日別アーカイブ: 2009-12-11

「社会調査学科」?!

萬さんからコメントで、つぎのようなリクエストをいただきました。

奈良大学に日本初の「社会調査学科」ができるそうですね。
この話題についてのご意見をお聞かせ下さい。(2009/12/8)

少し遅くなりましたが、「社会調査学科」についてのエントリーを。

◆奈良大学・社会学部・社会調査学科とは

まず、ご存じない方のために「社会調査学科」についての紹介を。
「社会調査学科」は、奈良大学・社会学部に開設されます。これまであった「現代社会学科」からの名称変更のようです。

奈良大学・社会学部・社会調査学科HP

とくに、学科紹介のために作られている下記のページは、ぜひご覧ください。なかなかよくできたコンテンツだと思いますので。(ただし、全部みるのには少し時間が必要かも・・・)
とくに、STAGE1~3は、社会調査を理解するために、よい内容だと思います(マーケティング・リサーチについても、触れられています)。

What is 社会調査学科? 「社会調査学科はおもしろい」 (奈良大学HP)

◆「リサーチはツール」だけど・・

さて・・・
では以下で、「社会調査学科」についてのコメントを。

マーケティング・リサーチに限らず、調査についてよく言われることとして「調査やリサーチはツール」ということがあります。
たとえば、今回の「社会調査学科」について書かれたblogをみてみると(ほとんどないですけど・・・)、「調査は手段であって、望まれているのは調査をしてそれをベースに実行する人。だから、手段としての社会調査学科がこれまでなかったのもあたりまえ」という疑問を呈している方もいらっしゃいます。
確かに、調査やリサーチの知識や技術だけで問題を解決することはできないですし、問題解決を実行をするには、さらに様々な他学問の知見を持ち込まないといけないということは事実だと思います。
そして、このような「調査やリサーチはツール」という位置づけだからこそ、これまでも「社会調査」は社会学や経営学、商学のひとつのカリキュラムとして設定されていたのだと思います。
「ツールとして使いこなせればいい」ので。

しかし、ほんとうに「社会調査」で学ぶべきことは、ツールとしての理解でしかないのか?
実際に実務をしていると、さらに社会調査を理解すればするほど、これは単なるツールと捉えてはいけないのでは、と思うようになっています。
とくに、社会調査の方法論(サンプリングの方法とか質問紙の作り方、といったテクニックのことではないですよ)は、どんな職業においても必要な考え方ではないかと思っています。
問題の本質を捉え、仮説を立て、それを操作可能な変数に置き換え、正しい情報を正しい方法で得、情報を分析し、問題への解や、あらたな理論を創出する方法論、これが社会調査を学ぶ本質ではないでしょうか。
そして先にも言ったように、このような方法論は、どんな職業においても、もっといえば社会生活を営む上でも、必須のものではないかと思っています。
極論すると、大学の1年次で、すべての学生が学ぶべきもの、ではないかとも。

これほど大きな視点で考えなくても、これだけ様々な情報が氾濫している社会においては、「正しい情報を得る方法」「情報を判断する方法」を学ぶだけでも、かなり役立つのではないかと。

こういった視点から考えると、あえて「社会調査学科」ではなく、すべての大学で、すべての学生が、「社会調査論」の基礎を学ぶことこそが重要なのでは、と考えています。
(ほんとは、大学というところは、こういう研究の方法論を学ぶべきところのはずですよね。。。いまでは、大学院にその役割が移っているようにも感じますが)

ただ、このような考え方の端緒を開いたのではないか、という意味合いでも「社会調査学科」はおもしろい学科だと思いました。(「教養学部」という、やはりよくわからない学部を卒業した人間ですので、もともとこういった考え方への志向性が強かったというのもあって・・・^^; )

このあたりの考え方は、学科紹介でも記されていると思いますので、長いですが引用させていただきます。

高齢社会や環境問題、不況や雇用の不安。現代社会はさまざまな問題を抱えています。これらの問題の原因や背景は複雑に絡まり合っていて、「できごと」を表面的にながめているだけでは状況を正しく理解することも、解決策を見いだすこともできません。

複雑化する現代社会を生き抜くための技術。
それは、情報をいかに「収集」し「分析」し「活用」するか、という技術です。
これまで、情報武装といえば「情報技術(IT)」ばかりが注目されがちでした。しかし情報技術を活かすためには、情報そのものの「質」が非常に重要。どうすればそれらの技術を総合的に活用できる人材を育てることができるか。奈良大学の答えは「社会調査技術と情報技術の融合」。
それが「社会調査学科」です。

しかし、いくら優れた技術を身につけることができたとしても、社会に対する深い洞察力や、「おもしろいこと」をかぎ分けるセンスがなければ宝の持ち腐れです。
情報の収集・分析・活用のどの場面でも、具体的な理論を活かせてこその技術。
奈良大学は情報学・社会学・文化人類学・経済学・経営学を専門とする教員が、理論的な学びをサポート。知識を現実の社会で応用していく力をブラッシュアップします。

実際に課題をみつけ、実際に社会調査に取り組む実践的教育を通して、幅広い理論と問題を見つけ出す鋭いセンス、深い洞察力をもって社会に切り込んでいく鉄壁の武装を。
奈良大学・社会調査学科HP 「学科紹介」より)

そして、実際のカリキュラムも、1年次で社会調査のベースとなるもの(文化人類学も必須というのもおもしろいですよね)を学んだ上で、それぞれの興味で社会学、経営学、情報学といった専門性を深めていく過程になっているのも、いいカリキュラムだと思います。社会調査の方法論をベースにしたうえで、それぞれの専門領域の課題に向き合うことができるので。

蛇足ですが・・・
これらを、奈良、という多くの文化財と接することができる環境で勉強できるのもいいなと、個人的には思います^^;