owl さて、前回のつづき。また、JMRAの数字をみながら話をするね(→こちら)
まず、取引先業種別売上高構成比をみてごらん。一番大きいのはどの業種?
P夫 あ、広告代理店・・・。
owl 確かにこの表のつくりだと、そうなるね。だけど、製造業をまとめると4割くらいになる。やっぱり、リサーチを多くやっているのはメーカー、その中でも「食品」と「化学・医薬品」、「自動車」ということになる。これらの業種の主要企業を押さえている調査会社は強いよね。
とはいえ、確かに「広告代理店」の2割は大きい。広告代理店に調査を発注しているクライアントが少なくないといったのも、うなづけるでしょ?それと、「調査機関」も7%くらいある。業界内での下請け構造も結構あるということだよね。これがいいのか、悪いのかは別にして。。。
Q子 わあ!インターネット調査、すごいですね。
owl 調査手法別の売上高構成比だね。正直、これほど一気にインタネット調査にシフトするとは思わなかった。前回話をしたJMRA加盟社の問題もあるけど、2002年の8%から2005年には17%、アドホック調査だけみるとすでに30%に達しようというんだから。
ただ、これは「売上高構成比」であることに注意しないといけない。単価のことを考えると、一般的に、他の調査手法に比べてインターネット調査は安いわけだから、本数ベースでみると、もしかしたらアドホック調査ではインターネット調査が5割を超えている可能性もある。ある意味、危険なことだとも思っているんだけど。発注する側=データを活用する側が、きちんとインターネット調査の特徴やくせを理解した上で、こんな数字になっていればいいんだけど。ただただ、安い、早いだけで、インターネット調査に流れていっているとすると、あまりいい傾向とはいえない。
Q子 すいません・・・、「アドホック調査」ってなんですか?
owl アドホック調査は単発調査ともいって、あるひとつのテーマ・課題について、企画から分析までの業務が一回で終了する調査のことをいうんだ。だからこそ、早い、安いインターネットの強みが活きてくる。表の中に「継続調査」ってあるでしょ?これは、同じテーマについて、ある期間をおいて何回も繰り返しやるタイプの調査で、これがアドホック調査の対極になる。調査を行う目的がまったく異なるんだよね。
このあたりの話も、おいおいしていくから。
P夫 訪問調査とか郵送調査は右肩下がりですね・・・。
owl 訪問や郵送調査はインターネット調査で代替できる場合が多いから、こういう結果になるよ。他にも、いろいろな要因はあるんだけど。
一方で、会場調査とか定性調査はそんなに落ち込んでいないでしょ?これは、会場・定性調査のもつ特徴、強みがあるから。この辺りのことも、きちんと理解して調査を使い分けないといけないよね。
P夫 ふむ・・・。なんでもインターネットでやればいいというわけでもないんですね。
owl では、報告形態別売上高構成比をみてごらん。「調査票・データ・統計表納品」で5割でしょ?これは、「分析はいらないから、データだけくださ~い」というパターンだね。いわゆる「情報の中間流通業」、データを収めるだけ・・・。
対して、「報告書・勧告」「コンサル等」があわせて5割。ただ、数年前に比べると数値が下がっているでしょ?JMRA加盟社の問題があるから単純には比較できないんだけど、業界の歴史で話したことが奇しくも裏づけられたとみるべきか、調査業界の底辺ではデータ納品だけの会社も多かったとみるべきか。いずれにしても、あまり喜ばしいことではないよね。。。
Q子 調査会社の話をしてください。ますます、調査会社っていろいろあるように思えてきました。就職活動、どうしたらいいんだろう・・・。
owl そうだね、調査会社といってもいろいろなタイプがある。確かに、みんな「ウチは調査会社です」っていうけどね。これは、Q子さんみたいに就職をしようという人にとっても問題だけど、仕事を頼もうとする企業にとっても問題になるよね。分析まで頼もうと思っていてもデータ納品しかしません、と言われたら困るから。
まず、「マーケティング・リサーチ業界」にあった分類を確認しようか。どんな分類をしていた?
Q子 えーと。「装置型企業」と「非装置型企業」って分けてありました。「装置型企業」がインテージとかビデオリサーチ、ACニールセンなどがあたるって。あれ?前回、売上が上位の会社にあがったところだ。
owl 装置型企業というのは、特定の装置を使わないと調査ができないデータを集めて、それを独占的に売っているんだ。たとえば、ビデオリサーチの視聴率調査を考えてもらえばいいんだけど。他の会社がこれから参入しようにも、莫大な費用がかかるし、ビデオリサーチがこれまで築き上げてきた過去データはどうしようもない。結果、参入障壁が高いし、利益も取れるという構造になっている。なので、装置型企業は売上も大きいし、資本力もある。経営面からみれば、この業界の中では優良企業だよね。インターネット調査のマクロミルも、いってみれば装置型企業に分類されるかな。
P夫 じゃあ、非装置型っていうのは?
owl 「マーケティング・リサーチ業界」の本ではこう書いてある。
大資本が要求される装置型企業とは逆の調査会社を一般に非装置型の調査会社と呼びます。これらはそう大きな資本が必要なわけではありません。リサーチャー一人ひとりのマンパワーを調査に活かした裁量労働型ともいえる活動を続けています。言ってみれば、「頭」と「足」を使っているわけです。
前回、調査会社では売上規模の小さな会社がいっぱいあるとわかったよね。その会社のほとんどがこの非装置型企業になる。
P夫 ていうか、さっきでてきた3社以外は、非装置型ということですよね?
owl そういっても構わないかな。ただ、装置型といわれるインテージやビデオリサーチ、ACニールセンだって、非装置型的な業務も行っているし、非装置型の企業でも、規模こそ小さいけれど装置型的な業務も行っている。
だから、確かに”業態”という視点ではこの分類は正しいけど、調査会社を選ぶ基準にはなりにくいと思う。
他にも、こんな分類の方法もある。電通リサーチや日経リサーチみたいに親会社の系列の会社と親会社を持たない独立系の会社。また、最近増えてきているのが、外資系リサーチ会社の系列会社と系列以外の会社。
P夫 リサーチ業界もM&Aですか?
owl そうともいえるのかな・・・。どこの業界でもそうだけど、国際的な合従連衡は、この業界でも起こっている。なぜかというと、国際的な企業が増えたからだよ。日本にも外資の企業がどんどん参入しているでしょ?逆に、日本企業が海外に進出する場合も増えているけど。すると、どうなるか?・・・。
クライアントにとって、それぞれの国で違う調査会社を使うのはとても非効率なんだ。どこの国でも同じリサーチ会社で調査をすることができれば、ノウハウも一緒、データも一緒、クライアントにとっては同じレベルで各国のデータを比べることができる。だから、日本でも本国で使っているリサーチ会社を使って、同じフレーム・ノウハウで調査をしたいと思うのはあたりまえ。となると、担当リサーチ会社は、クライアントが進出した日本に系列の調査会社が欲しい。一方で日本の調査会社は、これまで大クライアントだった外資企業の売上を持っていかれると経営的に厳しくなるし、系列に入ればそのリサーチ会社の他のクライアントの仕事ができるかもしれない、さらに新たなノウハウが入手できるというメリットもある。お互いの利害が一致すれば、これはクライアントも含めて、Win-Win-Winの関係が築けるからね。
これまでも、日本で活動していた外資系の企業はいっぱいあったけど、ここ数年でこのような傾向が強まっているみたいなんだ。
Q子 そうなると、日本資本の調査会社ってたいへんですね。英語、もっと勉強しておこうかな・・・。
owl 英語は絶対にやっておくべきだよ、選択肢が広がるから。ほんと、痛感してるよ・・・。
閑話休題。確かに海外のリサーチ会社の系列ではない、それも非装置型で、独立系の会社は厳しくなるかもしれない。他社に無い、それも高いレベルで差別性のある強みをもっていれば別だけどね。
私見なんだけど、こういう会社もある程度の規模を目指して、それこそ合併するというのも選択肢に入るんじゃないかと思うんだ。これからは、少なくともアジア対応は必要になるだろうし、インターネット調査だってシステム投資がかかる、ITを活用した新たな調査技術の開発も必要になるだろうし。そうなると、どうしても資本力が必要になるからね。この辺りを、どう考えているのか・・・。
Q子 ふむふむ、メモメモ・・・。
owl だから、勝手な私見だから(^^;
で、話を戻すけど、日本のリサーチ業界をどう分類するか。考えたのは、『コストを追求するか、差別性を追及するか』という軸と、『データ収集に集中するか、マーケティング的な要素を強めるか』という軸の2つ。この2軸で整理していくと、いまの調査会社は6つのタイプに分けることができそうなんだ。
もっとも多いのは、総合リサーチ会社。とりあえず調査ならなんでも対応できます、マーケがわかる人間も数名います、という会社。歴史のある調査会社は、ほとんどここに入ると思うんだけど、コストを追求するわけでも差別性を追及するわけでもなく、またデータ収集に特化するわけでもマーケティング力を強めるわけでもない。戦略論でいうと、“stuck in the middle”という、もっとも危険なポジションだと思うんだけどね・・・。
そして、コスト追求型のインターネット調査会社。これまでは、このコスト追求戦略でシェアを獲ってきたよね。ただ、もうコストだけでは勝負することが難しくなっているので、より効率を求めてデータ収集特化に向かうか、差別性を求めてマーケティング力をつけていくか、どちらかの選択が必要な岐路にあると思う。
3つめは、データ収集に特化している、いわゆる実査会社。極論すると、調査員さんの派遣会社みたいな感じかな。このタイプもかなり苦しくなっていると思う。だって、インターネット調査にシェアを奪われているんだから。だけど、この会社にはがんばってほしいとも思うんだ。これまで、リサーチ業界を支えてきてくれた調査員さん達のためにも。
4つめは、定性調査に特化している会社で、いまでもそれなりの数の会社がある。定性調査は、そんなにシェアを落としていないし、むしろこれからは定性調査の必要性は高まると思うから、比較的安泰かもしれない。それに仕事自体、定量調査に比べると面白いと思うし・・・。これも私見です。。。
5つめは、特定の業界やテーマに特化した会社。たとえば、CSに特化しているJDパワーとか、PC系とかIT系に特化しているGfkとか。このタイプの会社も、差別性が高いから、テーマや業界についての知見を高めて、社会への発信力を高めれば、なかなか他の会社に置き換わることはないだろうね。そういえば、JDパワーの創業者が書いたCSに関する本がでていたね、これも後で紹介と。
最後に、マーケティング力を高めて、コンサル力も持った会社。日本ではまだまだ少ないし、広告代理店やシンクタンクという強力なライバルもいる。けど、自前でリサーチをする能力を持って、リサーチ&コンサルを完結することができれば、これは高い差別性になると思うんだ。日本ではJMRグループくらいだろうか、&Dという会社もそういう臭いを感じる。これらの会社をいわゆる「調査会社」と位置づけるのはどうかとも思うけど、一応JMRAの会員社でもあるので。
Q子 ・・・・・・。長講釈、ありがとうございました(^^;
でも、とってもおもしろかったし、参考になりました。
P夫 でも、それぞれの会社がどのグループにあてはまるのかって、どうするればわかるんですか?どこにも、そんな情報ないし。。。どうやって、調査会社を選べばいいんですか?
owl ホームページをみれば、その会社のスタンスがある程度は、わかるとは思う。ただ、これはあくまでスタンスであって、実際にできるかどうかは別だしね。
よし、では次回は調査会社の選び方について、考えてみよう。
また本題に入れない、ぶつぶつ・・・。