月別アーカイブ: 2007年6月

『売れないのは誰のせい?』

売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220) 売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2007-06

「最新マーケティング入門」というサブタイトルで手に取りましたが、著者もblogで言っているように、“マーケティングをネタにしたエッセイ的な読み物”というのがあたっているような気がします。

まずは、もくじ。

序章  二つの「買ってください」
第1章 市場にingをつける発想
第2章 ブランドは魔法の杖か
第3章 急増した「日本人の種類」
第4章 ああ言えばこう買う?
第5章 テレビは本当に強いのか
終章  他者を知るということ

この本を読むと、マーケティングの基礎的なことが理解できるという内容では決してありません。読むうちに、「確かにそういうことも考えないといけないね」、ということを感じさせてくれる内容だと思います。
ただ、著者が広告代理店出身ゆえか、基本的には広告やコミュニケーションを軸にした展開が主流になっていますので、商品開発とか、価格・流通についての内容を期待している人には、向かないかもしれませんが・・・。

で、著者がおそらくメッセージとして伝えたかったことは、つぎの一文だと思いました。
(もしかしたら、こちらがそう思っているので、琴線に触れただけなのかもしれませんが)

一言で言えば、他者を知ろうとすること。それがマーケティングの原点だと思う。

そして、「他者のことを知る」ためにはどうしたらいいか。つぎのように続けます。

何も特別に難しいことをするわけではない。だが、まず手をつけるのはリサーチにも少々お金や人を割くことであろう。消費者の声を聞くには手間がかかるしお金もいる。だが、それはマーケティングに関わるお金を再配分すれば捻出できるだろう。先の章にも書いたようなテレビCMのより効果的な利用によって十分可能だと思う。
何せ、テレビCMのためのコストはかなり高い。リサーチの世界とはゼロがふたつ、いや三つ違うようなお金が動いている。もちろんテレビCMも効く場合があるのだが、そのあり方を冷静に見直した企業からつぎのステージへ進んでいくだろう。

ありがとうございます。ほんとに、広告費(約6兆円)の1割でもリサーチに回していただければ・・・。

最近、マーケティング・リサーチ関連の本が結構出版され、マーケティング系の本も顧客を知ること、感じること、一緒につくることをテーマとしたものが多いように感じています。きっと、ほんとうに顧客を理解することは難しいと感じている人が増えたからではないかと、思っています。
さて、世のリサーチ会社はこのような状況を感じているのか、そして、それに応える努力を行っているのか。

「やっぱり広告に費用を回した方が売上に繋がるよ」となるか、「リサーチって大切だね、もう少し費用をかけないと」となるか・・・。

PS.
「顧客理解」の視点からの本で、わりとおもしろいと思ったものをいくつか。

できない人ほど、データに頼る できない人ほど、データに頼る
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2007-04-20

(↑この本は、こちらのエントリーでも紹介しています)

超地域密着マーケティングのススメ 超地域密着マーケティングのススメ
価格:¥ 1,523(税込)
発売日:2007-03-31

顧客力を高める 顧客力を高める
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-05-25

IP+IS=ヤフーバリューインサイト

Dashさんから情報をいただきました。

インフォプラントとインタースコープが合併という記事は以前紹介しています(こちら)が、正式に社名や体制が発表になっています。

社名は、「ヤフーバリューインサイト」。

知らなかったのですが、ヤフーの子会社で「ヤフー」という名前を冠するのは、初めてのことらしいです。ヤフーの井上社長も取締役に名前を連ねていますし、それだけ力が入っているということなのでしょうか。(このことは、インタースコープの創業者の一人である平石氏のblogから知りました。創業者としての親心なようなものが伝わります。。。)

具体的なリリースは、↓こちらを参照してください。
(ヤフーのものをリンクしています。インフォプラントもインタースコープも、同時にリリースを発表しているようですが、まったく同じ内容です。)

株式会社インフォプラントと株式会社インタースコープの合併に関するお知らせ

この文章の中で、いくつか気になった点を、コメントしておきます。
(社名に「インサイト」を入れたのか・・・、と思ったのが最初ですが、このことは置いておいて^^;)

新会社の企業ミッションは「市場の今から、明日の価値を生み出すマーケティングパートナー」

「マーケティングパートナー」と謳っています、リサーチと出していないところがいいです。これからは、リサーチ・データを提供していくだけではなく、「マーケティングパートナー」となることが、リサーチ会社には求められていると思いますので。真にマーケティングパートナーとなることができると、強い会社になると思いますし、リサーチ会社もマーケティングパートナーとなれるんだという成功事例を作っていただき、業界の地位を高いものにしていっていただきたいと思います(いま、企業のマーケティングパートナーといえば、広告代理店が主ですから。。。)

Yahoo!リサーチモニターを含めた約150万人(重複モニターを除く)のアンケートモニター

これもある意味、興味深い。記事下方にある各社のモニターを純粋に足し合わせると、ヤフー135万人+インフォプラント37万人+インタースコープ28万人で、200万人。単純に考えると、重複モニターが50万人くらいいるということですか?この3社以外でも、ネットモニターの登録者は、結構重複しているんだろうな・・・、と思います。
(あまりいないとは思いますが)このことからすると、同じテーマの調査を複数の会社に発注して回収数を確保することは、もしかしたら同じ回答者から複数の回答を得ることになる可能性も高いということを頭においておいた方がよさそうですね。

つぎのセンテンスも興味深いです。

さまざまな調査ニーズに対応できるサービスラインナップに加え、会場調査・グループインタビューなどのコンベンショナルリサーチも拡充してまいります。

これまでも、会場調査やグループインタビューのリクルーティング業務は行ってきたと思いますが、今後は実査部分まで含めて行っていくということでしょうか?となると、いまの両社(3社?)のスタッフではノウハウ不足のように思うのですが、どこかCLTやGIの専門会社を買収あるいは提携していくことになるのでしょうか?このあたりは、まだ目が離せないところです。

さらに興味深いのはつぎのパラグラフ。今後の、ヤフーのリサーチ事業についての言及です。

今後は、Yahoo!のリサーチのモニターを活用したリサーチサービスの新商品開発や企画推進、Yahoo! JAPANユーザーの膨大なアクセスログや購買データの活用など、インターネット・マーケティング・リサーチを軸により付加価値の高いサービスを拡充することにより、インターネットリサーチ市場でのナンバーワンを質・量ともに目指してまいります。

「アクセスログや購買データの活用など」とあります。行動ターゲティングや文脈型ターゲティングの広告はよく聞きますが、これをリサーチに使う?、ということ?この文章ではよくわかりませんが・・・。もしも、このような文脈だとして、これが実現するとなると、他の調査会社では決してまねのできない仕組みが構築されますね。

それと、気になったのは、これまでヤフーと共同していたインテージはどうするのかということ。これも、Dashさんのコメントにあったのですが、時を同じくして、インテージからもリリースが発表されています。

ヤフー子会社へのモニター利用拡大に関するお知らせ

これまでどおりです、ということのようです。

いずれにしても、これでネット調査に関しては、マクロミルvsヤフーという構図になりそうです。

(〆の文章がいつも同じになってしまうので、今回は割愛します・・・)

アイトラッキング

この記事↓に関連して、結構あちらこちらのblogで引用されているようなので、備忘録もかねてご紹介。(しかし、昨年9月~10月調査なのに、なんでいまごろリリースなんだろう・・・)

検索ユーザーの目線はどう動く~Yahoo!とGoogleで違い(ITmediaNews)

この記事で行われているのは、「アイトラッキング」という調査手法です。
手法自体は、結構前から行われていたものですが、以前はカメラのようなものを装着していたのが、カメラなしでできるようになっているようです。

今では、WEBサイトのユーザビリティ調査に使われることが多いようですが、広告評価など、他にも応用できる範囲は結構あると思います。
ただ、アイトラッキングで判るのは、「どこを見ているのか」という事実のみであって、「なぜ、そこを見たのか」「それが、よい印象を与えているのか、よくない印象を与えているのか」といった理由(Causal dataといったりします)については、やはりインタビューなどを絡めないとわからないということです。
いまでは、アイトラッキングを行う会社も増えているようですが(ただ、いわゆる「調査会社」は、少ないようです・・・)、このあたりの見極めも行ったうえで、発注することが必要だと思います。(「アイトラッキング」で検索すると、いろいろな会社がヒットします。)

関連して、いくつかのサイトを紹介しておきます。
もう少し具体的に、アイトラッキングを使った分析例を紹介しているものとしては、↓のサイトがわかりやすいかもしれません。今後、シリーズ化されていくようなので、期待しているのですが。

実践! Webユーザビリティ研究室(INTERNET watch)

さらに、かなり骨っぽいところでは、↓のサイトを。
理論的な背景から含め、説明を行っています。長文です・・・。
(ただし会員制のサイトですので、オープンコンテンツでないと、見られないかもしれません。)

見えないニーズを捉える方法(J-marketing.net)

最後に少々蛇足を。
「実践!Webユーザビリティ研究室」を見ていただくとわかると思うのですが、人という動物は、かなり「先入観」というものに囚われています。このところ、「脳」関係の本を読み重ねているのですが、読めば読むほど、リサーチってなんだろう?、ほんとにリサーチで人の考えていることがわかるのだろうかと思わされます。(だから、Z-MET調査とか、エスノグラフィなどが注目されてくるのだとも、思います。)
先入観のような「脳」の働きを理解するとしないとでは、リサーチの設計や結果の読み方にかなり違いが出てくるだろうなと・・・。
ほんとに、リサーチって難しい・・・。
(「脳」については、近いうちにエントリーしていこうと思っています。)

『マーケティング調査入門』

マーケティング調査入門―情報の収集と分析 マーケティング調査入門―情報の収集と分析
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2007-04

しばらく更新をしていませんでしたが・・・。
再開第一弾は、本の紹介から(リハビリも兼ねて)。。。

最近、マーケティング・リサーチに関する新刊が多いようですが、基礎をきっちりと学びたいという方には、この本はお勧めです(少々高いですが)。
著者は学者の方なので、教科書的で少々硬い記述になっていますが、理論的なベースはしっかりしています。

まずは、もくじから。

1章 マーケティングの基礎
2章 マーケティング調査の概要
3章 定量調査の方法
4章 定性調査の方法
5章 マーケティング調査の課題
6章 マーケティング調査の進め方
7章 調査票の設計
8章 調査対象者の選定
9章 調査の実査と集計・分析
10章 統計的分析の基礎
11章 多変量解析の基礎
12章 テキストマイニングの基礎
13章 市場細分化とその方法
14章 ハイテク調査の現状と動向

このもくじでもわかるように、まず「マーケティング」についての基礎的な部分を押さえてから、マーケティング・リサーチの詳細に入っていっている、また最近のリサーチの焦点になっている「テキストマイニング」や「ハイテク調査」についても章を割いているのが本書の特徴です。

このblogでも、「リサーチャーは、マーケティング・リサーチについての理論を知ることはもちろん、マーケティングについての理解も欠かせない」ということを書いてきたつもりですが、この本の著者も「はじめに」で、つぎのように書いています。

高度の専門知識と豊富な経験で武装するリサーチャーは、マーケティング担当者(マーケター)の意思決定に不可欠な情報を提供できると期待されてきたし、成功の事例も少なくない。しかし、高度の専門性が、逆に問題の本質を隠し、決定的な失敗をもたらした事例もある。(・・・中略・・・)すなわち、専門家による調査は、成功を保証する十分条件ではない。困難な問題に直面している担当者こそが、問題解決に必要な情報を知っているのであり、自らが情報の探索・分析・解釈に主導的な役割を果たすべきである。

ここまでですと、「リサーチャーに任せるのではなく、マーケターがリサーチの知識を持って、自ら探索・分析・解釈を行え」と言っているように思えますが、続けて、つぎのように言っています。

すなわち、マーケターは、100年の歴史を通じて開発された数多くの調査・分析法の特徴を理解し、問題に応じて適切な方法を選択する基礎知識を持つべきである。この知識なしに調査を行うと無駄な結果を生むだけでなく、かえって誤った結論を導くことになる。このため、問題解決の助言者としてリサーチャーの役割は重要であり、リサーチャーはマーケターの直面している問題を十分に理解すべきである。すなわち、マーケターとリサーチャーの密接な協同(コラボレーション)こそがマーケティング調査の不可欠な条件である。

リサーチャーもマーケティングの知識をもつべきであり、マーケターもリサーチの知識を持つべきである。そして、両者が密接に協同してこそ、はじめて有意義なマーケティング・リサーチが実現するということだと思います。大賛成です。意義のある結果を得るためには、マーケターとリサーチャーが共通の問題意識や課題を、同じレベルで共有することが不可欠ですから。

この「はじめに」を読んでいただけるとわかるように、本書は「マーケター」がリサーチの基礎を学ぶことを主眼にしていますが、「リサーチャー」が基礎的な理論をマーケティングの視点を踏まえながら再度学ぶのにも、適していると思います。
マーケティング・リサーチでよく取り上げられる事例である、「ネスカフェのインスタントコーヒー価値の発見」「アサヒスーパードライの開発」「ニューコークの失敗」「花王の調査システム」「DAKARAの開発」の事例なども(ポイントだけですが)取り上げられています。

そして、巻末にある参考文献が秀逸です。
本書を読んで、もっと詳しい内容を知りたいと思ったら、参考文献を容易に探すことができるのは、とてもありがたいです。

実務家の書いた本は読みやすく身近に感じることができますが、たまにはこのような学者の書いた理論書をきちんと読むのも必要ですね。