月別アーカイブ: 2009年11月

「日本版CSI」は廃止か?!

何かと話題になっている政府の「事業仕分け」ですが、その対象のひとつとして、「サービス産業生産性向上支援調査事業」も取り上げられていたようです。
本日(2009/11/27)実施され、結果は「廃止」対象とか。。。

 【サービス産業生産性向上支援調査事業】中小・零細のサービス企業の経営効率化を支援する経産省所管の事業。概算要求額は14億円。仕分けでは「業務委託先の財団法人の活動への支援になってしまっている」と批判が続出。再委託の契約についても、単独応札など不透明な例があると指摘され、判定は「廃止」。(「事業仕分け結果27日」~47NEWS:2009/11/27より)

関連の資料は、行政刷新会議のHPで見ることができます。

配布資料(PDF) 
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』配布資料より

評価コメント(PDF)
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』評価結果より)  

評価コメントが未掲載なので(11/27現在)、どのような議論がなされたのかは不明ですが、上記の記事からは本質的なことよりも委託先との関係が問題視された?、という印象を受けます。(確かに、要求額14.8億円のうち人件費が9.5億円というのを見ると、そうなのかなと思わせるものもありますが。。。)
ただ、予算担当部局による、この事業に対するコメントでは、「本来民間自身が実施すべき事業」であり、「民間による応分の負担又は国の関与の要否について検討すべき」とあるので、このあたりがどう判断されたのかが、興味のあるところです。

さて、
この事業で影響を受けるのが、以前このblogでも取り上げた「日本版CSI」。

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル(本blog:2009/3/19エントリー)

業界横断的に、共通の指標で、サービスについての顧客満足度を測定し、公表していこうというもの。パイロット調査を経て、第1回の調査結果が発表されていました。

日本版CSI(顧客満足度指数)の第1回発表
(サービス産業生産性協議会HP:2009/10/6のニュースリリース)

※上記の詳細資料は、→こちら(PDF)

個人的には、本事業のほかの支援策等についてはともかく、この「日本版CSI」については、続けて欲しいという気持ちはあります。
とくに、日本版CSIが参考にしたACSI(米国顧客満足度指数)を見ると、なおさら。

The American Customer Satisfaction Index

ここには、業界とそこに属する個別企業の満足度指数が、1994年から毎年掲載されています。さらに、このような個別業界・企業の評価ばかりでなく、GDPや株価などとの関連性なども分析され、マクロ経済の指標としても活用されていることがわかります。(さらには、政府に対する満足度評価まであります)

確かに、個別企業の満足度測定とそれに基づく改善活動は、民間が自身でやるべきことではあると思います。
ただ、マクロに捉えるならば、共通の物差しで、業界横断的にサービス水準が継続的に測定され、そのデータが公開されるということは大切なことではないかと思うのです。GDPがゴールとなる指標(KGI)であるとすると、そこに至る過程であり、影響を及ぼす要因(KPI)としてのサービス満足度を把握することは重要な視点であると思います。さらに、これらのデータが様々な研究に寄与していくことに意義があるのではないかとも思います。
もっといえば、低水準なサービスしか提供できていなかった業界が、他業界の満足度水準と比較されることによって、そのサービス水準の低さに気づき、サービスを向上するきっかけになる、結果とし国民生活の向上に寄与する、サービス産業の生産性の向上に寄与するというメリットもあるのではないか、とも考えるのです。

とはいえ・・・
国の予算に限りがあるのも事実で。。。
どのような議論を経て「廃止」ということになったのか、具体的な評価コメントを見てから、さらにコメントしてみたいと思います。

【2009/11/29追記】
評価コメントが掲載されていたので、追記。
記事の通り、運営機関との関係云々の話もありますが、

  • 国が関与する必要なし、民間に任せるべき
  • 受益を受けるのは一部企業に限られる
    しかも、中小企業ではなく、大企業が受益対象となる
  • すでにある成果を、普及すればよい

ということが、話されたようです。
まず、今回の議論の対象は、「サービス産業生産性向上支援調査事業」であって、日本版CSIそのものではない点を、あらためて指摘しておかないといけないでしょう。この点をふまえると、上記の意見も、もっともだと思います。この事業の中心を「支援」と考えるならば、たしかに国がすべきことでもないと思いますし。。。

とはいえ、日本版CSIは、アメリカのように継続して実施してほしいなと思っています。
理由は、上記のとおりです。業界横断的に、共通の指標で比較可能な指標が、時系列で把握でき、公に発表されるデータは、やはり貴重なものだと思います。評価者の意見にも一部あったように、公的統計として継続することを考えて欲しいと思います。
そして、このデータが、きちんとマスコミ等によって報道されることが重要なのですが。さらに、多くの研究者の素材データとして活用されることも。
データを集めるだけで、きちんと公表されないし、活用もされないのであれば、この事業仕分けでもよく議論される「成果」という点で、意味がないので。

蛇足ながら、この事例からマーケティングリサーチについて考えたことをもうひとつ。
この手のベーシックなデータ収集は、企業で実施する場合でも、3年くらい経過すると中止されることが多いと感じています。「結果が、変わらないから」という理由で。
しかし、このようなベーシックなデータは、長期間継続して収集するからこそ価値があるのではないでしょうか。長期にトレンドを追えるからこそ、市場の変化や、自社の課題を捉えることができるのではないでしょうか。分析の自由度も、長期的にデータが蓄積するからこそ、高まりますし(たとえば、コーホート分析などは、かなりの長期データが必要になります)。
また中止の理由として、「データばかり集めても、売り上げにつながらない」という声も聞かれます。たしかに、データはデータであって、ここから直接的に解決策が得られるわけではありません。しかし、データやリサーチに基づかない意思決定が、ほんとに売り上げに寄与するのか? 様々な施策の成功確率をあげるためにも、データやリサーチに基いた意思決定が必要なのではないか? データをデータとして眠らせるから価値がないのであって、情報やインテリジェンスに転換することの重要さを理解してほしいなと思います。

(今回の事業仕分けは、直接、日本版CSIを否定したものではないですが、ついでに。。。)

『グローバル化とネット化の中で』

標題は、JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)会長である田下氏の寄稿(かな?)です。

記事は、フジサンケイ・ビジネスアイのもの。

インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とネット化の中で
(Fuji Sankei Business i:「特集:論風」 2009/11/13)

協会が、マーケティング・リサーチについての現在の課題を、どのように考えているのかを知ることができると思います。

また、開催が迫っていますが、協会のカンファレンスでも、生のお話を聞けるかも。
興味のある方は、こちらもどうぞ。特別講演が、茂木健一郎氏ですし。
(会費が、お高いとは思いますが・・・)

JMRAアニュアル・カンファレンス2009 (JMRA HP)

インテージ&電通、業務提携へ

すでに、多くのサイトでニュースとして取り上げているので、ご存知の方も多いと思いますが、インテージと電通の業務提携が発表されました。
ただ、どこのサイトもリリース記事の内容を簡単に紹介するのみで、踏み込んだ記事はないようです(2009/11/8現在では)

ということで、一番詳細なのはリリース元のオリジナルなのでこちらを ↓ 。

インテージと電通、「マーケティング・インテリジェンス」領域で業務提携
(インテージ、ニュースリリース:2009/11/5)

リリースの中心となるのは、おそらくつぎのパラグラフだと思います。

このたび両社は、インテージグループが得意とする「店頭の販売動向および生活者の購買行動の両面から課題解決の要因を洞察するノウハウ(マーケット・インサイト)と情報分析力」と、電通グループが得意とする「生活者の行動の起点となる意識・価値観から課題解決の要因を洞察するノウハウ(ターゲット・インサイト)と施策実行力」を組み合わせた、単なる個別の課題解決策の立案に止まらない、ワンストップ・ソリューションを共同開発することと致しました。これにより、クライアント企業の事業・マーケティング活動における「意思決定精度の向上」、「スピードと業務効率の向上」、「実効性の高い解決策の実行」のより強力な支援を目指します。

リサーチ業界トップのインテージと広告代理店トップの電通の業務提携なので、ニュースバリューはそこそこ。
けれど・・・。
このリリースを読んでも、何をするのかよくわからないな・・・、というのが正直なところ。

概念図をみても、???。
課題抽出をしたり戦略提案をするのは誰? PDCAサークルをまわすのは? 電通? インテージ?
というか、課題抽出や戦略提案って、領域が大きすぎない? 業務提携で行うこと?
素朴にみてしまうと、合併でもしないと実現できないことのような気が。。。

ということで、これ以上のコメントは差し控えます。。。

この後、blog等でコメントや解説記事がでていたら、ここでフォローしたいと思います。
あるいは、もっと具体的な動きが出てきた時に。

“「『新聞は必要』91%」の波紋”を考える

またまたSurveyMLでの萩原さんの投稿がネタ元です。。。

元記事は見ていないのですが、読売新聞にて「『新聞は必要』91%」という調査結果が発表され、はてぶで波紋を呼んでいるという内容のコラムです。(このコラムが、「あらたにす」のHP内で読めることも画期的だと思いますが)
前回の、世論調査論の続編的な位置づけで、このコラムを読んでみたいと思います。

まず、大元の記事はこちらです ↓ 。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (YOMIURI ONLINE:2009/10/14)

この記事についての、はてなブックマークがこちら ↓ 。
世間の調査についてのスタンスの一端がうかがえます。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (はてなブックマーク)

このはてぶに対するある個人の解説?、反論? がこちら ↓ 。
おそらく調査マンだと思いますが、この内容は。

はてな匿名ダイアリー anond:20091016123352 (2009/10/16)

そして、これら一連の動きを整理しコメントしているのが、標題の“「『新聞は必要』91%」の波紋”です。

「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

歌田氏のコラムには、いくつかの論点が含まれています。調査論に関すること、ネットユーザーに関すること、PRに関することなどです。
それぞれに、考えなければならないポイントだと思うのですが、個人的に共鳴したのは、以下の部分です。

調査の詳細がわかると、なぜ高い数値なのかの推定もできる。詳しいデ ータを見れば見るほど、当初の「ウソくさい」という思いは(完全に払拭 できるわけではないが)薄らいでいく。少なくとも「『新聞は必要』91% 」というタイトルのもと、わずかばかりの記事を読んだときとは印象が変わってくる。
(「『新聞は必要』91%」の波紋~歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

パブリシティ記事の限界だとは思うのですが、調査記事の多くは、調査サンプル全体を集計のベースとしたGT(単純集計)の数字のみを取り上げることがほとんどです。
しかしここで、前回の「誰が回答したデータなのか」という点を考える必要があります。日本人、あるいは調査対象としたい人々を正しく代表しているデータであれば、GTだけでも十分に意味のあるデータだと思いますが、そうでないならばGTにはあまり重要な意味はない。あくまで参考値と見るしかないでしょう。
(実際に、紙面で紹介されている年代別構成比は、高年齢層に偏った分布になっているようです)

ここで、データをどれだけ詳しく見ることができるか、が重要だと思うのです。
今回のテーマであるなら、少なくても、年代別の差異やインターネットの利用時間別の差異くらいは確認するべきでしょうし、このようなデータを検証していくことで、はじめて有用なデータが得られるのだと思います。
(まぁ、今回の記事はPR色が強いということで、今後の新聞をどうするかが目的ではないので、そこまで必要ではなかったのかもしれませんが)

マーケティング・リサーチを主にしている人にとっては、クロス集計はあたりまえかもしれません。。。
けれど、実際に使うデータ(とくにトップラインなど、エッセンスを報告する時のデータ)は、GTデータがメインだったりしませんか? あるいは、クロス集計の軸も性別、年齢、職業などの決まりきったものにしていませんか?
ほんとうに意味のあるクロス軸を考え出すことが、調査結果を活かせるかどうかにかかっていると思います。
クロス軸はまさに、「誰が回答したのか」をあぶりだす、あるいは「誰の回答を重視したいのか」を決める重要な視点になっているということです。

実際に、今回の読売調査でも、

調査についての発言部分は掲載されなかったが、取材を受けるさい、掲載されたよりももう少し詳しいデータも見せてもらった。それを見ると、 20歳代は30歳代以上と顕著に違っていた。
20歳代は新聞を読む時間が少なく、新聞への評価も低い。この世代は、 新聞離れが進んでいた。
(「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2))

ということのようです。

この調査の設問とGTデータが、こちら ↓ で確認できます。

「新聞週間」  2009年9月面接全国世論調査 (YOMIURI ONLINE)

今回の調査手法は、層化無作為二段抽出による個別訪問面接聴取法(抽出フレームが不明ですが、選挙人名簿かな?)。回収率は60.9%で、最近の訪問面接ではまあふつうでしょうか。
紙面では公表されていたようですが、せめて年代別の構成比くらいはここにも掲載してほしいものです。でないと、データをどう読んだらいいかわからない。。。

そこで、「回答者は誰か」を推し量るひとつのデータとして注目したのが「あなたは、平均して、1日にどのくらいの時間、パソコンや携帯電話でインターネットを利用しますか」への回答。「まったく利用しない」が43%に上っています。う~ん・・・、どうなんでしょう?
全国で、20歳以上だとこの程度なのでしょうか? 毎年総務省で行っている「通信利用動向調査」(平成20年版のプレスリリースは、→ こちらへ )からは、もっと高い利用率になりそうな気もします。。。
ということは、世間一般に比べ、インターネットなどをあまり使わない層の比率が高い可能性もあるのか?
(ただし、「利用」の定義がそれぞれの調査で異なっているかもしれないので、一概に比較できませんが。たとえば、プライベート利用だけなのか、会社や学校での利用も含むのかなど。このあたりは、調査票作成のポイントの話にもなりますけど)

このようなときも、インターネットの利用有無別(さらには、利用頻度別にも)でデータを見ると、GTでは歪んでいるかもしれない調査データも、ある知見を与えてくれるデータとなるのでは?、ということです。

今回紹介したコラムから、前回の「この調査の回答者は誰か?」を考えることとあわせ、データを分けてみる、まさに「分析」の重要性を理解していただければと。「分析」こそが、データの背景を考える=誰が回答した結果かを考えるひとつの重要な過程になるのです。