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『イノベーションを興す』

イノベーションを興す イノベーションを興す
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2009-12-17

この本の著者は、『経営戦略の論理』の伊丹敬之先生。
伊丹先生は、一橋大から東京理科大のMOT社会人大学院へ移られたのですが、そこでの研究テーマについて、現在の自分なりの枠組み(「海図」と言っています)をまとめたのが本書です。
したがって、研究結果をまとめた本ではない、つまり理論が整理された本ではないという点には留意ください。「いまの時点で先生が捉えているイノベーションについての考え方をまとめた本」、になります(もともと、新書として書こうとしていた内容のようです)。

もくじを示すと、ほぼ本書の内容はおわかりいただけると思います。

序章 イノベーションプロセスとは

第Ⅰ部 筋のいい技術を育てる
第1章 筋のいいテーマを嗅ぎ分ける
第2章 偶然を必然が捕まえる
第3章 技術が自走できる組織

第Ⅱ部 市場への出口を作る
第4章 顧客インの技術アウト
第5章 外なる障壁、内なる抵抗
第6章 死の谷とダーウインの海を活かす組織

第Ⅲ部 社会を動かす
第7章 コンセプトドリブンイノベーション
第8章 ビジネスモデルドリブンイノベーション
第9章 デザインドリブンイノベーション

第Ⅳ章 イノベーションの発生メカニズム
第10章 イノベーションの不均衡ダイナミズム
第11章 組織は蓄積し、市場は利用する
第12章 アメリカ型イノベーションの幻想

終章 イノベーターたち

この本でのイノベーションの定義は、

技術革新の結果として新しい製品やサービスを作り出すことによって人間の社会生活を大きく変革すること(本書 p.2)

としています。つまり、よくいわれる「技術革新」だけではない、ということです。
そこで、イノベーションのプロセスとしてあげているのが、

1.筋のいい技術を育てる
2.市場への出口を作る
3.社会を動かす

という三段階のプロセスであり、「三つの段階が積み重なってはじめて、人々に感動を与えられるようなイノベーションが生まれる」(本書 p.9)としています。
すでにお判りのように、もくじの各部がこの3つのプロセスになっていて、各部は具体的な内容を綴ったものです。

リサーチを考える上で参考になるのが、第4章。
イノベーションの第2段階である「市場への出口を作る」人のもつべきスタンスが、「顧客イン、技術アウト」であるとして、つぎのように説明しています。

マーケットインではなく、顧客イン。プロダクトアウトではなく、技術アウト。しかも、本体部分が技術アウトで、その修飾句として顧客インがついている。(本書 p.73)

なにやら禅問答のような文章ですが、以降の本文を読むと理解できると思います。(さすがに、ここで引用することは控えさせていただきます。長い引用になってしまいますし・・・)
マーケットイン、顧客イン、プロダクトアウト、技術アウトの4つの単語の意味を取り違えないことが重要になってきます。

論文でも、理論書でもないので、とても読みやすい文章です(最初は、新書を想定したものですし)。とはいえ、もちろんハウツー書でもありません。
「イノベーションのあり方」といったような本質?について考えたい、学びたいという方は、本書を手に取ってみてください。思考の整理になったり、新たな気づきを得ることができるかもしれません。

(もうしばらく、本の紹介が続きそうです。どこかで、一気に在庫処分してしまおうかとも思っていますが・・・。正直、みなさんも飽きてきましたよね^^;)