日別アーカイブ: 2009-09-12

『デザイン・リサーチ・メソッド10』

デザイン・リサーチ・メソッド10 デザイン・リサーチ・メソッド10
価格:¥ 9,975(税込)
発売日:2009-06-18

以前から紹介したいと思いながら、いまになってしまいました。。。
価格も価格なので、気軽に買える本ではない、というのもありましたし。
内容は、世界の代表的な10のデザインファームでのリサーチメソッドを紹介するというもの。
(ただし、ここでいうデザインは、表層的な、お飾りとしてのデザインとはまったく異なります。ほんとうの意味でのデザインとは何かを考えるきっかけにもなると思います)
紹介されている10のデザインファームと事例は、以下のとおり。

●IDEO (アメリカ)~シマノ「COASTING BICYCLE」
●seymourpowell(イギリス)~ALICE「ブロードバンドルータ」、STANNAH「介護用エレベーター」
●TheAlloy(イギリス)~ARGUS「消防士用デジタルカメラ」、BT「ベビーモニター」
●tangerine(イギリス)~BRITISH AIRWAYS「ファーストクラスのシート」、AUPING「介護ベッド」
●The Division(イギリス)~パナソニックデザイン社「ブランドビジョン」、日産自動車「インテリアデザイン」
●fuseproject (アメリカ)~コカ・コーラ「Coca-Cola Refresh Recycling Bin
●CastelliDesign(イタリア)~日立製作所「スーパーテクニカルサーバ」
●AMO(オランダ)~PRADA「PRADA PROJECT」
●INNO DESIGN(韓国)~AMOREPACIFIC「LANEIGE」
●FRONT (スウェーデン)~「Sketch Furniture」

本書の編集協力を行ったトリニティ(デザインコンサルティング会社)が、「はじめに」で書いている内容が、この本の紹介を躊躇した気持ち、でも紹介したいと思った気持ちを表現してくれています。

ここに挙げた事例は、10ケースに過ぎない。またこれらは、彼らのクライアントとのかかわりによって展開された過去の実績である。企業組織の独自性、国内・海外と双方を持つ市場領域、デザインに対するユーザーの認識などを考えると、日本の企業やデザイン事務所にそのまま流用できない面もあろう。もとより、欧米のデザインアプローチを模倣する時代も終わっている。
しかし、私達はユーザーの潜在化・顕在化した欲求に対し、新しい商品やメッセージを将来にわたって永続的に届けなければならない。その欲求やデザインへの期待を理論的に導き出すこれらのデザインリサーチは、1つの解決手段として、日々のワークフローを検証する手段になると考える。また、これらを参考に、自ら独自のデザインリサーチを確立することも有効である。こうしたデザインリサーチが、ユーザーのマインドを探り当て、社内の共通言語や意識をまとめる手段として部門を越えて成立する可能性も秘めている。

「デザインリサーチ」という言葉自体は1990年代の終わり頃には語られていた、といいます。ちょうど、リサーチにおいてもポストモダンや解釈的手法が注目されていた頃にあたり、まさにパラダイム転換の時代であったといえるでしょう。
(この時代に興味がある方は、石井+石原によるマーケティング3部作をどうぞ)

しかし日本においては、いまに至っても「デザインリサーチ」という言葉も考え方も、注目されていないように思います。
(ただし、このように思うのは、もしかしたらリサーチ業界にどっぷり浸かっていたからかもしれません。企業のデザイン部門ではふつうの言葉だったかも? もしもそうだとしたら、これはこれで問題だとも思うのですが。リサーチ業界の狭さというか、限界というか・・・で)

けれど、いまは「インサイト」とか「エスノグラフィ」という言葉がもてはやされています。こんな時だからこそ、「デザインリサーチ」について学び、理解する必要があると思います。
たとえば、以下のIDEOのデザインリサーチメソッドがあります。

  • 理解(Understand)→観察(Observe)→統合(Synthesize)を経て、視覚化(Visualize)、実現化(Realize)、評価(Evaluate)、改良(Refine)のサイクルをまわし、実行(Implement)へと至る過程
  • ユーザー調査対象には、メインストリームユーザーではなく、エクストリームユーザーを選ぶ
  • 具体的なリサーチ手法として、「Analogous Observation」「Rapid Ethnography」「Card Sort」「Try it Yourself」を用いる

これらは、いま日本ではやり(?) and/or 話題(?)になっているエスノグラフィのメソッドとかなり共通する部分があります。というか、おそらくこのIDEOのメソッドをベースにしていると思います。

他に紹介されているメソッドも、ブランド分析と社会分析から目指すべき未来のブランド像を描くとか、ワークショップによるデザインアイデンティティの構築とか、狭い意味でのリサーチとは趣を異にしているといってもいいものです。
そして、これらのメソッドの共通点であり、ポイントは、「デザイナーが自らリサーチを行なうこと」。やはり、問題意識を持った人が、現場で経験し、観察し、議論することが重要なのでしょう。

これからのマーケティング・リサーチについて考えてみたい方、エスノグラフィに興味をもった方、あるいは本当の意味でのデザインについて興味がある方、ぜひ本書を読んでみてください。
さすがにデザイン関係の本だけあって、チャートや写真も豊富なので、眺めるだけでも十分におもしろいと思いますよ。
(しかし、価格がちょっと・・・、なので図書館ででも探してみてください)

◆関連本

本書で最初に紹介されているのがIDEOですが、IDEOに関しては以前も紹介したことがある、↓ の本でもそのメソッドが紹介されています。よりIDEOについて知りたい方は、こちらもどうぞ。
(ただ本書~デザイン・リサーチ・メソッドの方が、簡潔にポイントが整理されていて、理解しやすいと思います。。。)

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法 発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2002-07-25

日本企業でのデザインについて紹介されている本としては、↓ の本があげられます。
(こういう本を読むと、単にデザインリサーチという考え方を知らなかっただけなのかも、と考えさせられます)

ソーシャルイノベーションデザイン―日立デザインの挑戦 ソーシャルイノベーションデザイン―日立デザインの挑戦
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-12

◆おまけ
本文途中にあげた「石井+石原のマーケティング3部作」は、こちら ↓
コトラーのマーケティングや戦略的マーケティングに、飽き足らなくなった方、あるいは、なんか違うと感じている方に、おすすめです。
(ただし、論文集ですので、読みやすくはないです。。。)

マーケティングダイナミズム―生産と欲望の相克

マーケティングダイナミズム―生産と欲望の相克
価格:¥ 3,466(税込)
発売日:1996-08

マーケティング・インタフェイス―開発と営業の管理
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:1998-05

マーケティング・ダイアログ―意味の場としての市場 マーケティング・ダイアログ―意味の場としての市場
価格:¥ 3,465(税込)
発売日:1999-07