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『「つながり」を突き止めろ』

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書) 「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2010-10-15

この本、1ヶ月くらい前に読み終わり、紹介したいと思いながら後回しになっていました。
素直に本書の紹介で書こうか、もっと大きく「つながり/ネットワーク」というキーワードを主に書こうかとずっと迷いがあったからです。わたしにとって、あまり軽く扱えないテーマでもあり。

しかし本日、アドタイムで高広さんのつぎの記事が紹介されました。

セグメンテーションからコネクションへ(アドタイ2010.12.13 by 宣伝会議)

ぜひ読んでみてほしい記事なのですが、この文を理解するにはやはりネットワークの理解が欠かせなはず。で、あまり考えていても仕方ないので、とにかく書いておこうと思い至ったというわけです。
(なので、まだ思いが錯綜していて流れが悪い、わかりにくい、あまり内容がないものになっているかもしれません。ご容赦を・・・)

本書の著者はネットワークサイエンスの研究者である安田雪先生。
実は安田先生は、もう一度マーケティングリサーチについて考えて(研究して?)みよう、というきっかけをわたしに与えてくれた先生でもあるのです(実際に師事したわけではないのですが)。
先生との出会いは2005年、セミナーにおいてでした。このときのメモを見ると、こんなことが書いてあります。

サンプリング調査への批判~ネットワークを無視しているのではないか?
→属性等によるセグメンテーション等、個の分析に過度に依存しすぎており、
  個の背景にあるネットワーク、つながりを無視している
→部分の合計は全体となり得ない
→個の分析を掘り下げても、おおもとの全体を理解できない

(安田先生のこのあたりの考え方は、マーケティングジャーナル誌101号『マーケティングは、関係を制することができるか』(2006)という論文でも触れられていますので、興味をもたれた方はこちらも読んでみてください)

「なるほど、ネットワークか」と思った記憶があります。そして、つぎのマーケティング(リサーチ)のキーワードもネットワークになるのだろうというひらめきがありました。(2005年?、遅くない?、という方もいるかもしれませんが。。。)

そしてまさに、「つながり/ネットワーク」は、いまを、そしてこれからを理解する上では欠かせないキーワードになっています。
しかしどうも、「つながり/ネットワーク」をきちんと理解している人は多くないとも感じています。とくにネット上で散見される意見や主張をみると、そう感じます。

そこで本書です。
研究者による著書ですが論文や研究書ではありません。エッセーに近い文章で、著者の私的な思いも、時おり顔をだします。
しかし、ネットワークサイエンスのトピックスや、研究領域、いまの課題などについても十分に触れられていると思うので、はじめてのネットワーク入門としては丁度いいのかもしれません。「つながり/ネットワーク」の世界が、どのようなテーマを扱っていて、いま、何が分かっているのかを理解する上で。
一応、いつものようにもくじを紹介しておきます。

第1章 対ゲリラ戦略と米軍マニュアル
第2章 電子メールから浮かび上がる業務遂行ネットワーク
第3章 SNSの人脈連鎖
第4章 広告作品「カレシの元カノの元カレを、知っていますか。」
第5章 知人の連鎖と新型インフルエンザつながり
第6章 弱い絆の強さと弱さ
終章  “入る”を制する

◆さらにネットワークを学ぶ

今回はいつもの本紹介とは趣向を変えて、本書の紹介はここまでとし、さらに「ネットワーク」をテーマとした本を紹介していきます。

本書でネットワークに興味をもたれたら、ぜひ、つぎの本を読んでみてください。
ネットワークでは古典といってもいい本で、ネットワークを勉強するには避けられない本だと思います。ネットワークの論文では、引用されることの多い本でもありますし、著者の「バラバシ」という名前や、「スケールフリーネットワーク」という単語は、基本用語です。
ネットワークについて順を追って理解するには、本書が最適では?

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く 新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2002-12-26

あわせて、こちら ↓ も読んでおくといいとは思いますが。(必読とまでは・・・)
こちらも、著者の「ダンカン・ワッツ」や「スモールワールド・ネットワーク」という言葉は、覚えておくべき単語だと思います。

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法 スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2004-10

いやいや、ここまで専門書ではなく、もう少し概論書はないですか?という方には、こちらでしょうか ↓

私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する (中公新書) 私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する (中公新書)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2007-04

以上の本は、発売日を見るとわかるとおり、日々進化・深化するネットの世界を理解するには少々古くなってきているかもしれません。
最近出版されたものとしては、こちら ↓ がいいかもしれません。

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 つながり 社会的ネットワークの驚くべき力
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2010-07-22

◆さらに進んで、実際にネットワークを研究対象としたいなら・・・

ここまでは、「つながり/ネットワーク」を理解するための本の紹介でした。
しかし、では実際にネットワークを研究するとなるとどうしたら?、という人のための本をいくつか。
(ただ、こちらはいずれも専門書ですし高い本ですので、一度、図書館ででも内容を確かめて、ほんとうに必要かどうかは判断ください。)

まずは、安田先生の著書。
ネットワーク分析を行なうための用語やモデルについて書かれていますので、基本的な理解からはじめる方は、この本から入るのがいいと思います。

ネットワーク分析―何が行為を決定するか (ワードマップ) ネットワーク分析―何が行為を決定するか (ワードマップ)
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:1997-02-14

実際にネットワークを調査、分析した事例が紹介されているのが、こちら ↓ の本。
これがそのまま使えるかどうかはわかりませんが、「初学者が実際に調査や分析を行うための入門書」ということで。

社会ネットワークのリサーチ・メソッド―「つながり」を調査する 社会ネットワークのリサーチ・メソッド―「つながり」を調査する
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2010-04

また、実際にネットワーク研究を行なった本としては、こちら ↓ など。

クチコミとネットワークの社会心理―消費と普及のサービスイノベーション研究 クチコミとネットワークの社会心理―消費と普及のサービスイノベーション研究
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2010-02-17
消費者間の相互作用についての基礎研究―クチコミ、eクチコミを中心に 消費者間の相互作用についての基礎研究―クチコミ、eクチコミを中心に
価格:¥ 3,675(税込)
発売日:2009-03
ネットが変える消費者行動―クチコミの影響力の実証分析 ネットが変える消費者行動―クチコミの影響力の実証分析
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2008-03

少し毛色の変わったところでは、こちら ↓ が面白いかも。
安田先生の本にも出てくるのですが、どうもネットワーク研究には「統計物理学」という領域が大きく関わっているらしく、先に紹介したバラバシなども統計物理学者のようです。
で、流行についての研究者と統計物理学者がジョイントして、クチコミ効果の数式化に挑んだのが本書です。

大ヒットの方程式 ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する 大ヒットの方程式 ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2010-09-15

さて、そろそろ今回のエントリーも終わりにします。
途中でも書きましたが、今、これからを理解するには、「つながり/ネットワーク」の理解が不可欠だと思います。
ぜひ、『つながりを突き止めろ』から、ネットワークの世界に入ってみてください。
いろいろと、考えさせられると思いますよ。

PS.
最後に、ネットワークからの連想で思いついたので、おまけを。
ネットワーク分析のひとつの領域としてあるのが、社内のコミュニケーション分析(『つながりを突き止めろ』では、第2章でふれています)。
社内でのメールのやりとりを解析して・・・、というのはすでに研究もあると思います。しかし、ほんとのコミュニケーションを分析しようと思ったら、対面コミュニケーションは無視できないはず。
そこで、このような ↓ ソリューションもすでにあるんですね。(ある意味、怖いですけど・・・)

社内コミュニケーションを可視化する「ビジネス顕微鏡」(日立HPより)

(この技術、マーケティングリサーチに応用できないのかな、と考えるのですが・・・)

『イシューからはじめよ』

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」 イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-11-24

今回紹介する本の著者は、以前から視点や考え方がとても勉強になると思っていたblog『ニューロサイエンスとマーケティングの間』の方。
このblogで2,684ものブックマークを得た、こちら ↓ のエントリーをベースに書き起こしたものが本書。出版されると聞いて即買いでした。

圧倒的に生産性の高い人(サイエンティスト)の研究スタイル
 (『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20081018)

期待に違わず、久しぶりにblogを書こうという気持ちに^^;
リサーチャーは必読の書だと思います。とくに企画や分析の仕事を始めて3年くらいで、今までの自分の思考スタイルを見直したい、整理したい、もっと効率的・効果的にしたいと思っている方が読むと、いちばん得るものが大きいかもしれません。

本書の狙いについて、著者はつぎのように述べています。

ちまたに「問題解決」や「思考法」をテーマにした本は溢れている。しかし、その多くがツールやテクニックの紹介で、本当に価値あるアウトプットを生み出すという視点で書かれたものは少ないように感じる。意味あるアウトプットを一定期間に生み出す必要のある人にとって、本当に考えなければならないことは何か、この本はそのことに絞って紹介したい。(「はじめに」p.2)

ポイントは、「意味あるアウトプットを一定期間に生み出す」でしょうか。
科学者であり、コンサルタントでもあり、今は事業会社で実務を行なっている著者だからこそ書ける内容だと思います。かなり実践的です。

もくじは、つぎのとおり。

序章 この本の考え方~脱「犬の道」

第1章 イシュードリブン~「解く」前に「見極める」
      イシューを見極める/仮説を立てる/よいイシューの3条件/
      イシュー特定のための情報収集/イシュー特定の5つのアプローチ

第2章 仮説ドリブン①~イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
      イシュー分析とは何か/イシューを分解する/ストーリーラインを
      組み立てる

第3章 仮説ドリブン②~ストーリーを絵コンテにする
      絵コンテとは何か/軸を整理する/イメージを具体化する/方法を
      明示する

第4章 アウトプットドリブン~実際の分析を進める
      アウトプットを生み出すとは/トラブルをさばく/軽快に答えを出す

第5章 メッセージドリブン~「伝えるもの」をまとめる
      「本質的」「シンプル」を実現する/ストーリーラインを磨きこむ/
      チャートを磨きこむ

序章は考え方の整理で、第1章以降で具体的な方法を提示しています。
もくじからではわからないかもしれませんが、第3章と第4章はまさに「分析とは何か」についてですし、第5章は「プレゼンのまとめ方」といえる内容になっています。

著者は問います。
「バリューのある仕事とは何か?」、そして、「バリューのある仕事を、圧倒的な生産性で生み出すプロセスは?」
そして、この問への答えとして、「イシュー(の見極め)からはじめる」ことだとしています。

つまり、「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析を設計していく。(「第1章」p.45)

これ、まさにリサーチ企画の最初のステップです(私のリサーチ研修を受けた方は、理解してくれると思うのですが・・・)。
この部分がクリアになっていないと、途端に迷路にはまっていく、ムダを重ねる、あるいはアウトプットの納得感がない、という結果に陥ります。

そして、「よいイシューの3条件」である

「本質的な選択肢である」「深い仮説がある」「答えを出せる」
(「第1章」pp.56-57)

も肝に銘じておきたいポイントです。
(字面だけで理解した気にならずに、しっかり本書で内容を理解してくださいね)

ここで疑問を持つ人もいるでしょう。
「イシュードリブン、仮説思考ということは、固定的なものの見方をしてしまうのでは?」と。
この点についても、著者はしっかりと釘をさしています。

アウトプットを生み出すステップで意味のある分析・検証は、「答えありき」とは対極にあるということだ。
「イシューからはじめる、という姿勢でアウトプットを作成するように」と同じチームの若い人にいうとかなりの確率で誤解が起きる。それは「自分たちの仮説が正しいと言えることばかり集めてきて、本当に正しいのかどうかという検証をしない」というケースだ。これでは論証にならず、スポーツでいえばファウルのようなものだ。
「イシューからはじめる」考え方で、各サブイシューについて検証するときには、フェアな姿勢で検証しなければならない。(「第4章」p183)

少し前にあった検察の問題は、ここでいう「ファウル」であったとわかります。

紹介は、この程度にしておきます。でないと、本書の内容をすべてここで書き連ねることになりそうだからです。
ただし、もう一点だけ。
このような本を紹介すると、「でも本を読んだだけでは、役に立たないでしょ?」という反論も必ずあります。この点についても、著者は明快に、つぎのように語っています。私も、この考え方に賛成です。

「僕は今、自分にできる限りの深いレベルまで、知的生産におけるシンプルな本質を伝えた。あとは、あなたが自分で経験する以外の方法はないはずだ」(「おわりに」p.239)

一度読んでみてください、若手の方はとくに。
(学生の方が論文を書く際にも、とても役立つと思いますよ)

できるだけ短い文章で書かれているからでしょうか、リズムがあり、読みやすく、わかりやすい文章だと思います。(こんな文章を書きたいと思うんですが・・・)

PS.
著者自身による本書の紹介も、↓ にてあわせてどうぞ。

本がついに世に出せそうです(『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20101102)
本の予約受付が始まりました(『ニューロサイエンスとマーケティングの間』20101114)