日別アーカイブ: 2010-12-01

『イシューからはじめよ』

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」 イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-11-24

今回紹介する本の著者は、以前から視点や考え方がとても勉強になると思っていたblog『ニューロサイエンスとマーケティングの間』の方。
このblogで2,684ものブックマークを得た、こちら ↓ のエントリーをベースに書き起こしたものが本書。出版されると聞いて即買いでした。

圧倒的に生産性の高い人(サイエンティスト)の研究スタイル
 (『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20081018)

期待に違わず、久しぶりにblogを書こうという気持ちに^^;
リサーチャーは必読の書だと思います。とくに企画や分析の仕事を始めて3年くらいで、今までの自分の思考スタイルを見直したい、整理したい、もっと効率的・効果的にしたいと思っている方が読むと、いちばん得るものが大きいかもしれません。

本書の狙いについて、著者はつぎのように述べています。

ちまたに「問題解決」や「思考法」をテーマにした本は溢れている。しかし、その多くがツールやテクニックの紹介で、本当に価値あるアウトプットを生み出すという視点で書かれたものは少ないように感じる。意味あるアウトプットを一定期間に生み出す必要のある人にとって、本当に考えなければならないことは何か、この本はそのことに絞って紹介したい。(「はじめに」p.2)

ポイントは、「意味あるアウトプットを一定期間に生み出す」でしょうか。
科学者であり、コンサルタントでもあり、今は事業会社で実務を行なっている著者だからこそ書ける内容だと思います。かなり実践的です。

もくじは、つぎのとおり。

序章 この本の考え方~脱「犬の道」

第1章 イシュードリブン~「解く」前に「見極める」
      イシューを見極める/仮説を立てる/よいイシューの3条件/
      イシュー特定のための情報収集/イシュー特定の5つのアプローチ

第2章 仮説ドリブン①~イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
      イシュー分析とは何か/イシューを分解する/ストーリーラインを
      組み立てる

第3章 仮説ドリブン②~ストーリーを絵コンテにする
      絵コンテとは何か/軸を整理する/イメージを具体化する/方法を
      明示する

第4章 アウトプットドリブン~実際の分析を進める
      アウトプットを生み出すとは/トラブルをさばく/軽快に答えを出す

第5章 メッセージドリブン~「伝えるもの」をまとめる
      「本質的」「シンプル」を実現する/ストーリーラインを磨きこむ/
      チャートを磨きこむ

序章は考え方の整理で、第1章以降で具体的な方法を提示しています。
もくじからではわからないかもしれませんが、第3章と第4章はまさに「分析とは何か」についてですし、第5章は「プレゼンのまとめ方」といえる内容になっています。

著者は問います。
「バリューのある仕事とは何か?」、そして、「バリューのある仕事を、圧倒的な生産性で生み出すプロセスは?」
そして、この問への答えとして、「イシュー(の見極め)からはじめる」ことだとしています。

つまり、「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析を設計していく。(「第1章」p.45)

これ、まさにリサーチ企画の最初のステップです(私のリサーチ研修を受けた方は、理解してくれると思うのですが・・・)。
この部分がクリアになっていないと、途端に迷路にはまっていく、ムダを重ねる、あるいはアウトプットの納得感がない、という結果に陥ります。

そして、「よいイシューの3条件」である

「本質的な選択肢である」「深い仮説がある」「答えを出せる」
(「第1章」pp.56-57)

も肝に銘じておきたいポイントです。
(字面だけで理解した気にならずに、しっかり本書で内容を理解してくださいね)

ここで疑問を持つ人もいるでしょう。
「イシュードリブン、仮説思考ということは、固定的なものの見方をしてしまうのでは?」と。
この点についても、著者はしっかりと釘をさしています。

アウトプットを生み出すステップで意味のある分析・検証は、「答えありき」とは対極にあるということだ。
「イシューからはじめる、という姿勢でアウトプットを作成するように」と同じチームの若い人にいうとかなりの確率で誤解が起きる。それは「自分たちの仮説が正しいと言えることばかり集めてきて、本当に正しいのかどうかという検証をしない」というケースだ。これでは論証にならず、スポーツでいえばファウルのようなものだ。
「イシューからはじめる」考え方で、各サブイシューについて検証するときには、フェアな姿勢で検証しなければならない。(「第4章」p183)

少し前にあった検察の問題は、ここでいう「ファウル」であったとわかります。

紹介は、この程度にしておきます。でないと、本書の内容をすべてここで書き連ねることになりそうだからです。
ただし、もう一点だけ。
このような本を紹介すると、「でも本を読んだだけでは、役に立たないでしょ?」という反論も必ずあります。この点についても、著者は明快に、つぎのように語っています。私も、この考え方に賛成です。

「僕は今、自分にできる限りの深いレベルまで、知的生産におけるシンプルな本質を伝えた。あとは、あなたが自分で経験する以外の方法はないはずだ」(「おわりに」p.239)

一度読んでみてください、若手の方はとくに。
(学生の方が論文を書く際にも、とても役立つと思いますよ)

できるだけ短い文章で書かれているからでしょうか、リズムがあり、読みやすく、わかりやすい文章だと思います。(こんな文章を書きたいと思うんですが・・・)

PS.
著者自身による本書の紹介も、↓ にてあわせてどうぞ。

本がついに世に出せそうです(『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20101102)
本の予約受付が始まりました(『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20101114)