日別アーカイブ: 2009-10-21

世論調査”論”からマーケティング・リサーチを考える

(ほぼ1ヶ月、更新が滞ってしまいました。。。
かなり前から標記のテーマを考えていたのですが、気軽に書けるテーマではないので筆が鈍っておりました。とはいえ、いつまで考えていても仕方ないので、とりあえずエントリーを。久しぶりに長編になってますが・・・)

この8月、9月は、衆議院選挙や鳩山内閣の誕生と、世論調査の重要なテーマが続き、さまざまな調査結果がメディアをにぎわしてきました。
そして、このタイミングだからなのか、世論調査をテーマにした研究会や雑誌、トピックスがいくつか目に留まりました。これら、世論調査「論」とでもいうものを少し整理し、ここからマーケティング・リサーチについても考えてみたいと思います。
(※このエントリーで紹介している情報、そして内容については、Survey MLでの萩原さんの投稿を参考にさせていただいています。この場で参考・引用と、情報提供への謝意を記したいと思います。いつも有益な情報をありがとうございます)

◆いくつかの世論調査”論(?)”

まず、ここ数ヶ月の間に発表されている世論調査”論”といえるような記事を紹介します。

最初に、日本記者クラブで行われた会見録から。つぎのHPで見ることができます。
(今回のテーマ以外の記事も、なかなか興味深いテーマとゲストが並んでいます)

日本記者クラブ会見速記録2009年(日本記者クラブHP)

このページに、シリーズ研究会「世論調査」として、下記の講演録が収められています。(もしかしたら、今後も続くかもしれません)

①2009/6/26 世論調査の役割と限界(峰久和哲氏)
②2009/7/10 世論調査にハイブリッド方法を(萩原雅之氏)
③2009/7/17 世論調査は勝負審判ではない(西平重喜氏)
④2009/9/3  世論調査へのエール(松本正生氏)

4名の方が、それぞれの立場から、それぞれに世論調査について話をしています。
多少乱暴に整理してしまうと、峰久氏はメディアの現場からみた世論調査の現状と課題を、萩原氏はマーケティング・リサーチの視点も入れながら今後を、西平氏は研究者の立場から世論調査の成り立ち、欧米との比較等をふまえた課題を、松本氏は研究者の立場からの現状整理と課題を、という内容になっています。これらを一通り読むと、世論調査が抱えている課題と、「これまで、いま、これから」を概観することができます。
以前、このblogでも取り上げた福田改造内閣の支持率問題についても、皆さん、それぞれの見解を整理しています(→ こちらのエントリーです「まちまちな改造内閣支持率・・・」)。

つぎに、雑誌『Journalism』での特集「世論調査を調査する」です。
具体的な内容については、下記 ↓ を参照してください。
(記者クラブのゲストのうち3名の名前が、こちらでも見られますが。。。)

『Journalism』2009年8月号もくじ(朝日新聞・ジャーナリスト学校HP)

最初の座談会がテーマ記事で世論調査の問題点や課題を整理しています。
他にも、RDDの現場で何が行われているのか、出口調査がどのように行われているのか、といった記事も、なかなか興味深く読むことができました。

最後に、ネット世論調査に関するいくつかの記事。
ネット上でもかなり物議を醸していたのでご存知の方も多いと思いますが、代表的なまとめ記事としては、つぎ ↓ のものがありました。

いつか牙をむく?「ネット世論は内閣支持率25.3%」という発想
(BP net /日経BP社)

この記事は、コメント欄にも目を通していただくと、世間の世論調査への意識も垣間見ることができると思います。

そして、この記事とぜひ一緒にご覧いただきたいのが、下記 ↓ の結果。
ニコニコ動画による衆議院選挙出口調査の結果と内閣支持率調査の結果です。
(参考までに、Yahoo!によるほぼ同時期の内閣支持率調査の結果も)

第45回衆議院議員総選挙ネット出口調査(ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/17(ニコ割アンケート:ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/16~19(Yahoo!みんなの政治)

最初、ニコニコ動画の数字を見たときは驚きました。
サンプル数だけでいえば、出口調査では約24万人、支持率調査では6万人近くの回答者を集めています。サンプル数至上主義の方からすると、メディアの世論調査に比べると、こちらの結果の方が妥当性があると判断してしまうサンプル数です。(「サンプル数が多いほうが正しい調査だ」と思っている方、時々いらっしゃいます。この結果を示せば、サンプル数がすべてではないと理解してくれるでしょうか・・・)
しかし、この出口調査の結果は明らかに現実の投票結果とは異なるもの。どうして、ここまでのギャップが生まれるのか?
(ここで、調査対象や調査手法に疑問を持った方は偉い。ということで、ニコ割アンケートの調査方法は、こちらを → ニコ割アンケートとは )
ただし、ニコニコ動画の結果が、いいかげんだとか、間違いだと決め付けるわけにはいかないと思っています。これも、ある側面からの現実のはず。では、ここには何が?

◆世論調査の課題

これらの記事で指摘されていることはいくつかあります。

まず、世論調査が氾濫しているのではないか、政治や国民が世論調査を気にしすぎているのではないか(世論調査政局とか世論調査型民主主義の問題)、ということがあります。
たとえば、松本先生のつぎの言葉は、なかなかおもしろい。

あれほど世論調査に答えるのを嫌がるのに、調査結果はこれほどもてはやすって何?、という、そういう気持ちがあるのです。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」④ 松本先生の回」より)

マスメディアだけでなく、上記のようにニコニコ動画とかYahoo!とか、とにかくさまざまなところから世論調査と称した調査結果が発表されている。リサーチに対するリテラシーが高いとは思えない状況の中で、これだけ調査結果が氾濫していること自体、たしかに大きな課題だと思います。(統計教育など、ほとんどなされていない現状だと思いますので・・・)

ついで、回収率の低さの問題。さらに、RDDにしろ、ネットにしろ、さらには訪問面接にしろ、どんな手法にもそれなりの回答者の偏りがあるということも共通に認識されている内容です。
とくに、メディアの世論調査での代表的な手法であるRDDにおいても、代表性に課題があることが多く指摘されています。
世論調査ということを考えると、いかに代表性を確保するかは重要な課題ですので。

しかし、さらに見ると、調査回答者に対する深い認識も必要ではないかということが指摘されています。
たとえば西平氏は、社会学者ブルデューを引用しながら、つぎのように指摘しています。

1つは、彼には前提の3にしているのですが、調査のテーマが社会的、あるいは政治的、学問上どんな重要なものであっても、だれもがそれについて意見を持っているわけではないということである。それなのに、あたかもだれもが意見を持っているように世論調査をやっている。そんなもので調べた世論なんてものは n’existe pas 「ないよ」というわけです。
つぎに前提の1というのは、聞かれたから答えただけだよ、というのを、その人の意見といってよいか、というのであります。
それから、前提2は直接テーマと関係がある当事者の賛成というのと、それとは全然関心もなければ興味もない人の第三者としての賛成を同じ賛成意見と数えてよいか。賛成何%とか。子供がいて、いま大変な学校の問題で悩んでいる親の何とかに対する賛成と、私のような孫もいない者の賛成とを一緒に賛成と数えていいのか、こういうわけであります。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」③ 西平先生の回」より)

この点に関して、朝日新聞の峰久氏もつぎのように言っています。

レジュメの4ですけれども、回答者は新聞をしっかり読んでいるはずだという錯覚が、調査を発注する側にはどうもあるようです。これは長年変わりません。残念ながら、いまは新聞を読んでいるどころか、テレビのニュースさえちゃんとみていない人が非常に増えています。先ほど申し上げましたように、いろいろ説明してあげなければ調査に答えられない、助け舟を出さなければ調査に答えられない、というのが現状なのです。
同時に、こういうことも考えています。要するに、何も知らずに、考えもせずに回答してしまう人が増えているのだな、と。ごくわずかな設問のワンフレーズで反応してしまう人たちが増えているように思います。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」① 峰久氏の回」より)

単純に、「RDDでは在宅率の高い人の回答率が高い」など属性的な側面ばかりでなく、回答者の質的な問題も考える必要があるという指摘です。

◆マーケティング・リサーチについて考える

さて、世論調査の課題を、マーケティング・リサーチにどう援用するのか。
代表性の問題や回答者の質的な問題から、つぎのように考えました。

“どのようなリサーチにおいても、「回答者は誰なのか?」ということを、強く意識する必要がある”

ということです。

まず、どんな調査手法をとっても回答者に偏りが発生する可能性が高いという認識が必要だということがあります。
RDDに回答するのはどんな人か?、ネット調査に回答するのは?、訪問面接調査で回答するのは?、街頭でお願いしたCLT調査に回答してくれるのは?・・・。あるいは、回収率の低さという視点からみると、「回答しなかったのは、どんな人か?」ということ。
まずは、これらのことをしっかりと考えておくことが、重要だと思います。
(RDDについてがメインですが、手法別の回答者の特徴については、先に紹介した記者クラブの会見録でも、さまざまに指摘されているので、そちらを参考にしてください)

つぎに、とくにネット調査においては、同じ手法だからといって、同じ偏りが生じると考えない方がよい、ということです。これは、ニコニコ動画とYahoo!の結果の違いからも明らかです。
この点に関して、おもしろい記事がありました。

【WEB世論大調査】新政権でどうなる?あなたのお財布(MSN産経ニュース:2009/9/24)

記事の主目的は民主党が掲げている政策についての賛否だと思うのですが、ここで興味深いのは、アメーバ、MSN産経ニュース、ニコニコ動画、はてな、モバゲータウンという5つのサイトを通じて調査を行っている点です。
そして結果は、一様の結果にはならず、それぞれのサイトの特徴があらわれる結果になっています。もちろん、単純にそれぞれのサイトユーザーの性別・年齢などのデモグラフィック属性の差が表れているだけともいえるかもしれません。しかし、もっと深い何かがあるように感じるのは、私だけでしょうか?。。。

この点について、萩原さんはMLで、つぎのようにコメントしています。

確かに「世論調査の代替」では使い方は難しいですけど、私はむしろ質問の方を「ものさし」として、ネットユーザーにおける特徴ある部族(tribe)の特徴を分析したものとすれば面白いと思うのです。
つまり「産経族」「アメブロ族」「はてな族」「モバゲー族」「ニコニコ族」の文化人類学的考察であると。いずれの tribeも、ネットはもちろんリアル生活でも特有の価値観や行動を持っているように思うので、もっと同一設問をあびせて、特性を描き分けて欲しいと思った次第。
(「Survey ML:12075」萩原氏の投稿より)

私も、「部族(tribe)」というのは、いまのネットやマーケティングを考える上でのキーワードになるのではないかと考えていたので、この指摘にはまったく同意です。
マーケティング・リサーチを主としている会社のモニターの特徴は明らかではありませんが、やはりマクロミルにはマクロミルの、Yahoo!にはYahoo!の、クロスにはクロスの、楽天には楽天の、gooにはgooの・・・、とモニターの特徴=部族性が、多少ともあるかもしれません。

そして、先の西平氏や峰久氏の指摘にもあった「無関心性」についても、考えておく必要があると思います。
マーケティング・リサーチにおいても、「回答者が、自分たちと同じ知識・関心レベルにある」という意識で設問を作っているのでは?、と感じることがよくあります。たとえば、ブランドレベルではなく、商品アイテム別に認知をとるというのは、その商品への関与が高い人ならともかく、一般の人で、そこまでの認識や記憶がある人がどの程度いるでしょうか。
そして、さらにネット調査では必ず回答をしないと先に進めないので、自分の記憶が定かではなくても、「何も知らずに、考えもせずに回答してしまう」ということを誘発しやすいということも、自覚しておく必要があるでしょう。
結果、よくわからない認知率が得られ、データが安定しないということも起こりやすくなるのだと思います。少なくとも、商品に対する関与レベルくらいは確認し、関与を軸にクロス集計をするくらいの確認はすべきでしょう。これも、「回答者は誰か?」の重要な視点です。

また、マーケティングにおいてはターゲットが重要になります。重要なのは、このターゲットでの受容性や評価、理解がどうなのか、であって他の消費者の結果ではないはずです。
単に、「XXXのユーザー」としてスクリーニングしたとしても、その中でターゲットとして考えられる人とそれ以外の人が含まれるはずですし、それらを同一レベルで分析してもいいのか、ということもあります。これも、「回答者は誰か?」を意識した視点になります。(あるいは、スクリーニングの重要性ともいえます)

さらに、狭義でのマーケティング・リサーチばかりでなく、CGM分析においても、「回答者は誰か?」は、「発言者は誰か?」となり、やはり重要な視点になります。
たとえば、amazonの書評コメント。これも「誰が書いているのか?」によって、その内容の解釈は異なってくるでしょう。ノウハウ系が好きな人なのか、学者なのか、または学生なのか、などによってその評価視点は異なるはずです。ぐるめサイトも同様です。庶民的な店が好きな人と、おしゃれな店が好きな人では、同じ店を評価してもまったく異なる評価になる可能性もあります。
おそらく、ふだんの生活で、これらのコメントを読むときは、無意識にでも発言者の文脈を読み取ろうとしていると思います。ところが、仕事でCGM分析となると、データとしてこれらを見がちになり、この「発言者は誰か?」という意識が低くなるように見受けられるのです。

もとよりマーケティング・リサーチは、世論調査に比べ、「誰に聞くのか?」は重要なポイントなので、「回答者は誰か?」ということについては、ふだんから意識されているかもしれません。
これまでも、詳細なスクリーニングをベースにリサーチを行なっている方、クロス集計でしっかり分析している方にとっては、「何をいまさら」という感じでしょう。。。
しかし、従来のようにサンプリング理論に則れば代表性のあるサンプルが得られるという時代ではない、マーケティングでも、より狭いターゲット設定が行われている、そして一人十色のライフスタイルをもち、さらにネットによって生活者の部族性が高まっている、などの背景を考えると、この「回答者は誰か?」ということが、いまのマーケティング・リサーチを考える上での重要なキーになると思い、あらためて問題提起をしてみました。

とはいえ・・・、
まずは紹介した世論調査”論”を一読されることを、お勧めします。

(う~ん・・・、うまくまとめられていない。。。)

【追記:2010/4/5】

同じころに、↓ も発行されていました。社会調査協会の機関誌です。
(ほんと、この時期は世論調査論が花ざかり・・・)

『社会と調査 第3号:小特集1・世論調査の現場から』(2009/9/30)
(社会調査協会HP)

また、西平先生は世論調査を総括した ↓ の本を出版されています。

世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで 世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで
価格:¥ 4,200(税込)
発売日:2009-12