日別アーカイブ: 2009-12-24

『世論の曲解』

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書) 世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
価格:¥ 861(税込)
発売日:2009-12-16

このblogでも何度か「世論」に関するエントリーを書いてきましたが、その世論について新たな見方を示してくれるのが本書です。
著者は若手の政治学者です。だからでしょうか、少し挑戦的な感じも受ける本です。ご本人も、「本書は、手軽に知見を得るための本ではなく、挑戦的な議論と検証を行う種類の本である」(p.20)と言っているので、間違いないと思いますが^^;

2005年のいわゆる「郵政選挙」以降の世論や政治状況を理解する上でもおもしろいのですが、世論調査、広く見れば調査全般、データの読み方について学ぶ上でも、おもしろい本だと思います。

では、まずもくじを。

第1章 寝た子を起こした?-2005年総選挙・郵政解散の意味
第2章 逆小泉効果神話-曲解される2007年参院選の「民意」
第3章 逆コースをたどる自民党-安部政権はなぜ見限られたのか
第4章 「麻生人気」の謎-2007年総裁選・迷走の構図
第5章 作られた人気-「次の首相」調査の意味
第6章 世論とネット「世論」-曲解が生まれる過程
第7章 「振り子」は戻らない-2009年総選挙・自民党惨敗の表層と底流
終章  自民党大敗の教訓-世論の曲解を繰り返さないために

このように、巷間言われてきたいくつかの見方、解釈に対して、データ分析を通じて斬りこんでいくという内容の本です。
その対象となっているのは、「郵政選挙はマスコミに踊らされた結果」「07年参院選の自民大敗は逆小泉効果の結果」「麻生首相誕生は国民的人気の結果」「若者の右傾化」「09年総選挙の自民党大敗は振り子が民主に振れた結果」といったものです。これらの見方、解釈が、世論や世論調査を読み違えた結果として、もたらされたと主張しています。

具体的なデータ分析や議論、どのような主張なのかは本書を読んでいただくとして、ここではデータに向き合う姿勢についての学びをしていきたいと思います。

まず、なぜこのような「曲解」が起こるのか。著者は、つぎのように書いています。

人は、自分の考え方や事前に有している印象や情報にしたがって、物事を解釈しがちである。さまざまな情報やデータが周囲にあっても、自分の考えに合致する、都合のよいものだけを選び取ってしまう習性がある。少し難しい言葉で言えば、これを確証バイアスという。(本書「はじめに」pp.16-17)

これは、多くの人が陥る習性だとも思います。そして、「自分の考え方や事前に有している印象や情報」も、当然、日々の情報によって形成されているわけです。
たとえば、「麻生人気」の背景として、つぎのようなことがあったとしています。

08年総裁選時には、他にもいくつもの「国民的人気」の「証拠」が登場した。たとえば麻生太郎が書いた本の売り上げや、麻生饅頭の売り上げなどがそうである。「麻生人気」に限らず社会のごく一部による行動、限定的な現象を、一般的であるかのように語る、もしくは錯覚させる報道や言説が、政治の世界でも多い。(本書 p.141)

とかくマスコミはひとつの事象に対して集中豪雨的な報道をしがちですし、得てしてステレオタイプな、一般的に受けのいい言説を行いがちだなと日頃から感じていますので、この指摘には同意できます。

そして、このような判断の偏りや歪みは、当然、政治の話だけではないでしょう。私たちの日々の判断、ビジネス上の判断でさえ同様ではないでしょうか。
自分が多く目にしたり耳にする、自分の納得性が高い、あるいは心に残る「エピソード」だけを頼りに判断するケースを、少なからずみかけます。しかし、そのエピソードが出てきた背景や、そのエピソードが語られる文脈を理解することが重要ですし、さらにそのエピソードに対する反証例がないのかと考えることも欠かせないでしょう。
情報やデータをどれだけ多面的に見ることができるか、自分のもっている仮説や信念を批判的に見て自ら検討することができるか、ということが必要なのだと思います。
(そして本書についても、ここに書いてあることを鵜呑みにするのではなく、この分析や論理は正しいのか、という視点も必要なのだと思います)

とはいえ、このような姿勢はなかなか難しいものです。
まずは本書で、これまでの“世間的な常識”がどのように批判されているのかを見ることで、多面的な分析や批判的な検討とはどのようなことか、を学んでみてはいかでしょう。
単純集計によるデータの読み取りだけでなく、データの深い読込みには「視点の持ち方」がどれだけ重要かということも感じていただけるのではないかと思います。さらに、調査それ自体についての理解を深めるためにも。5章「次の首相」調査の意味などは、日々のリサーチを考える上でも参考になるのでは?(ベテランの方にとっては常識の範囲だと思いますが・・・)

PS.
(本書とはまったく関係ない内容だとは思いますが、「データの見方」という点では参考になると思うので・・・)
『とみざわのマーケティングノート』さんにて、先日のM-1結果についての分析をしています。
「笑い飯への紳助の100点」が話題になっていましたが、このように分析すれば取り立てて特異なことではないことがわかります。(そして、このようなデータを見ると、リサーチにおける得点も素直に集計してしまっていいのかと思いませんか?)
このような疑問をもつこと、そして実際に計算をしてみることが大切なのですね。
興味のある方は、ぜひこちらも。

M-1笑い飯、紳助の100点は東国原の92点
(「とみざわのマーケティングノート」2009/12/21)