月別アーカイブ: 2009年7月

インテージ、ネットリサーチの実査期間を短縮 (and more…)

前回(昨日)のエントリーに関連しそうなリリースが、インテージさんから。。。

インテージの新しいインターネットリサーチ標準:実査期間短縮化のお知らせ
(インテージ社ニュースリリース:2009年7月28日)

インテージのネットリサーチでは、これまで標準4日間の一定期間実査方式により、初期回答バイアスを抑えた高品質な調査結果をご提供してきましたが、モニターの特性やこれまでの実績、検証結果などから、高品質を保持したままでの実査期間の短縮が可能となり、それに伴い納品までの日程短縮を実現しました。

これまで、インテージさんのネットリサーチは、4日間の実査を標準としてきましたが、24時間に短縮する、という内容です。「先着順回収」ではなく、あくまでも「期間回収」であることには、変わりはないのですが。

インターネットリサーチの武器のひとつが「早さ」であるとしたら、実査期間4日というのは、大きなハンデだったと推測されます。説明チャートにあるように、予備調査を行うと、かなりの時間がかかったわけですから。それを、1/4の24時間にまで短縮して、少しでもハンデを小さくするということなのでしょう。

しかし、
あくまでも「期間回収」は行う。それは、なぜなのか?
リリースでは、つぎのように説明しています。

モニターのライフスタイルによって、各モニターが調査の回答画面にアクセスできる時間帯は異なります。回答期間が短い場合は、大量配信の回答者先着順方式で見られるような早期回答者による職業・年代の偏りが生じる可能性が高くなり、回答結果にも影響をおよぼすことになります。また短時間の実査では、調査開始時間や曜日によっても回答結果にバラツキが生じ、再現性のあるデータが得られなくなります。調査期間を1ライフサイクル(24時間)で設定することで、これらを回避でき、より高品質なデータを得ることができます。

リリースでは、検証結果のグラフも提示していますので、この点については、実際にリリースをご覧になって確認してください。

さて、ここでもうひとつ同じ趣旨の検証調査を紹介します。
5年近く前の、マクロミルさんによる調査結果です。実はここでも、今回のインテージさんとほぼ同様の結果を発表しています。

総研ラボ001:回収時間による、回収率および回答者属性構成比の推移について (マクロミル・ネットリサーチ総合研究所:2004年10月15日)

回答者属性の構成比は、開始から3時間後(回収率30%前後)までは変動がみられるが、調査開始12時間後(回収率40~50%程度)以降はほぼ安定し、その後の変化はほとんどない。

以上のインテージさん、マクロミルさんの調査結果をあわせて考察すると、

  • 実査開始から3時間以内に終了した調査(セル)については、回答者属性に偏りが発生する可能性がある

といって、よさそうです。
(ただ・・・。実は、マクロミルさんの「回収率30%前後」という、かっこ書きが気になります。これは、「3時間だから」偏ると言っているのか、「回収率30%」だから偏るといっているのか。。。厳密には、このあたりが微妙なのですが。)

PS.
マクロミルさんからも、以下のリリースが発表されていました。
インテージさんが「スピード」を追求したのに対し、マクロミルさんは「コスト」を追求したということになりますね。

料金改定のお知らせ(マクロミル社ニュースリリース:2009年7月1日)

お客さまのご要望にお応えし、サンプル割付オプションサービスの値下げ、および質問ランダマイズオプションの無料化(QuickMill等 ネットリサーチ実査の基本料金内に内包)を実施いたします。

確認すると、ヤフーバリューインサイト(YVI)も。

サービス料金改定のお知らせ
(ヤフーバリューインサイト社ニュースリリース:2009年7月1日)

当社が日頃から推進しております「顧客満足追究計画」の一環としまして、お客様から寄せられたご要望にお応えし、サービス料金体系をよりシンプルで分かりやすく改良いたしました。

そして、クロス・マーケティングさんは、「パネル規模」の勝負に。

業界最大規模の調査パネル構築に向けた業務提携のお知らせ
(クロスマーケティング社ニュースリリース:2009年7月23日)

このご時勢、いろいろ動きが出てきました。。。
(他のリサーチ会社さんでもニュースリリースがありましたら、コメント欄へどうぞ。
ただし、必ずリリース(エビデンス)にリンクを貼ってください。)

「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」 by SSJ

2009/7/16の"Survey ML"で萩原さんが紹介されていた、「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」について、今日は考えてみたいと思います。

報告書は、こちら↓からダウンロードできます。
(No.42です。PDFで、ファイルサイズが5.5Mあります。)

東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブセンター

インターネット調査、郵送調査、訪問調査による違いを把握しようというものです。
これまでも、同種の調査・研究は多く行われていますが、少し前のものになってしまっていましたので、あらためて、この種の調査が行われ、公開された意義は大きいと思います。

ただ。。。
以前から思っていたのですが、この種の調査は、基本的に社会調査、世論調査としての研究で、マーケティングリサーチとしての視点からではない点に、留意が必要かと思います。
できれば、マーケティングリサーチの視点からの比較調査も必要だと思うのですが、どこから費用を得て、どこがやるのか、というのが難しいでしょうね、正直なところ。。。(第三者的な視点で、客観的に分析ができるのか、という問題がつきまといそう。。。)
さらに社会調査であれば、国や自治体が実施した、いわゆる「正統な統計調査」というものが存在するので、比較データが存在するのですが、マーケティングリサーチでは、この「比較対象」となる正統な統計調査というものが存在するのかどうか、という問題も大きいです。
こんな問題があるので、「マーケティングリサーチにおける、調査方法による差異についての実証研究」は、難しいと思われます。
なので、この研究のような、社会調査としてのリサーチ研究を参考にするしかないかな、と。

さて、結果です。
これまでの、この種の研究は、どちらかというと「インターネット調査は、統計調査とはいえない」という主張が前面に出ている印象で、インターネット否定的な論調が多かったように感じています。
しかし、この報告書では、インターネット調査ばかりでなく他の調査手法にも限界があることが指摘されている点が、これまでとは違います。
この点については、個人的には、以前から感じていました。調査がどのように行われているかを論理的に考えていけば、インターネット調査だけが否定される理由がわからないと思っていましたので。

ここでは、「終章 インターネット調査の限界と有効性」(pp.133-141)から、ポイントをあげておきます。

まず、

従来型調査をWEBモニター調査で代替することには,留意が必要なことが明らかにされた.ここでの従来型調査とは,明らかにしたい集団の特性を,当該集団(母集団)から統計的ルールに従って抽出した調査対象に対して調査を実施し,そのデータに基づいて母集団の特性を推定するものである.(p.139)

WEBモニター調査の限界を指摘したが,これは,WEB調査で,住民台帳や選挙人名簿から層化無作為抽出で調査対象を選定し,訪問面接調査や訪問留置調査で調査を実施する従来型調査(伝統的調査)を代替する場合を想定したものである.(p.140)

これは、これまでの常識を再度、確認した内容ですね。
ただし、比較対象を明確に定義している点がポイントだと思います。
つまり、「住民台帳や選挙人名簿から層化無作為抽出で調査対象を選定し,訪問面接調査や訪問留置調査で調査を実施する従来型調査(伝統的調査)を代替する場合」においては、インターネット調査に限界があるということで、どんな調査と比べても、というわけではないという点の理解が重要です。
ただ、マーケティングリサーチでは、この前提に立つ実査自体が、ほぼ不可能(住民台帳や選挙人名簿を閲覧すること自体が困難)なので、この点で限界を指摘されても、あまり意味はないかなと思います。

インターネット調査以外でも、つぎのような点が指摘されています。

従来型調査であっても,エリアサンプリングで調査対象を選定した訪問留置調査の場合では,回答者の基本属性に偏りがあることが確認された.(p.139)

訪問調査であっても回答率が低い場合には,特定の選好を持った者(「他人への信頼度」が高い人など)が調査に協力している可能性が高く,そのことが意識面の回答に偏りをもたらしている可能性が指摘できる.(p.140)

郵送ランダム調査でも回収率が低い場合は,モニター調査(WEB,郵送)に近い回答傾向があることが明らかにされた.(p.140)

「回収率が低ければ、従来型の調査でも偏りがあるんだよ」ということです。
(あたりまえといえば、あたりまえですが。ただ、この「あたりまえ」のことが、あまり「あたりまえでなくなっている」のが、いまのリサーチ業界の問題であると思えるのですが。。。なぜ、回収率が低いと偏りが出るのかについては、考えてみてください。説明できますか?)

そして、インターネット調査の有効性としては、つぎのようなことが上げられています。

調査母集団を確定できない対象に関して調査を実施する場合や,無作為抽出で調査対象を選定した場合では調査対象を十分に確保できい場合などではWEBモニター調査の有効性が高い.WEBモニター調査では,特定の属性や意識を持った層を抽出するための予備調査を容易に実施できるため,分析したい属性を持った対象者を事前に特定した後の本調査を実施出来ることによる.(p.140)

これって、マーケティングリサーチでは、ほとんどの場合に当てはまる条件のようにも思えるのですが。。。ある商品の使用者とか、認知層とか、母集団確定できないですよね?そんなリストはないことが、ほとんどでしょう。
と考えると、「マーケティングリサーチではWEBモニター調査」が有効ということになるけど、そんなに簡単なことでもないような。。。
(たとえば、「特定の属性や意識を持った層を抽出するための予備調査を容易に実施できる」とありますけど、実務となると、費用的にも、作業的にも、これがそんなに容易なことだとは思えない。。。)

さらに、

WEBモニター調査間の比較では,運営会社,モニターの構築方法(調査専用モニター,懸賞メーリングリストによるモニター),調査の回収方法(回収後に無作為抽出,先着順受付)などが異なっても,回答傾向に大きな違いがないことが明らかになった.(p.140)

WEB系リサーチ会社が行った他の研究でも、回収方法(回収後無作為抽出と先着順)による差は無い、と公表しているものを見た記憶がありますが、正直にいうと、この結果は鵜呑みにできないと感じています。
これらの結果は、あくまでも「それなりのサンプル数を確保する場合」と考えた方がいいのではないでしょうか?(今回の調査では1000サンプルベースで、集計しています。)
確かに、1000サンプルも集まれば、偏りは小さくなると思いますが、実務上はどうですか?
セル割付を行う場合、1セル100サンプルにも満たない場合も少なく無いのでは?(あくまでも、セル単位での話です。総サンプル数が1000サンプルだとしても、たとえば男女×10歳刻み年代で設計すると、1セルは100サンプルになります。)
たとえば、1セル=50サンプルくらいで設計されているとしたら?あっという間に調査終了しませんか?その場合、“回答できる人”に、ある特徴があると想定できませんか?
こうやって考えると、この「運営会社、モニター構築方法、回収方法による、回答傾向に大きな違いはない」という結論は、全面的に肯定できないように思います。(あくまで仮説です、実証できていないので。)

なんか、全般に否定的なコメントになってしまったでしょうか。。。
否定しているわけではなく、この研究の結果自体は、十分に理解しておいてほしいことばかりです。
ただ、この研究が「社会調査の視点に立っている」ことも含めて、結果の読み方には注意をしてほしい、ということです。

上記含め、調査手法について考えておいてほしいポイントをまとめます。

  • WEB調査ばかりでなく、他の調査手法でも、回答に偏りがでる場合がある。
  • とくに、「回収率」が重要な指標となり、回収率が低い場合は、どんな調査手法でも、偏りが発生する。
  • WEBモニター調査において、「回収方法による回答差はない」といわれているが、これはすべての場合において正しいとは限らないのではないか(サンプル数が十分に大きい場合に限定される可能性がある)。

一言でいえば、WEB調査に限らず、あらゆる調査手法には「偏り」の可能性があるということです。では、どうすればいいのか?

  • 従来のように「母集団」を所与のもの、規定されているものと考えずに、
    「集まったサンプルの母集団は、どんな人たちか?」ということを、
    常に考えて分析することが必要

ということではないでしょうか。
予備調査で「女性30代」と規定してサンプルを回収しても、実際に集まったサンプルは「どんな女性30代なのか」を考えた上で、分析する必要があるのでは?ということです。
未既婚比率やライフステージ、職業などの基本的な属性はもとより、イノベータ度や情報感度、その商品カテゴリーへの関与度や利用状況など、調査毎に集まったサンプルが異なる可能性もある、くらいの気持ちが必要なのかもしれません。

あるいは、

  • WEB調査でも、回収率を考えた実査コントロールが必要

ということもあるでしょう。
WEB調査に限らず、回収率が低ければ、偏りが生じる可能性があるというのが、今回の研究のポイントだと思っています。
となると、WEB調査でも回収率をしっかりと考えた実査コントロールが、本来は大切なのだと思います。ただ、これをきちんと行うには手間と時間=費用がかかり、せっかくのWEB調査の利点が損なわれることになるでしょう。
なので、ここは是々非々で、ある程度の代表性や精度が欲しい場合と、とにかく安く・早くの場合との使い分けが、大切ではないかと感じています。

以上、SSJの「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」を題材に、調査手法について考えてみました。ただ、ここに書いてある内容を鵜呑みにするだけでなく、皆さんも、報告書にぜひ目を通してください。
そして、今回のblogの内容では、「なぜ?」の部分については触れていません。(なぜ偏りがでるのか?、なぜ回収率がポイントなのか?等です)
また、調査手法による偏りがあることがわかったとして、では、どういう偏りが起こるのか、どういう時にどのような調査手法が適しているのか、等についても触れていません。
この点は、近いうちに、このblogでも考えてみたいと思いますが、しばし皆さんで考えてみてください。

「行動観察研究所」by大阪ガス

7月に入って、個人的な大事業に追われ、新しい情報に接することも、新しい本を読むこともままならず、当然このblogの更新も、しばしお預けとなっていました。
が、なんとか最初の関門は乗り越えたので、ぼちぼちと復活。

最初は、肩慣らし程度に、備忘録から。

以前紹介した↓の記事でもおわかりのように、大阪ガスはエスノグラフィに力を入れている企業のひとつといえると思います。

大阪ガス、調査手法「エスノグラフィー」をサービス改善などに活用、グループ会社にノウハウ伝授し調査の外販も(NIKKEI BP/IT Pro:2008/12/17)

この記事の中でも、

同社は2005年からエスノグラフィーに基づく調査サービスを外販するなど本腰を入れ始めた

とあるのですが、今回「研究所」という形で、さらに発展させたということでしょうか。

それが、こちら↓です。

行動観察研究所

7月7日にHPをオープンしたばかりのようですが、「研究所」と銘打つだけあり、ビジネス的な側面ばかりでなく、理論的背景などについてのコラム等も充実しそうで、期待したいです。

(この研究所に関しては、こちら↓のblogの紹介で知りました。あわせてご覧ください。)

大阪ガスの行動観察研究所(人机交互論さんのblog:2008/7/18)

田下氏(インテージ)&杉本氏(マクロミル)インタビュー

もう一本、紹介記事になりますが・・・。

以前、コメントで萬さんよりご紹介いただいたテレビ番組「賢者の選択」、WEBでご覧いただけます。インテージ田下社長だけでなく、マクロミル杉本社長のインタビューの回もありましたので、あわせてご紹介。

テレビ番組「賢者の選択」オフィシャルサイト

(「賢者一覧」→「情報処理・提供サービス」と辿ってください。
 一覧の中に、田下氏、杉本氏の回があります。
 田下氏:2009年6月13日放送、杉本氏:2007年6月2日放送)

現在の仕事についての語りはあまり多くなく、むしろ「人となり」と「今に至る道」をメインとしたインタビュー内容になっています。

ですので、直接リサーチに役立つ内容というわけではないのですが・・・。
それぞれの会社の歴史について知りたい、社長のこれまでの人生を知りたい、創業や会社の転機でどのような判断をしたか知りたい、という方はどうぞ。
(現職の方より、これから調査業界、マーケティング・リサーチ業界に入ってみたいという方むけかもしれませんね。とくに、この2社を狙っている方^^;)

1本50分近い内容になっていますので、お時間のあるときにどうぞ。




「ビジネスエスノグラフィ実践コース」by日本能率協会

このblogでも検索上位の単語になっている「エスノグラフィ」、皆さんの関心が高いことがうかがえます。

そこで、具体的に「エスノグラフィって、どうやってやるの?」という方のために、研修コースのご紹介です。
JMA(日本能率協会)で、下記↓の講座が予定されています。

「ビジネスエスノグラフィ実践コース」(日本能率協会)

<さらに詳しいプログラムは → こちら(PDFです) >

まる一日の研修×5日、受講料もそれなりのお値段となってますが。。。
(個人的には、参加したいのはやまやまですが、この金額はちょっと手が出ない・・・。)

この講座、昨年にも実施されています。たぶん、今回が2回目の講座となると思うのですが、2回目を実施するということは、それなりに評判がよかったのではないかと思います。

多摩大大学院教授の紺野先生、博報堂イノベーション・ラボの田村氏、さらに5日目のメンターに名を連ねている方々、いずれもエスノグラフィの分野では第一人者で、エスノグラフィを学ぶには、いまの日本では最良の方々ではないかと思います。
講座の内容も、座学による講義だけでなく、フィールドワークを伴う実践が含まれているのもいいです。エスノグラフィは、実践してみないとよくわからないことが多いと思いますので。

参考文献としてあげられているのは、こちら↓。いずれも良書だと思います。

知識デザイン企業 知識デザイン企業
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2008-02

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法 発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2002-07-25

イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材 イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2006-06

興味をもたれた方は、どうぞ。
(ただ、実際に参加したことがあるわけではないので、この点は留意の上、ご判断ください。あくまでも講師陣と講座内容から推測してのお勧めです。参加のご判断は、皆さんご自身の責任でお願いします。)