「この本で紹介する手法の多くは、今のところ辺境に位置しています」としています。たしかに、いまだにマーケティングリサーチの多くはアンケートであり、インタビューです。しかし、つぎのメッセージについて、考えてみないといけないと思います。

ただ本当に大切なのは、ソーシャルメディアの普及とネットワークテクノロジーの進歩によって、生活者・消費者の行動そのものが変化していることであり、それによって企業が直面する新しい課題に対応していくことです。
マーケティングリサーチは伝統芸能のようなところがあり、基本的な哲学や必要なスキルは変わらないものと思われていました。しかし、現代のあらゆるビジネスは、知識、技術、ノウハウが次々に上書きされる宿命にあります。経験を活かしながらも、新しい時代に求められることを常に学び、イノベーションを共有していくことが求められます。
(「はじめに」p.3)

このような思いで書かれている本書の詳細な目次については、著者自身がFacebookにて紹介していますので、そちらを参照してください。

次世代マーケティングリサーチ:目次 (Facebookページ)

 

ここでは、章扉の紹介文を引用します。

Introduction 消費者が変わればリサーチも変わる
マーケティングリサーチとは何か。
今なぜ「次世代」について語らなければならないのか?
マーケティングリサーチをめぐる論点を整理する

Chapter1 なぜ新しい消費者理解の技術が必要なのか
戦争から恋愛へ。
消費者の心の中のシェアを争うとはどういうことなのか。
従来の調査ではつかめない、新しいデータ利用の発想を学ぶ。

Chapter2 パートナーとしての消費者
消費者はリサーチの「回答者」か、それとも「参加者」か。
消費者の中に飛び込み、消費者と会話するためのさまざまなノウハウを知る。

Chapter3 消費者の言葉に耳をすます
「消費者の声を聞くこと」は「市場調査」にとってどんなメリットがあるのか。
検索やクチコミ、そしてTwitterを使った「傾聴」の方法を考える

Chapter4 新しいデバイスとテクノロジーの活用
日々進化するテクノロジーがリサーチを変える。
センサリング技術や映像技術がもたらすインテリジェンスとはどのような
ものか。最先端の事例を探る。

Chapter5 マーケティングリサーチの伝統と革新
マーケティングリサーチのビジネスモデルが転換期を迎えつつあるい今、
伝統的手法と新しい手法をどう使い分けるべきか。
次世代のリサーチャーへの提言。

イントロダクションで論点整理をし、Chapter1でリサーチに求められる新たなスタンスが整理されています。Chapter2~Chapter4では、次世代マーケティングリサーチの様々な事例を紹介し、Chapter5でマーケティングリサーチへの提言がまとめられている、という構成です。

とくにリサーチャーの方には、イントロダクションとChapter1は、ぜひ読んでもらいたいです。
いま、マーケティングリサーチの周辺で何が起こっているのか、環境がどのように変化しているのか、その変化の中でリサーチャー(やマーケター)は、どのような発想やスタンスが求められているのか、が明確に整理されています。
日々の業務に追われていると、自分たちを取巻く環境の変化をなかなか感じることができないかもしれません。あるいは、まさに「辺境」の変化と感じてしまうかもしれません。
しかし、変化を自分事と感じたときは、往々にして「時、既に遅し」ということが少なくないものです。いまから、しっかりと認識をすることが大切だと思います。

いつもは、ここで本書の内容を少し紹介するのですが、とめどなく引用することになりそうなので、今回は止めておきます。
それだけ、私の感じていることが、本書には反映されているということでもあるのですが。

 

さて・・・
本書を読むと、「では、既存の調査会社(とくに伝統的といわれる調査会社)はどうすればいいのか?」ということを考えさせられます。

だが、本書でとりあげてきた次世代型のリサーチは、伝統的な調査会社ではなく、ネット企業や他業種で生まれてくるものがほとんである。マーケティングリサーチ業界が数十年続けてきたルールや習慣にこだわればこだわるほど、他業種が提供するマーケティングインテリジェンスに顧客が流れ、ビジネス機会が縮小する懸念があるのは事実だ。(「Chapter5」p.183)

という状況なので。
方法は、いくつかあると思います。

    1. 所詮これらは辺境なんだから、と何もしない。
      (わりと多いんですよね、これ・・・)

 

    1. 自前で、新たなシステムやサービスを構築する。
      (業界上位にある数社でないと、資金的に難しいかも・・・)

 

  1. すでにあるシステムを借りて、サービスを提供する。
    (ネット調査のシステムやパネルを持っていない調査会社が、ネットリサーチ会社に外注するのと同じ形ですね・・・)

たとえば、ネットリサーチがシェアを増すときに、既存のリサーチ会社が対応した方法は、主にこれらの3つだったように思います。

しかし、これから求められるのは、第4の道であるような気がします。
それは、「さまざまな会社が提供するリサーチサービスの特徴をしっかりと理解し、クライアントの求める課題にあわせて、適切なサービスを選ぶ、あるいは組み合わせて提案できる」ことではないかと思っています。言い換えれば、「リサーチのデザイン」となるでしょうか。
もちろん、手法の提案ばかりではなく、課題解決にむけて一緒に考えることが必要であることは、言うまでもありません。

以上から誤解される方もいるかもしれません。「新たな手法にばかり目を向ければいいのか」、「伝統的な手法は役に立たないのか」と。
もちろん、いまも多くのシェアを占めている伝統的な手法が(すぐに)無くなることはないでしょう。この点は、本書でも主張されていることです。
ただし、著者がいうように「リノベーション」は必要だと思います。

ですから、次世代の手法と伝統的な手法を、どのように活用すると、クライアントのニーズに応えることができるのか、ということを考える必要がある、それが求められているのではないかと思うのです。

 

思えば、”マーケティング”リサーチといいながら、調査会社自身はマーケティングができていたのでしょうか。
『欲しいのは”穴”であって、”ドリル”ではない』に沿って考えると、これまでツールとしての「サーベイ手法」の精度にこだわるばかりで(もちろん、これも大切なことです)、真にクライアントが求めていることを基点に、リサーチを考えてきただろうか、という思いがあります。
これまでは、「リサーチ業界」というコップの中で競争をしていればよかったかもしれませんが、本書で示されているように、これからはコップの外も見すえた競争もしないといけないでしょう。

そしてリサーチ会社だけでなく、個人としてのリサーチャーは、どこへ向かうべきか。
このことについても、もちろん考える必要がありそうです。
(少し、リサーチ会社に偏った内容になったかもしれませんね。しかし、事業会社に属されているリサーチャーも、「リサーチのデザイン」という視点は一緒だと思います)

本書は、とても良いヒントを与えてくれると思います。

(そういえば、本書Appendix でこのblogを紹介いただきました。ありがとうございます>萩原さん)